スギの木くずが「未来のプラスチック」に
ペットボトルも、スマートフォンも、車の内装も。プラスチックは現代人の生活のあらゆる場面に溶け込んでいる。
しかしその原料は石油であり、製造時の二酸化炭素排出や海洋・土壌汚染といった環境問題は世界規模の課題となっている。
そんなプラスチックの代替素材として、愛媛県で画期的な研究が進んでいる。
キーワードは「スギ」
捨てられていた木くずが、未来の高性能素材に生まれ変わろうとしている。
「スギ」から生まれる新素材、その正体とは
ペットボトルに包装材、そしてスマートフォンなど電子機器の一部にも。加工しやすく軽くて丈夫なことから、「プラスチック」は、今や生活のありとあらゆる場面で使われている。
一方で石油を原料に作られるため、製造時に多くのCO2を排出するほか、分解されにくく海や土壌の汚染につながるなど、環境への影響が世界で心配されている。
そんな課題を解決するため、ある「新素材」の研究がここ愛媛で行われている。それが「改質リグニン」だ。

「改質リグニン」一体どんな素材なのか
一体どんな素材なのか…西条市の研究施設を訪ねた。
出迎えてくれたのは国の機関・森林総合研究所の山田竜彦上席研究員だ。松山出身の山田さん。30年以上代替プラスチックなどの研究に取り組み、この「改質リグニン」を生み出すことに成功しました。
内木敦也アナウンサー:
「もしかして、これが改質リグニン?」
山田竜彦上席研究員:
「改質リグニンのパウダーです。皆さんの身近にある『スギ』の木材からできています」
この「改質リグニン」は、日本固有の針葉樹スギに含まれる「リグニン」を原料に作られている。

「改質リグニン」って?
では「リグニン」とは何なのか。
こちらは樹木を構成する成分を示した図だ。この半分近くを占めるのが木の骨組みとなる繊維状の「セルロース」。紙の原料などに使われている。
次に多いのが、約3割を占める「リグニン」。
山田上席研究員:
「リグニンは、非常に物をしっかり強くする役割を担っている」
陸上で巨大化した植物を、固くしっかりした構造にするため、生み出された物質が「リグニン」。
この「リグニン」から作り出される素材も、固く耐熱性があることが知られていたが、木の種類によって構造のバラつきが大きく、安定した品質が必要な工業材料化は難しいとされてきた。
そんな中、山田さんは約15年前に、「スギ」由来の「リグニン」は、構造が比較的均一でプラスチックの代替素材となり得ることを突き止めたのだ。

改質リグニンの生成には木材加工で捨てられていたものを有効活用
山田上席研究員:
「見ての通り、おが粉ですけれども、間伐材とか未利用の木質資源はたくさんあるので、そういうものを一様に使える」
改質リグニンの生成には、これまで木材の加工で捨てられていた端材などが、有効活用できる。
「スギのおが粉」に加工しやすくさせる薬剤、「ポリエチレングリコール」を混ぜ、性質を整えることで、環境への負荷が少なくプラスチックと同等の耐久性を持つ、「改質」リグニンが生成される仕組みだ。
山田上席研究員:
「炭素繊維強化材料、みなさんが『カーボン』と呼んでいる素材。樹脂の部分を改質リグニンに変えたものがこっち」
炭素繊維をプラスチック樹脂で強化したいわゆる「カーボン」素材の製造に「改質リグニン」を使ってみた。
石油由来のプラスチックを使ったもの、プラスチックを改質リグニンに置き換えたものを、持ち比べてみると…
内木キャスター:
「軽いですね、改質リグニンの方が。全然ちがう」
山田上席研究員:
「同じ強度で、20%軽くなっている」
改質リグニンを使えば、強度を保ちながら軽量化も可能で、今後は自動車のボンネットや内装の部材など「高性能なプラスチック」の代わりとなることが期待されている。

山々に囲まれた鬼北町がどんなカギをにぎっているのか
内木キャスター:
「鬼の棲むまちとも言われる鬼北町。改質リグニン量産化のカギを握っているのは鬼北町と言われている」
愛媛の南西部に位置する鬼北町。
山々に囲まれた自然豊かなまちが、どんなカギを握っているのか。
町長を直撃した。
鬼北町・兵頭誠亀町長:
「もうすぐ工事着工、来年度末には工場を稼働したいと思っている」
実は2027年、町内に世界初となる改質リグニンの工場が整備される。
大量生産するには原料を安定的に確保することが必要で、総面積の約8割を森林が占め「スギ」が豊富にある鬼北町は、まさにうってつけの場所だったのだ。

地域資源を生かした新たな産業となるか
鬼北町・兵頭町長:
「今、木材価格が低迷して間伐ができない、木を切ったら赤字になるという状況で。このままであれば、もう何の役にも立たないお荷物になるのではと危惧する」
林業が主要産業の鬼北町ですが、近年は人口減少や高齢化を背景とした「担い手不足」や、外国産材との競争などによる木材価格の低迷などが課題となっていた。地域資源を生かし新たな産業が生まれることで、「まちの活性化」にも期待が高まる。
鬼北町・兵頭町長:
「工場で働く人ができる、また木を切る人の継続的な仕事が確保できる、また運ぶ人ができるという二次、三次的な雇用の維持拡大をできる」

地域資源を生かした新たな産業の創出へ
スギ由来の「改質リグニン」。
生みの親の山田さんは2023年、「脱炭素」の取り組みに賛同した西条市の半導体製造企業とタッグを組んで、ベンチャー企業を設立した。
現在は西条と茨城県の施設を行き来しながら、研究を進めている。
山田上席研究員:
「何か愛媛に貢献しろということなのかもしれませんが、愛媛の東・中・南予が一体化して、新しい産業を作るような気がして、すごくやりがいがありますね」
ふるさと愛媛で環境に優しく、そして地域資源を生かした新たな産業の創出へ。
「木」から生まれる未来の素材が今、大きく羽ばたこうとしている。


