開業わずか1年で、国産チーズアワードで受賞した若き職人がいます。長野県の佐久・小諸・東御にまたがる高原、御牧原(みまきはら)。標高約700メートルのこの大地に2025年5月、チーズ工房「信州チーズの樹」をオープンした土屋宏樹さん。製造から販売まで、たったひとりで担う31歳の職人は「この土地の味を出すチーズを作りたい」と語ります。信州のミルクに込めた、その情熱の全貌に迫りました。
■「地域の個性をまとめている」
土屋さんが一貫してこだわるのは「その土地の味」。
「長野県には長野のミルクの味わいがある。どうミルクの味わいを100%引き出してチーズをおいしく作るかということを考えてやっている」と土屋宏樹さんは話します。
地元・佐久のミルクを使い、噛めば噛むほどにじみ出るミルクの食感を最重要視したチーズは、乳酸発酵した風味を正直に伝えることを目指しています。
「チーズを作るというより、地域の牛乳や乳酸菌の個性をまとめている」。その言葉には、素材への深いリスペクトがにじんでいます。
■北海道での発見が人生を変えた
土屋さんが農業の道を志したのは学生のころ。
高校・大学と北海道で農業を学ぶ中で、あるチーズフェアが人生の針路を大きく動かしました。
土屋宏樹さん:
「北海道内のチーズ工房の親方たちに、ナチュラルチーズには生産者の思い、その土地の気候・風土、そういったものすべてを込めて作るのがナチュラルチーズなんだよ、と伺った。チーズにここまでいろんな思いを込めてお客さんに届けることができるんだと、すごく魅力を感じてチーズ職人を目指すきっかけになりました」
一つのチーズに土地と人の物語が宿るー。その発見が、土屋さんをこの世界へと引き込みました。
大学卒業後は北海道や長野のチーズ工房で修業を積み、30歳で地元・御牧原にオープン。現在は 8種類のナチュラルチーズを製造しています。
■開業1年で受賞 人気商品の誕生秘話
工房で最も人気を集めているのがイタリアの伝統的なチーズと同じひょうたん型をした「焼いて食べるチーズ 優(YUU)」。
製造工程は丁寧の一語に尽きます。
牛乳を低温殺菌し、手作りの乳酸菌ヨーグルトを加えて40から50分発酵。
酵素(レンネット)を添加して凝固させ、チーズの原型「カード」と水分「ホエー」に分離したあと、75度の熱湯の中でひょうたん型に練り上げ、塩水に漬けて熟成庫へ。3〜4週間の熟成を経て完成します。
6月に開催された「アルティザンチーズアワード」では外観・質感・風味など総合的な評価が認められ、「日本チーズ製造文化顕彰」を受賞。開業わずか1年での快挙です。
■「ロマンしかない」輝への挑戦
土屋さんが今最も力を注いでいるのが、熟成チーズ「輝(KAGAYAKI)」。
オランダの伝統チーズ「ゴーダ」をベースに、生キャラメルのような口どけを目指します。
完成まで最短でも2ヵ月以上の熟成を要します。「1年通して6回しか試作できない。このトライ&エラーを楽しめないとなかなか厳しいと思う」と言いながら、その目は輝いています。
「ロマンしかない」。その一言がすべてを表しています。
師事する塩川和史さん(国際コンテスト世界最高賞受賞・ブルーチーズの第一人者)からは「前より塩気は落ち着いた。ミルクの味とバターっぽさは出ていると思う。あとは甘みをどうやって表現していくかというところ」というアドバイスが届きました。
信州チーズの樹 土屋宏樹さん:
「酪農家さんに提供していただいた信州のミルクに恥じないよう、どれだけ甘みや良さを引き出せるか腕にかかっている。すごくやりがいを感じますし、頑張ろうと思います」
※この記事は、 2026年6月26日にNBS長野放送でOAした「フォーカス信州 信州クラフトの味2~食卓を彩る匠たち~」をもとに構成した内容です(全3回の記事その3)
