理不尽な要求などの言動を客などが働く人に突きつける「カスタマーハラスメント」。国は、10月1日から従業員を雇うすべての企業や団体に対し対策を義務付ける。
義務化を前に、関西テレビ「旬感LIVE とれたてっ!」では、“正当なクレーム”と“カスハラ”の境界線を実際のケースで検証。
カスハラ研究の第一人者である関西大学の池内裕美教授と、弁護士で元大阪府知事の橋下徹氏が、具体的な場面をもとにそれぞれの見解を示した。
カスハラと正当なクレームの線引きについて考える。
■ カスハラの定義とは
まず前提として、カスハラの定義は以下の3つすべてを満たすものとされている。
・客などからの言動であること
・社会通念を逸脱した不当な要請・嫌がらせであること
・働く人の就業環境が害されること
この定義自体はシンプルに見えるが、実際の場面での判断は容易ではない。
番組では、身近な3つのケースを例題として提示した。

■ ケース1「SNSに書くぞ」の脅し文句
最初の想定は、舞台観劇でS席チケットが当選したAさんが劇場に行くと、自席の前に撮影カメラが置かれ、舞台の一部が見えない状態だった。
不満を抱いたAさんは主催側に「全額返金しろ。応じないならSNSに書くぞ」と迫った。
これはどちらに当たるのだろうか?
橋下氏は「カスハラ寄り」の立場を取りつつ、次のように説明した。
橋下氏:『SNSに書くぞ』が一番だめなポイント。 『全額返金しろ』というのは、正当なクレームというか、これは法律知らないお客さん、一般の人が、法律抜きに主張することは、全然“カスハラ”でもない。
“カスハラ”というのは僕ら(法曹)の世界では、もう30年以上前ぐらいから、弁護士が対応している。法律的な説明をした上で、『決着点がこうなりますよ』と説明したのにもかかわらず、それ以上の度を超えた主張をすること。
だから、やり取りの中で“カスハラ”になるかどうかで、最初の『全額返金しろ』というのは、法律知らない人であれば当然。 ただ、『SNSに書くぞ』はだめです。

■池内教授も「威圧的な態度でSNS投稿ほのめかす」は「カスハラに近い」
池内教授も「カスハラ寄り」と判断し、その根拠をこう説明した。
池内教授:ポイントは要求の仕方であって、威圧的な態度でSNSへの投稿をほのめかす、これはもう脅し文句として自分の要求を通そうとする手段という側面があるんですけども、その面でもうカスハラに近いと言えます。
一方で、返金要求そのものについては「舞台が見えない以上、返金や補償を求めること自体はおかしくはない」と述べ、「重要な部分が見切れていたかどうかによって、正当性の度合いが変わる」と補足した。

■ ケース2「補修」か「新品交換」か
2つ目は、新築住宅の引き渡し時に洗面所の細かな傷を発見したケースだ。
業者が「補修で十分きれいにできる」と説明したにもかかわらず、Aさんは「大きい小さいに関わらず傷は傷なので、新品にしてください」と詰め寄った。
池内教授はこれを「カスハラ寄り」と判定した。
池内教授:傷を指摘したり、きちんと直してほしいというのは正当な言い分ですが、事業者側はきちんと『補修で十分に回復できる』と、『それぐらい軽微な傷だ』ということを説明している。
そこで、さらに全面的な新品交換まで求めるとなると、これは明らかに損害の程度に対して要求が過大と言える。

■橋下氏は法的に「新品にできない」が要求は「カスハラでない」
一方、橋下氏はこの判定に異論を唱えた。業者側だけの判断でカスハラと結論づけることへの問題意識を示しつつ、弁護士としての実務的な視点を加えた。
橋下氏:まず法律を知らない人が『新品にしてください』というのは当然のこと。ただ、これは補修ができるなら、法律的には新品にはできないのです。ただそれを業者が判断するのはおかしいんですよ。
だから、僕らのクレーム対応のやり方は、第三者に一回、評価を入れさせるんですよ。第三者に入れて、『補修できるかできないか』を判定した上で、その第三者がこう言ってるのにそれよりも過剰な要求を言ってきたら“カスハラ”。
キャッチボールで“カスハラ”になるかどうかだから、法律的な決着点は、『補修なのか新品なのか』は法律的にはどっちでもなる。 だから、その評価が必要だと思う。
橋下氏は「カスハラはやり取りの中で決まってくるもの」と強調し、損害保険会社が調査員を入れるように、客観的な第三者評価を挟むことが重要だと指摘した。
その上で業者の説明を鵜呑みにして即座にカスハラと断じてしまうと、正当なクレーム自体が成り立たなくなるという懸念も示した。
橋下氏:じゃないと、これを認めてしまうと、業者の言ったことを全部お客さん従わなきゃいけないようになってしまう。これは僕絶対違うと思う。これやってしまうとクレームが成り立たなくなる。

■ ケース3「予約ミスで15分後の人が先に呼ばれた」
3つ目は、健康診断での順番待ちをめぐるケースだ。
10時に予約して時間通りに来院したAさんが、10時15分予約のBさんに先を越された。Aさんは「どうして間違いが発生したの? 納得いくまできちんと説明していただけますか」と穏やかな口調で詰め寄った。
スタジオでは意見が二分されたが、池内教授は「正当なクレーム寄り」と判断した。
池内教授:今回は出発点としては、明らかにスタッフ側がミスをしたということが原因になるので、『なんで間違いが起きたのか』ということを説明を求めるのは、これは非常に合理性があります。
ただし、「納得いくまで」という言葉にはやや注意が必要で、説明を受けたにもかかわらず何度もしつこく繰り返すようになれば、長時間拘束に値する「カスハラ予備軍」になりうると付け加えた。
橋下氏:“カスハラ”の話で、クレームを全部出さないのもおかしいと思います。 これはやり取りのことなので、最後は法律的な決着だから、最後は弁護士に。

■ 企業に求められる4つの義務
10月1日から企業に義務付けられるカスハラ対策の内容は以下の4点だ。
・労働者を保護する方針の明確化・周知
・窓口を定めて周知するなど、相談体制の整備
・事実確認や被害者への配慮、再発防止を行う事後の迅速かつ適切な対応
・悪質な“カスハラ”への対処方針・体制を整備するなど、“カスハラ”抑止のための措置
現場の従業員に対応を丸投げするのではなく、システムとして受け止める体制づくりが不可欠だ。
“カスハラ”をする一部の客への毅然とした対応が、他の多くの顧客や従業員を守ることにつながる。
(関西テレビ「旬感LIVE とれたてっ!」2026年9月30日放送)


