ジョン・レノンは、妻オノ・ヨーコのことをThe Most Famous Unknown Artist(最も有名で未知な芸術家) と評した。
1950年代後半からNYで前衛芸術家として活動してきたオノ・ヨーコは現在93歳。20世紀後半の現代アートを語る上で、極めて重要な存在として今、再び脚光を浴びている。
そのきっかけとなったのは、ロンドンのテートモダン(英国国立現代美術館)で2024年に開催された企画展YOKO ONO:MUSIC OF THE MIND。
これを皮切りに、デュッセルドルフ、ベルリン、シカゴに続き、現在はロサンゼルスの現代アートの美術館、ザ・ブロードで同規模の企画展が開催されている。(10月11日まで)
行ってみてまず驚いたのは、美術館周辺だけではなく、ロスの街中のあちらこちらでオノ・ヨーコさんのバナーがはためいていること。
目を引くデザインの建物には、週末だったこともあり、オープンと同時に家族連れや若者など世代を問わず多くの人たちが訪れていた。
なぜ今、オノ・ヨーコのアートがこれほどまでに世界で注目されているのだろうか。
「参加型の作品」をいち早く取り入れたパイオニア
展示ルームに入ってすぐに目にしたのは、「踏みつけられるための作品」。通常は展示作品に触れるのはご法度なケースが多いが、これは踏みつけることで完成する作品。館内は写真撮影も自由で、のっけから普通のアート展ではないことに気づかされる。
オノ・ヨーコの作品は「コンセプチュアル・アート」と呼ばれ、物質的なものよりも概念を大事にする現代アートの潮流で、彼女はそれを1950年代から取り入れていた先駆者だという。
観客に指示(インストラクション)したり・参加を促すことで、みんなで考え、体感してもらうことに重きをおいている。
次に飛び込んできたのは、その代表作として知られているカット・ピース(Cut Piece)の映像。舞台上に無言で座るオノ・ヨーコの服を参加者が順番にハサミで切っていくパフォーマンスだ。小さく切る人もいれば大きく切る人も。そこに、人間の意識の境界線の違いが現れたり、他者にハサミを向けられる恐怖と暴力を重ねたり、開催するごとに権力との複雑な関係性が舞台上に現れるという。
ずらりと並んだ詩のようなものは、ほぼすべて命令形で書かれていた。有名なジョン・レノンの 「イマジン」という曲は、この詩集にある「想像しなさい」というフレーズから着想を得たそうだ。
行動することで感情に訴えかける手法
せっかくなので私も参加型作品にトライしてみた。
白いキャンバスの前に立ち、自分の影をなぞっていく作品では、ここに来た他者と自分がつながった感覚と、影を刻むことで今、自分が生きていることを実感した。
屋外には、願いを短冊に書きオリーブの木の枝に結び付けていくWish Treeが。自分も願い事を書こうとペンを取るも、いざとなると自分の願望が思い浮かばないことにショックをうける。見上げると、世界平和への願いや家族の健康、将来の夢などの願いが太陽の下で揺れていた。
その他、お母さんへのメッセージを書いて壁に貼り付ける作品や、釘を打ちつけるものなどもあり、概念だけ決まっているがあとは自由、それが特に若い世代にうけていたようだ。
来場者からは、「初めてオノ・ヨーコのアーティストとしての作品を見たけど、とてもエキサイティングだね。名前は知っていたけど、どちらかというと音楽のイメージが強かったから。人生自体も興味深い。」
「ただ見るだけではなく、参加型のものが多かったので深く感情に訴えかけるものがありました。」
との声が聞かれた。
それぞれに新しい発見があったようだ。
そこにあるのは今の時代に必要なメッセージ
今回の展示を企画したキュレーターのサラ・ロイヤー氏に話を聞いた。
「ヨーコ・オノの作品は時代を選びません。多くの作品は1960年代から70年代のものですが、今まさに世界が直面している問題について発信しています。
なので、ただ単に平和活動家というだけではなく、彼女が伝えたいのは、‟Change in the world begins in our minds“ 世界を変えるためには我々の心の中を変えることが重要で、意識が変わることで一人ひとりの行動が変わる、それが大きなうねりとなって世界的な変化をもたらすことができたらとの願いが込められているのです」

展示の最後にこんな言葉がつづられていた。
一人で夢見る夢は、ただの夢。みんなで夢見る夢は、現実になる
‟A dream you dream alone is only a dream. A dream you dream together is reality. “
YOKO ONO

同じ人間同士いがみ合うのではなく、共に手を取り合って平和な未来を作っていきましょう。
作品を通じて、そんなメッセージが聞こえてきた。
【執筆:フジ・メディア・ホールディングス 総務局 CSR推進担当局長・木幡美子】

