休校要請以降、学習塾や習い事にも行けず、公園で遊ぶこともままならない子どもたち。外に出歩くだけで、大人たちから怒鳴られるケースもあるという。東日本大震災時、規律を守り世界に称賛された日本社会は、いまや新型コロナウイルスに恐怖し、弱い子どもたちに当たり散らす不寛容な社会になってしまったのか。認定NPO法人フローレンスが今月、一斉休校・休園による子育て世帯への影響を調査した結果には、いまの日本の姿が映し出されていた。

「子どもは出歩くなって言われているでしょ!」

「年長の子を連れてスーパーで食料品の買い物をしていたところ、80歳くらいの方に『まったく!子どもは出歩くなって言われているでしょ!』と怒鳴られました。それからは怖くて、家にこもっています」

フローレンスでは、子どもが通う学校・幼稚園が休校・休園になった全国の保護者を対象に、今月6日から9日までの4日間アンケート調査を行った。回答数は約1万件(有効回答数8千339件)、回答者の9割が母親で、正社員とパート・アルバイトが7割弱を占めた。
この調査結果には、上記のような親の切実な訴えが並んでいる。

休校に困る理由は子どもの運動不足とストレス

認定NPO法人フローレンス調査より
認定NPO法人フローレンス調査より
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「休校措置に困っている」と回答した保護者の割合は68%。
その理由として最も多くあがったのが「子どもが運動不足になること」(69.9%)、2番目が「子どものストレス、心のケア」(56.8%)、続いて「学習の遅れ」(56.6%)「子どもの居場所・遊び場がない」(50.6%)「給食がない」(46.6%)の順で、上位を占めたのはいずれも子どもについてだった。

認定NPO法人フローレンス調査より
認定NPO法人フローレンス調査より

フローレンスの代表理事、駒崎弘樹氏はこう言う。
「実は当初は、子どもを預けられないので家事育児の負担が増えるとか、収入が減るとか、親自身の就労に課題意識を持っているのではないかとアンケートを取ったのですが、完全に予想を覆すかたちになりました。つまり子どもに多くの負担がいってしまっている状況なんですね」

調査では「支出が増える」は6番目、「家事育児の負担が増える」が7番目で、「収入が減ってしまう」が10番目と、親側のロジックはいずれも順位が低い。

親が求めるのは子どもの居場所と遊び場

認定NPO法人フローレンス調査より
認定NPO法人フローレンス調査より

こうした心配や不安を持つ親が、支援策として行政や民間企業に求めるのは何か?

調査結果を見ると最もニーズが高いのが「日中の子どもの居場所・遊び場所」(52.5%)、続いて「公的な教育支援」(50.2%)で、「支出の補填」が3番目だ。

なぜ遊び場所なのか?調査では親からはこのような悲痛な声が聞こえてくる。

「子どものストレスが気になります。これまでなかった些細なことで怒ることがあり心配です」
「遊びに行くところも、一緒に行くお友達もいないので、ずっと家にいて、本当に運動不足が心配です」

さらに信じられないような声もある。

「子どもだけで出歩いていると教育委員会に通報されたり、子どもがまるで病原菌のように扱われる」
「マスクを着けて子どもだけでゴミ出しに出ただけなのに、知らないおじさんに『なんで外にいるんだ』とどなられた」

厚生労働省は、屋外で遊ぶのは感染リスクが低いとしている。しかしそれが十分に周知されておらず、無理解で不寛容な大人たちが子どもへ理不尽な言葉を浴びせかけているのだ。

約5時間半の私語禁止、寒くても窓を全開

子どもの居場所として期待されている学校や学童でも、残念ながら環境が十分に整っているとは言えない状況だ。

「学校では預かってくれる約5時間半の間、私語禁止です。低学年の子どもがそんな状況を2週間も続けるのは無理です」
「教室はドアと窓を終日全開です。寒いと言っても閉めてはいけないと言われ、娘は寒さに耐え、ダウンを着たまま自習しています。学校も混乱しているのかもしれませんが、このような状況を聞かされるのはとても辛いです」

政府は10日、第2弾の緊急対応策を発表したが、こうした親の子どもへの懸念を払しょくするようなものは含まれていない。

駒崎氏はこう言う。
「東日本大震災の時に被災地支援活動をしたのですが、当時現場のニーズが全く分からない中支援をして、『支援のミスマッチ』が生まれていたのです。今回の一斉休校ではそれを繰り返してはいけないと調査を行いました。今回(の対応策)も子どもの状況を理解していない、子どもが無視されている現状があるのではないかと思います」

駒崎弘樹氏
駒崎弘樹氏

緊急事態だからこそエビデンスに基づいた政策決定を

フローレンスでは調査をもとに、国や行政、民間企業、そして社会に対して5つの提言を行っている。
① 校庭開放など子どもたちが体を動かすことができる居場所の提供を
② 学習の遅れをサポートするオンライン・オフラインの対応を
③ 経済的に困難な家庭、1人親家庭に、経済的・外的支援と子どもの見守り支援を
④ 子どもたちや子ども連れへの不寛容な言動をやめて
⑤ 政府は正しい情報とスケジュールを

「休校要請というエビデンスに基づいていない政治家の意思決定によって、多くの人々、特に子どもたちが困っていることに怒りを持っています。政府にはきちんとエビデンスに基づいた意思決定をしてもらいたいので、こうやってデータを提供すれば、それに基づいた政策をしてもらえるのではと期待しています」(駒崎氏)

批判のための批判はするつもりはない。しかしこうした緊急事態だからこそ、ファクトやデータに基づいた政策決定が求められるし、いまこそ政治がデータに基づいた政策立案プロセスを導入するチャンスなのだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。