なぜいま韓国へ進出? “売上好調”「アイリスオーヤマ」の戦略を現地取材

“日韓関係悪化”の中、進出の背景とは?

カテゴリ:ワールド

  • グループ総売上高4750億円(18年)過去最高記録
  • 3月、韓国・仁川に工場完成 家電販売を本格化
  • 日韓関係悪化の中、韓国進出 「政治と経済は別」

韓国で存在感増す「アイリスオーヤマ」“ネット通販”好調背景

韓国大手通販サイトに並ぶ「アイリスオーヤマ」の商品

韓国の大手通販サイトで「アイリスオーヤマ」と韓国語で入力すると、ずらっと出てくる家電の数々。Eコマース(電子商取引)市場が約11兆円を超える韓国で着々と存在感を増す、仙台市の生活用品大手「 アイリスオーヤマ」のオリジナル家電だ。

他の大手家電メーカーの早期退職者を採用して独自の製品開発を進めることで注目を集めており、これまでに「ハンズフリ―型の卓上ドライヤー」や「IH調理器としても使える分離型の炊飯器」などのアイデア家電を生み出してきた。18年12月期のグループ全体売上高は家電販売の好調などを背景に4750億円(前年比13%増)と過去最高を記録した。そのアイリスオーヤマが19年3月に完成させたのが韓国初の生産拠点「仁川(インチョン)工場」だ。

大山健太郎代表取締役会長は現地で開かれた竣工式で「これからは仁川工場で、収納用品だけでなく家電製品も内製化を図っていく。韓国市場の中で今後もEコマースを中心に積極的に展開し、韓国の生活者の皆様にお役に立てるよう、そして韓国経済の発展に寄与できるよう、まい進する」とコメントし、仁川工場の意義を強調した。

日韓関係は悪化の一途…なぜこのタイミング?

韓国・文在寅大統領

総投資額70億円をかけて果敢に韓国に本格進出したアイリスオーヤマだが、奇しくも現在は日韓関係が“どん底”ともいえる時期だ。なぜこのタイミングだったのだろうか?と疑問に感じる部分もある。

「残念ながら私たちは現在、日韓の難しい問題(日韓関係)について強い懸念を抱いている。適切な措置が取られると信じている」

仁川工場の竣工式が行われた6日後(3月28日)文在寅大統領と外国企業関係者との懇談会の場で、在韓国の日系企業などでつくるSJC・ソウルジャパンクラブの森山朋之理事長(韓国三井物産社長)はこう述べた。いわゆる徴用工を巡る訴訟で日本企業に賠償を命じる判決が出され、日韓関係が悪化の一途をたどる中、日本の経済界が直接、文大統領に対応を求めた形だ。差し押さえられた日本企業の資産が現金化されれば日本政府による対抗措置も現実味を帯びてくる。そうなれば日韓の経済に及ぼす影響は甚大であろう。訴訟の当事者ではない日本企業の関係者でさえも「韓国でビジネスを行う企業としては無視できない問題だ」と警戒感を露わにする。

このタイミングでの工場進出の狙いを聞くため「仁川工場」を訪ねた。

仁川工場 初年度売上目標は「50億円」

3月に竣工した「仁川工場」

ソウルから車で1時間ほどの距離にある「仁川経済区域」。韓国政府が2003年海外企業を誘致するために設けた経済特区で、税制の優遇などが受けられ、現在、日本企業18社を含む海外企業65社が進出している。総面積約4万4600平方メートルの仁川工場を訪ねると「ロボットアーム」が休みなくプラスチックの収納ボックスを生産していた。アイリスオーヤマが最新設備を導入し、推進する生産ラインの自動化だ。

現在、工場はまだフル稼働には至っていないが、今年中にはサーキュレーター(送風機)などの家電製品の生産が開始されるほか、布団乾燥機、空気清浄器などの家電製品も順次、生産が始まる予定だ。

アイリスオーヤマが進めるロボットによる自動化

現地法人「アイリスコリア」のソン・スンゴン社長は「日本での売れ筋家電を韓国で紹介してアイリスオーヤマの商品を韓国の消費者に選んでもらえるようにしたい。(売上目標は)初年度は約50億、2021年までには約100億円。まだ小さい工場だが約200億円まではいきたい」と韓国市場での販売拡大に意気込む。

米中貿易戦争に伴うリスク分散…さらに韓国市場にチャンスも

実は韓国で認知度が低い「布団乾燥機」

アイリスオーヤマは仁川工場設置の理由の1つに「リスク分散」をあげる。激しさを増すアメリカと中国の“貿易戦争”の先行きは不透明だ。アイリスオーヤマでは中国工場で生産された製品の一部をアメリカに輸出していたが、対米輸出品の追加関税を考慮し生産の一部を中国から仁川工場に移管。仁川工場からもアメリカに輸出する計画だ。韓国からアメリカへの輸出は米韓自由貿易協定(FTA)によって関税がかからないためだ。

さらに22年にはグループ全体で現在の2倍にあたる「売上高1兆円」という目標を掲げているアイリスオーヤマにとって、海外の売上比率を上げることは欠かせない。韓国ではPM2.5による大気汚染が深刻な問題になっているため、仁川工場で生産される空気清浄器は家庭やオフィスに必須ともいえる家電で、かなりの需要が見込めるだろう。さらに布団乾燥機は実は韓国ではあまり知られていない家電だ。PM2.5の影響を心配して布団を屋外に干すことがほとんどないため、機能が認知されれば売上拡大のチャンスがあるだろう。韓国市場には魅力があるのだ。

悪化する日韓関係…政治と経済は「別」

FNNの取材に答える「アイリスコリア」ソン・スンゴン社長

その上で日韓関係の悪化については、あくまでも政治と経済は「別」と強調する。
ソン社長は「(訪日韓国人は)年間700万人いて韓国国民でもアイリスオーヤマのことを知っている人はたくさんいる。私たちの商品の優れた機能を知ればもっと多くの人が購入してくれると思う」と期待感を寄せる。消費者のニーズに合った優れた商品を生産すれば日韓関係の悪化が及ぼす影響は小さいとの認識だ。

確かに韓国メディアもアイリスオーヤマの韓国進出に対して「IT分野、ビジネス貿易、マーケティング分野の人材採用増加が期待される」(日刊京畿)と歓迎ムードだ。韓国に進出した日本企業は売り上げや利益を伸ばし、韓国人は新たな雇用を得るという、双方にとってウィンウィンの関係が出来るのならば理想的だ。

しかし、元徴用工を巡る訴訟問題で韓国政府が何も対応せず日本政府が対抗措置に踏み切れば、日本製品の不買運動などが起きることもあり得る。“アイデア家電”で急成長を遂げるアイリスオーヤマが韓国市場に新たな風を巻き起こすためにも韓国政府には適切な対応が求められている。

【執筆:FNN ソウル支局 川村尚徳】

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