「山陰の小京都」として知られる島根・津和野町で、国の登録有形文化財に指定された旧津和野町役場の改修工事が完了した。
築100年を超え老朽化が課題だった旧町役場は、耐震改修を終えたことで文化財として外観を残しながら、内装を刷新しバリアフリー化も実現。歴史的な街の景観保全と行政機能の双方を担っている。
築100年を超えるこの和風建築は、2年にわたる大規模な改修工事を経て、耐震性能の強化とバリアフリー対応という現代的な機能を手に入れた。外観はほぼ当時のままを保ちながら、内装は現代風に生まれ変わったこの建物は、5月11日から町民への通常業務を再開している。
歴史的な街並みを守りながら、住民サービスの向上にもつなげるという、地域行政の新たな一歩が踏み出された。
「山陰の小京都」の名にふさわしい風情を守る
2026年5月8日、旧津和野町役場で竣工式が行われた。津和野町の下森町長をはじめ、工事に関わった関係者約50人が出席し、改修工事の完了を祝った。
旧津和野町役場が建つのは、津和野を代表する景観スポットとして知られる殿町通りの一郭だ。周辺に立ち並ぶ建物とともに「山陰の小京都」の名にふさわしい風情を醸し出すこの通りは、地域のアイデンティティそのものともいえる場所である。その中心に位置するこの建物が、新たな姿で再出発を切ったことの意味は小さくない。
竣工式に集まった関係者たちは、長きにわたる工事期間を振り返りつつ、完成した建物を前に改修の成果を確かめ合った。地域に深く根ざしたこの建物の再生を、関係者一同が喜びをもって迎えたことが伝わる式典となった。
築100年超の現役庁舎――なぜ改修が必要だったのか
旧津和野町役場は、国の登録有形文化財に指定された和風建築であり、文化的・歴史的な価値が高い建物だ。しかし同時に、今もなお「津和野庁舎」として役場機能を担う現役の行政施設でもある。観光客が訪れる歴史的建造物でありながら、日々の行政業務が営まれる場でもあるという、二つの顔を持つ建物である。
こうした二面性を持つ建物が直面していたのが、老朽化という課題だった。築100年を超えるこの建物は、現代の耐震基準を満たしていない状態にあり、住民の安全を守るうえでも、行政機能を継続するうえでも、抜本的な対策が求められていた。
さらに、バリアフリーへの対応も急務だった。高齢化が進む地域社会において、役場は誰もが利用しやすい施設である必要がある。古い建物の構造上、バリアフリー化には大きな課題があり、改修によってそれを解消することが求められていた。
こうした背景から、耐震強化を中心とした大規模な改修工事が計画された。
2年の歳月と4億9800万円かけ大規模改修――文化財としての価値守る
改修工事は2024年から始まり、2年の歳月をかけて完了した。総工費は4億9800万円にのぼり、財源には文化庁の補助金などが活用されている。
この改修においてとりわけ重視されたのが、「外観をほぼ当時のまま保つ」という方針だ。国の登録有形文化財という指定を受けた建物である以上、歴史的な景観を損なうことは許されない。殿町通りの風情を形作る要素の一つであるこの建物の外観を維持しながら、内部構造に手を加えることで耐震性能を高めるという、高度な技術的判断が求められる工事だったという。
一方、内装については現代風に改装が施された。事務スペースの拡張やバリアフリー設備の導入など、現代の行政施設として必要な機能が整備された。文化財としての外観の保存と、現役の行政施設としての機能向上という、一見相反する二つの要求を同時に満たした改修といえる。
文化庁の補助金を活用することで、こうした高コストの工事が実現したということで、文化財の保護と活用を推進する国の施策が、地方の小さな町の歴史的建造物を守る力となったといえる。
「住民サービスの向上」へ――バリアフリーと広い事務スペース
竣工式で下森町長は、改修によって実現した変化について具体的に言及した。
「これまで以上にバリアフリーを意識しています。事務スペースも広く取っていますので、住民サービスの向上に繋がっていくと思っています」
この発言が示すように、今回の改修は単なる耐震工事にとどまらない。バリアフリー化の強化によって、車椅子を使う住民や足腰の不自由な高齢者など、これまで庁舎を利用しにくいと感じていた人々にとっても、訪れやすい環境が整えたとしている。
また、事務スペースの拡張は職員の業務効率にも直結する。窓口対応のスペースが広がることで、混雑時の待ち時間短縮や、プライバシーに配慮した相談対応など、住民サービスの質的な向上が期待できる。
過疎化や高齢化が進む地方の小さな町において、役場は住民生活の基盤を支える最も身近な行政窓口だ。その役場が使いやすくなることは、地域に暮らす一人ひとりの生活の質に直結する問題である。下森町長の言葉には、そうした認識が滲んでいる。
国の文化財保護の仕組みを積極的に活用しながら、地域固有の歴史的資産を守り続けるという津和野町の取り組みは、地方における文化財行政の一つのモデルケースとなる。
(TSKさんいん中央テレビ)
