止まらないサイバー攻撃と、後を絶たない個人情報の漏えい。日本で相次ぐ背景には何があるのか。
「newsランナー」はかつてサイバー攻撃に加担し収監されたアメリカ人とベトナム人のハッカーに接触。
2人の証言から見えてきた”真相”に迫ります。
■相次ぐサイバー攻撃に大臣も注意喚起
【上野賢一郎厚生労働大臣】「関係団体、事業者に対し迅速な脆弱性対策を徹底することなどの注意喚起を行う」
13日朝、大臣が注意喚起した相次ぐサイバー攻撃の脅威。
ヤマハ発動機が交流サイトの運営を委託していた会社から個人情報が漏えいした可能性があると12日に発表。この会社からパナソニックなどの会員情報も流出した可能性があるといいます。
政府は企業に対し、セキュリティー対策の強化を呼びかけていて、各企業にとって対策の強化が急務となっています。
■中小企業が抱える“セキュリティの重荷”
サイバー攻撃の中でも特に深刻なのが、企業のデータを暗号化して身代金を要求する「ランサムウェア」です。
その被害を受けているのは6割以上が中小企業であるにもかかわらず、コストなどを理由にセキュリティー対策に投資できていない中小企業もまた6割以上に上るという現実があります。
会計代行や移住支援を手掛ける従業員10人弱の会社では、取引先などの重要な情報を守るため、セキュリティー対策に力を入れてきました。
代表の大庭慎司社長は、「退勤時にハードディスク兼クラウドサーバーの電源を抜き、LANケーブルも外す」と話し、徹底した運用を続けています。
セキュリティー対策にかけてきた予算は1000万円にのぼるといいます。
【大庭慎司社長】「1000万円…。うちの規模で1000万ってすごいと思う。しんどかったですね。でも国が半分補助金出してくれた」
同社では社員への教育にも力を入れており、情報漏えい防止のためのAI活用を研修を通じて学んでいるといいます。
しかし、多くの中小企業にとって同様の投資は容易ではありません。
■“サイバードミノ” 連鎖する脅威
【大阪大学 猪俣敦夫教授CISO】「大企業だから、中小企業だからではなく、全部の情報はつながっている。いわゆる“サイバードミノ”」
1社が受けたサイバー攻撃の影響が、取引先や消費者まで連鎖するというこの概念は、既に現実のものとなっています。
大手飲料メーカーのアサヒグループホールディングスが去年サイバー攻撃を受け、ビール飲料などの生産が停止する事態が発生。
さらに先週には、冷凍食品を扱うニッスイの子会社が不正アクセスを受け、一部の商品の出荷などができない状態となりました。
■あえて中小企業のホームページを攻撃して脆弱性を検知
中小企業をサイバー攻撃から守るサービスを提供する会社もあります。
兵庫県姫路市にあるITセキュリティーなどを扱う「ベンハウス」は約4000社の相談を受け付け、研修などを実施。
尾上大輔代表は「中小企業の場合は対策が随分遅れていますので、危険を感じている。危険を察知する能力や状況を社長に伝えていきたい」と話します。
また、リスクあぶり出しのために踏み込んだサービスを展開する会社も。
「セルバ」は、中小企業のホームページに実際に攻撃を仕掛けて脆弱性を検知する「ペネトレーションテスト」と呼ばれるサービスを提供しています。
AIを活用することで、例えば104のリスクがある項目を5分もかからず診断し、価格は5万円からと、中小企業でも利用しやすい水準に設定されています。
しかし、代表の中山健氏は厳しい現実も指摘します。
【セルバ 中山健代表】「脆弱性を、攻撃側か防御側かどちらが早く見つけるかの競争。攻撃側は1つ穴を見つけたら成立。防御側は全部の穴をふさがないといけない。攻撃側が今は圧倒的に有利。本当にもう恐ろしい時代」
■元ハッカーが語る「日本は金、金、金がある」
日本がなぜこれほど狙われるのか。「newsランナー」は、かつてサイバー攻撃に加担してアメリカの刑務所に収監された過去を持ち、現在は企業や政府のセキュリティー対策を支援する「ホワイトハッカー」として活動する2人を直接取材。
およそ300万人のアメリカ人の個人情報を売り、およそ3億円を不正に稼いだというベトナム人のゴー・ミン・ヒエウさんは、攻撃者の視点から日本の“価値”をこう語ります。
【元ブラックハッカー ゴー・ミン・ヒエウさん】「日本には高いレベルの経済や先進技術、そして価値のあるビジネスデータを持った会社がたくさんあり、日本は本当に魅力的な標的です。ここには金、金、金がある」
犯罪の温床ともいわれる「ダークウェブ」の1つを立ち上げたアメリカ人のブレット・ジョンソンさんも同様に、日本は以前から“狙う価値のある国”だったと明かしています。
しかし、これまで実際に攻撃することはほとんどなかったといい、その理由を2人は口をそろえて「日本語」と説明しました。
【元ブラックハッカーのアメリカ人 ブレット・ジョンソンさん】「私はロシア、ウクライナ、南米、ヨーロッパ、アメリカを攻撃したことはあります。でも日本は一度もありません。その理由は言語の壁があったからです。日本は大好きですが、言葉は全くわかりませんから」
■AIが“言語の壁”を消し去った
日本語という高い言語の障壁が、これまで日本を守ってきたというのです。
しかしその防壁は今、AIの出現によって崩れ去りつつあります。
【ブレット・ジョンソンさん】「AIは翻訳ができ、非常に信憑性の高いメッセージを作ることができます。その結果、これまで存在していた壁が消え去ったのです」
【ゴー・ミン・ヒエウさん】「AIが言語のバリアを取り払いました」
AIの活用によって、犯罪者は少ないリソースでより多くの標的を狙えるようになりました。
ジョンソンさんは「時間を短縮しコストを削減し、ターゲットの調査に役立ち、翻訳をして、技術的な作業をサポートする」とAIの“犯罪利用”の実態を説明します。
そして2人は、日本への攻撃が今後さらに増えると断言しました。
【ゴー・ミン・ヒエウさん】「彼らは今や何語でもプログラムできます。世界中の誰もが標的にでき、日本は伸びている市場です。常に考えてほしいです。いつかハッキングされると。だから常に準備することが大切です」
取材の最後、2人は過去への後悔と今後への決意も語りました。
ゴー・ミン・ヒエウさんは「逮捕されて、今でも自分がしたことで両親に対して面目を失ったと思っている」と述べ、ジョンソンさんは「妹と妻が私を変えてくれた。何が何でも正しい道を歩もうと心に決めている」と語っています。
元ブラックハッカーの2人が口をそろえて警告する日本への攻撃。
しかし、大阪大学 猪俣敦夫教授CISOは、日本では倫理的な理由などから、ハッカーを育成したり、ヘッドハンティングしたりして”攻撃者の視点”を防御に生かす「オフェンシブセキュリティ」の研究が遅れていると指摘します。
増え続けるサイバー攻撃に対抗するため、日本でもより踏み込んだ研究が求められているのかもしれません。
(関西テレビ「newsランナー」2026年10月13日放送)
