国内乗用車メーカー8社に調査し公表

2019年も残り1カ月となったが、今年は各地に甚大な被害をもたらした台風19号や、夏の九州北部を襲った大雨など、雨による災害が多かった。
急激な水位の上昇で、冠水する道路を避難する車の映像が記憶に残っている人もいるだろう。

こうした中、11月27日、国土交通省は「水深が床面を超えたら、もう危険!」として、自動車で冠水した道路を走る際の危険性を呼び掛けた

国交省が、国内乗用車メーカー8社に、自動車が冠水した道路を走行した場合に生じ得る不具合などについて調査を行いまとめたもので、それによると、車で床面より高い水位になった道路を走ると、次のような不具合が発生するおそれがあるというのだ。

・車内に浸水すると電気装置が故障して、自動スライドドアやパワーウインドウが動作しなくなるおそれがある
・マフラーから浸水するとエンジンルームが損傷するおそれがある
・タイヤが完全に水没すると、車体が浮いて走行困難になるおそれがある
・水の深さがドアの下端より高くなると内側から開けることが難しくなる
(※浸水による車両への影響は車両形状や設計により異なる)

ただし水位が車の床面以下であっても油断は禁物だ
スピードを出すと、巻き上げた水や波がエンジンやバッテリーに入り、車が動かなくなる可能性があるとしている。

出典:国土交通省
出典:国土交通省
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国交省はその他にも、冠水に関連する注意を呼びかけている。

・アンダーパスなど、水深や道路の端が分からない場所は侵入しない
・万一に備えて脱出用ハンマーなどを手が確実に届く場所に用意する
・浸水した車は、運転可能であっても電気装置などがダメージを受けているかもしれないので点検に出す


アンダーパスとは立体交差や線路の下の道路などで、周囲の土地より掘り下げてある箇所のこと。

国交省では、大雨で冠水するかもしれない関東地方のアンダーパスを公表しており、それによると東京都で要注意のポイントは135か所もあるという。

出典:国土交通省
出典:国土交通省

そして、「自動車は、水深が深い場所を走行できるように設計されていません。このため、大雨等の際には、早めの避難を心掛けることはもちろん、冠水した道路に安易に侵入しないこと、冠水路で自動車が動かなくなった場合には早めに脱出することが重要です。」としている。

冠水した道路を車で走行する危険性について何となく理解はしていると思うが、改めて国交省がひとつの指針を出したことには意味がある。ただ、台風シーズンがやっと終わった今になって、なぜ注意喚起を始めたのか?

国交省の担当者に聞いてみた。

車の特徴をまとめて伝えることに意味があると公表

――そもそもこの資料をまとめた理由は?

今年の台風19号や21号などで被災された方々の中には、車が水没するなどして車中で亡くなられた方が少なからずいらっしゃいました。その一つの要因として、冠水した道路を走った車がどうなるかユーザーがご存じない可能性があると考えたのです。

例えば、車は電気装置の「塊」であるとか、エンジンに水が入ったら当然壊れるとか、タイヤには空気が入っているので水深が深くなると浮くなど、車の技術的な特徴をまとめてお知らせすることに意味があるのではないかと思いました。

このような問題意識を日本の自動車メーカーとも共有し、様々な災害があったことも受けて、できるだけ分かりやすい形で打ち出すことに意味があると、この発表に至りました。

――台風シーズンも過ぎた今になって発表したのはなぜ?

その後、自動車メーカーと議論を重ね、正式に調査を行ったうえで、それらの情報を取りまとめました。

ともすると命に係わるような情報になるので慎重を期し、またあまり油断するような表現も避けようと考えを尽くした結果、発表が12月近くになりました。

――道路が冠水していたら水深が浅くても車を使わない方がいいの?

その状況は危険な状態なので、まず逃げ遅れないようにしていただきたい。

我々にできることは、車はこういう特性の工業製品ですとお伝えすることであり、それをご理解頂いたうえで、壊れない可能性にかけて車で逃げるのか、車を使わず高いところに逃げるのか、様々な選択肢があると思います。

ですので、絶対に乗らないでくださいとまではなかなか言えません

出典:国土交通省
出典:国土交通省

――改めてドライバーに訴えたいことは?

まず、車の特性をご理解いただきたい

そのうえで早めに避難するなど、冠水した道路を走るような状況に陥らないことが大事です。

普通の道路が冠水していなくても、水がたまったアンダーパスなどに油断して入ってしまう人がいらっしゃるそうです。そうならないよう避難していただきたいのですが、どうしても走らなけれないけない状況に陥ることもあるでしょう。

そういう時、例えば水に浸かってドアが開かなくなった時、車の中と外の水の高さが一緒になるとドアが開くことなど知っておくと役立つことがあります。また、脱出用ハンマーを持ってるか否かで、逃げられるかどうかが変わることもあります。

このようなことを知っていただければ、万が一冠水した道路を走るような状況に陥ったとき、命を守る可能性が増えるかもしれないのです。


国交省の担当者が語るように、「車内も外と同じぐらいまで浸水すると、ドアを開けることができる」ということについても今回の発表で言及していた。

この状況はJAFが実験によって確かめており、車内が浸水していない場合は水深90cmでドアがぴくりとも動かなかったが、車の中と外の水位が同じ場合は水深120cmでも女性がドアを開けることに成功している。
車が水没する状況に陥った場合、慌てずにこれを思い出してほしい。

「台風や大雨になるとしても来年のことだからまだ大丈夫」とは考えず、今だからこそ、車の特性を理解し、脱出用ハンマーなどを備えておくことが、もしもの時に命を守ることにつながるのかもしれない。

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プライムオンライン編集部
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