石川県金沢市で36年にわたり愛されるカレー店「シエスタ」。看板メニューのシーフードカレーは、客の熱い要望で復活した逸品だ。その味の裏には、週2回、朝4時から4時間以上かけて11kgの玉ねぎを炒めるという店主の執念があった。飲食経験ゼロから始め、バブル崩壊を乗り越えた夫婦。二人三脚で守り抜いた味は、今、娘へと受け継がれようとしている。
玉ねぎ炒め4時間 金沢カレー店36年の軌跡

白山市の道の駅「めぐみ白山」で聞こえてきたのは、あるカレー店を愛する女性の声だった。
「私のいとおしい料理はシエスタさんのシーフードカレーです」。
高校の同級生や、出産前には祖母とも訪れたという思い出の味。その言葉に導かれ、金沢市四十万町にある店へと向かった。緑に囲まれた「シエスタ」は、オープンから36年、長く県民に愛され続けるカレー店だ。

「日本のカレーをもう少し自分たちのオリジナルにするには、ちょっとヨーロッパっぽい雰囲気を出したいなと」。
そう語る店主の思いが込められた店内は、落ち着いた空気が流れている。36年前に始まったこの店の歴史は、夫婦二人三脚の挑戦の歴史でもあった。
飲食経験ゼロからの挑戦

今から36年前、夫婦で「シエスタ」をオープンさせた。しかし、当時二人には飲食業の経験が全くなかったという。店主は「アルバイトすらやったことなかったので、大変さが分かっていなかった」と当時を振り返る。

勢いで店を開いたものの、オープン直後にバブルが崩壊。それでも店を続けることができた理由について、店主はこう語る。
「やらざるを得ない部分と、あと二人が同じ方向を向いていたんで。違う方向を向いていたらまとまらないじゃないですか。同じ方向を向いてたのは大きい」。
どんな苦境にあっても、夫婦の目指す先は一つだった。その固い絆が、店の土台を支えてきた。
客が愛したシーフードカレー

今回、街頭で名前が挙がった「シーフードカレー」。実はこのメニューには、客との間に生まれた特別なエピソードがある。一時期、カレーに使うホタテが入荷できなくなり、販売を中止したことがあった。すると、それを悲しむ客の姿が後を絶たなかったという。

「そんなにシーフードカレー?と思いながら、ちょっとびっくりしたね」。
店主自身も驚くほどの反響だった。「言われてみればシーフードしか食べない人も結構いっぱいいるし。改めてファンが多いんだなと、うれしい」。

客からの根強い人気を誇るシーフードカレー。ルーはグレービーポットで提供され、客が好みの量をかけて味わうスタイルだ。口に入れた瞬間、甘みとシーフードの旨みが広がり、後からスパイスが追いかけてくる。この深い旨みの源は、青森の陸奥湾で大事に育てられたホタテだという。「そこからしか出ない旨みなんじゃないかな」と店主は自信をのぞかせる。
“昨日より美味しく”の哲学

カレー作りには、他にも要となる工程がある。それは、玉ねぎを炒める作業だ。店主は、週に2回、朝4時からこの作業に取り掛かる。11kgもの玉ねぎを、ほぼ離れることなく4時間以上も炒め続けるという。想像を絶する大変な作業だ。なぜ、そこまでこだわるのか。



「美味しかった記憶ってのはみんな残るじゃない?で、来た時に『あれ、こんなんだったっけ?』とは思わせたくないわけですよ」。
店主は、その理由をこう語る。「記憶って美化されるじゃない。美化される分だけ美味しさは上乗せしてかないと。ちょっとずつ微々たるもんだけど、なるたけ前に進みたいんですよ」。
昨日より今日、日々おいしさを求める探求心が、36年経っても色褪せない味の秘訣なのかもしれない。
夫婦の愛は家族の味へ

改めて36年間、カレー店を続けてこられた理由を尋ねると、夫婦はそろって「カレーが好きだから」と答えた。
「自分たちが作るカレーが好き。毎日お店をやってる日は必ずお昼ご飯はうちのカレーを食べてますし、食べて『あ、美味しいな』って思える瞬間がすごい幸せなんで」と妻は語る。そして、「お客さんが本当に『美味しい』言うのがエネルギーになって続けてこれたかなと思います」と続けた。

そんな二人三脚で歩んできた夫婦に、新たな展開が訪れている。娘が四国でカレー店を開くというのだ。「うちのカレーで育ってきてるので、うちのカレーを出したい」と。
その話を聞いた時、店主は「やめとけって言った」という。「だって大変なの横で見てたはずなのに。分かっとるやろって」。子供にかまってあげられなかったという思いもある。それでも娘の決意は固かった。

夫婦の愛が注ぎ込まれたカレーは、今、家族の愛となって次の世代へ受け継がれようとしている。

シエスタ
住所:石川県金沢市四十万町北ワ43-3
電話:076-296-1316
営業時間:午前11:30〜午後3:00(L.O.午後2:30)、午後5:00〜午後8:30(L.O.午後8:00)
休み:月・火+不定休

(石川テレビ・10月6日放送)
