政府は目下の来年度予算編成において、「待機児童ゼロ」に必要な施策の追加財源を調整しているが、FNNの取材で、児童手当の企業拠出金を増額するのと引き換えに、子育てサポートに積極的な「くるみん認定」を受けた中小企業に助成金を出す方向で、経済界と調整に入ったことがわかった。

その背景を紐解くと、「待機児童解消」という子育て・少子化対策の財源を、同じ子育て予算の中から捻出するか、それ以外から捻出するかで苦慮する政府の姿が垣間見える。

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難航する「待機児童ゼロ」の財源

そもそも来年度予算編成においては、菅首相が掲げる「待機児童ゼロ」の実現に向け必要な追加財源として、保育の受け皿14万人分の1600億円が新たに必要とされている。

政府関係者によると、いま政府が検討しているのが、このうち500億円を比較的高所得の世帯の子ども1人あたり月5000円を支給している「児童手当の特例給付」を廃止して捻出、残りの1100億円を児童手当の企業からの拠出金の増額で捻出しようという案だ。

しかしこの児童手当の特例給付見直しについては、公明党の石井幹事長が11月27日の記者会見で「児童手当からではなく、予算全体の中で捻出していくのが本来のあり方だ」と反対するなど、与党内からも疑問の声が上がっている。

経済界の理解を得るため浮上した中小「くるみん企業」への助成

さらに財源確保のために新たに拠出金を求められる経済界も「コロナ禍で企業にこれ以上の拠出金を強いるのか」と強く反発した。

そこで政府は、拠出金が引き上げられる企業の負担を軽減することで納得を得ようと、育児をしやすい職場環境を整備し、「くるみん認定」という厚労省のお墨付きを受けた中小企業に対し、助成金を出す方向で調整に入った。

「くるみん認定」は、育児休業の取りやすさや労働時間など、一定の基準を満たした企業が厚生労働大臣から「子育てサポート企業」のを受ける制度で、認定された企業は、赤ちゃんを包む「おくるみ」をイメージした「くるみんマーク」をPRに使えるなどのメリットがある。

政府としてはこの「くるみん認定」のうち中小企業に新たに助成金を出すことで、拠出金増による中小企業の経営悪化を軽減し、男女問わず育休取得率が低い中小企業の状況の改善につなげたい考えだ。苦肉の策かもしれないが、経済界の理解を得つつ一石二鳥の効果を狙った施策ともいえる。

待機児童解消予算は必要?女性の就業率8割で待機児童数の増加頭打ちか

このように、待機児童ゼロ実現のための財源をなんとか確保しようとしている政府だが、実はその必要性に疑問を呈する向きもある。

待機児童数は女性の就業率向上を背景に増加していると考えられていて、厚生労働省の調べによると女性の就業率は82%を上限に上がり続けるという。しかし女性の就業率は2020年度時点ですでに77%に達している。つまり待機児童数の増加傾向もいずれ頭打ちになると考えられるのだ。

少子化トレンドで「近い将来に供給過剰に」との懸念も

しかも厚生労働省によると、2019年度の出生数は86万5239人で合計特殊出生率は前年度の1.42から1.36に減少している。さらに今年は新型コロナの影響で5~7月に受理した全国自治体の妊娠届の件数が11.4%ものマイナスになっていて、来年出生する子どもの数は大幅に減る見通しだ。

そうした状況下で保育の受け皿として新たに必要と指摘されている「14万人分」という数については、内閣府の子ども子育て会議で有識者から「整備は着実に行われる必要がある」としつつ次のような指摘も出ている。

「人口減少がこれから進んでいくことを踏まえると、このトレンドをどうするか、それをそろそろ考えたほうがいいかと思います。具体的に申し上げますと、将来人口推計はこれから10年間で出生数が約8万人以上減るという推計が出ております。これは、0~2歳で考えると、24万人分が減るわけですよね。ですので、今必要な保育を供給することは必要ですが、近い将来に供給過剰になってしまい、それが保育園等の経営や保育士が生涯働く機会を損なわないように整備することが必要ではないかと思います」

(「第53回子ども子育て会議議事録」より)

待機児童は都市部への人口流入など地域の特性が大きく関わるため全国平均で算出するとその地域差が反映できず実態把握が難しい面もあるが、仮に供給過剰になるかもしれない保育の受け皿に予算をかけようとしているのなら、その必要性は慎重に検討されるべきだといえそうだ。

未来を見すえた「切れ目のない少子化対策」の必要性

坂本少子化担当大臣は会見で「望む人の結婚から出産、そして子育て、中高大と、切れ目のない対策をやっていき、それにふさわしい財源を確保することが最も私たちが進めていかなければならない少子化対策」だと述べている。

政府関係者の中からは、児童手当の特例給付を廃止してできた財源は、待機児童解消策ではなく、新型コロナの影響をもろに受ける保育士の給与や、多子世帯への支援に回すべきだと指摘する声も出ている。1600億円という財源があるならば、待機児童解消のためだけに使われることが果たして少子化対策に繋がるのだろうか、それで一番苦しんでいるところに支援が行き渡るのかという声も世論から聞こえてきそうだ。

予算編成においては、巨額のコロナ対策・経済対策事業の前に隠れがちだが、この待機児童解消のための1600億円は本当に必要なのか、必要だとすればどこからその財源を捻出するのか、国民としてもより注視する必要がありそうだ。

(フジテレビ政治部 池田百花)

池田百花
池田百花

元フジテレビ報道局政治部