プレスリリース配信元:一般社団法人飲酒科学振興協会
全国7,500名調査から見えた職種や個人属性との関連
ポイント
- 全国7,500名の企業勤務者を対象とした大規模調査により、働き方と飲酒リスクの関連を分析しました。
- 飲酒リスクは、年齢・性別・収入・職種・職位と関連し、経営・管理職、物流関係職、営業・マーケティング職で高い傾向が確認されました。
- 飲酒リスクは個人要因だけでなく、職場環境や業務特性が関与する可能性が示され、職種に応じた健康支援の重要性が示唆されました。
概要
アルコール使用は、労働者の健康や労働生産性、安全衛生に影響を及ぼす重要な課題です。しかし、飲酒リスクと職種などの職業関連要因との関係については、十分に明らかになっていませんでした。
九州大学都市研究センターの馬奈木俊介センター長、武田美都里特任助教、崔廷米研究員は、三和酒類株式会社と共同で、全国の企業に勤務する20歳以上の社員7,500名を対象とした調査を実施し、飲酒リスクを評価する指標であるAUDIT(Alcohol Use Disorders Identification Test)スコアと職業関連要因との関係を分析しました。
その結果、AUDITスコア(全10項目、最大40点)は年齢、性別、収入、職種などと関連しており、男性、若年層、高収入層で高い傾向がみられました。また、職種別では経営・管理職、物流関係職、営業・マーケティング職で飲酒リスクが高い傾向が認められました。さらに、職位別にみると、職位が上がるほどAUDITスコアが高くなる傾向がみられました。特に、管理職・経営者ではAUDITスコア8~14点の割合が高く、この水準は飲酒習慣の見直しや保健指導が推奨される目安とされています。こうした結果から、管理職・経営者は職場におけるアルコール対策や健康支援の対象として重要な集団である可能性が示されました。以上の結果から、飲酒行動には個人属性だけでなく、業務内容や職場文化、対人交流の頻度、勤務形態などの職種・職位と関連する可能性が示唆されました。
本研究は、飲酒リスクが個人属性だけでなく、職種や働き方とも関連する可能性を示した点に意義があります。今後、企業における健康経営や職域でのアルコール対策を進める上で、職種特性を踏まえた支援策の構築につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年5月29日に開催された「第99回日本産業衛生学会」において、武田美都里特任助教により発表されました。
研究の背景と経緯
職域におけるアルコール対策は、従業員の健康管理や労働安全衛生の観点から重要な課題の一つとして考えられています。過度な飲酒は、生活習慣病やメンタルヘルス不調のリスクを高めるだけでなく、欠勤や労働生産性の低下、労働災害などとも関連することが知られています。そのため、企業においては個人の飲酒習慣だけでなく、飲酒リスクに関連する職場要因を把握し、適切な対策を講じることが求められています。
これまでの研究では、性別、年齢、ストレスなどが問題飲酒と関連することが報告されています。また、職種や職位によって業務内容、対人交流の頻度、勤務形態、責任の大きさなどが異なることから、飲酒行動にも影響を及ぼしている可能性があります。しかし、日本の企業勤務者を対象として、職種、職位、収入などの職業関連要因と飲酒リスクとの関係を大規模に検討した研究は限られています。
そこで本研究では、全国の企業勤務者7,500名を対象としたオンラインアンケート調査を実施し、飲酒リスクの指標であるAUDITスコアと、職種、職位、収入などの職業関連要因との関係を分析しました。職種や職位によって飲酒リスクに違いがみられるかを明らかにし、企業における健康経営や職域でのアルコール対策に役立つ知見を得ることを目的としました。
研究の内容と結果
AUDITは、世界保健機関(WHO)が開発した問題飲酒のスクリーニング指標であり、飲酒量や飲酒による問題行動などに関する10項目で構成されています。
分析の結果、AUDITスコアは年齢、性別、収入、職種と主に関連していることが明らかになりました。男性は女性よりもAUDITスコアが有意に高く、また若年層ほどわずかに高い傾向がみられました。さらに、収入が高い人ほどAUDITスコアが高い傾向が認められました。職種別では、経営・管理職、物流関係職、営業・マーケティング職でAUDITスコアが高い傾向が示されました(図1)。これらの職種では、業務上の責任や対人交流の機会、勤務形態、職場文化などの職種特性が飲酒行動に関与している可能性が考えられます。
職位別の比較では、職位が上がるほどAUDITスコアが高い傾向がみられました。特に管理職・経営者ではAUDITスコア8~14点の割合が他の職位と比較して高く、飲酒リスクが比較的高い集団である可能性が示されました(図2)。一方で、年齢や収入などの要因を同時に考慮した解析では、職位そのものの独立した影響は確認されませんでした。
本研究により、飲酒リスクには個人属性だけでなく、職種や働き方が関与している可能性が示されました。特に、経営・管理職、物流関係職、営業・マーケティング職においては、職種・職位の特性を踏まえた健康支援やアルコール対策の重要性が示唆されました。一方で、飲酒行動には個人の価値観や生活習慣、職場文化、心理的要因など多様な要因が関与すると考えられ、今後さらなる検討が必要です。

図1 職種別のAUDITスコア

図2 職位別のAUDITスコア分布
今後の展望:職種・職位の特性を踏まえた飲酒リスク対策へ
本研究により、飲酒リスクは年齢や性別、収入といった個人属性だけでなく、職種や職位などの職業関連要因とも関連する可能性が示されました。今後は、勤務時間、職場ストレス、業務上の対人交流、社内外での飲酒機会、職場文化などの要因を含めて分析を進めることで、飲酒行動の背景をより詳細に明らかにしていく必要があります。
特に、本研究で飲酒リスクが高い傾向を示した経営・管理職、物流関係職、営業・マーケティング職においては、個人の飲酒習慣だけでなく、業務特性や職場環境を考慮した支援が重要と考えられます。職種や職位によって求められる対策は異なる可能性があり、一律の健康教育だけではなく、それぞれの実態に応じたアプローチが求められます。
今後は、本研究成果を基盤として、職種・職位ごとの特徴を踏まえた健康支援のあり方を検討するとともに、飲酒リスクの低減と職場コミュニケーションの維持・活性化を両立するための方策についても研究を進めていきます。


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