歯が痛い!その時、聴覚障害者は?
この記事の画像(21枚)岡山県北区にある桂歯科クリニック。ある日、診療時間中に一本の電話が鳴った…
電話をかけたのは聴覚に障害のある佐藤美恵子さん。手話でスマートフォンに歯が痛いことをうったえる。
佐藤美恵子さん:
(手話)少し前から虫歯があるように思います…
佐藤さんが手話で語りかけた先には、テレビ電話のオペレーターがいる。佐藤さんの手話の内容を同時通訳で歯科医に伝えている…
歯科医:
予約は何時くらいがよろしいですか?
佐藤美恵子さん:
(手話)午後7時頃でもいいですか?
これは2018年9月から岡山県内で始まった「電話リレーサービス」
聴覚障害者が電話をする際に、離れた場所にいる電話オペレーターが間に入り手話と音声で同時通訳するサービス。
このサービスが始まる前は、佐藤さんは歯が痛くなった時に歯科医の予約にはファックスを使っていた。しかし予約一回取るまでに、かなり時間と手間がかかっていたという。
佐藤美恵子さん:
ファックスしてもしてもなかなか返事がこず時間がかかるので、私はクルマや自転車で相手先まで行って大変でした…
予約を受ける歯科医院もこのサービスの利便性をこう語る。
桂歯科クリニック 小野桂一郎 院長:
痛いところなど細かくわかりますよね…、予約を取るまでのスピードが速いと思います…
この「電話リレーサービス」の利用には専用サイトへの事前登録が必要でパソコンやタブレット、スマートフォンのテレビ電話だけでなく文字チャットを通じたやり取りも可能だ。
現在、厚生労働省のモデル事業として、岡山県など12道府県の団体がサービスを提供し、年間約30万回利用されている。
聴覚障害者が“笑顔に”なる瞬間…
岡山県北区に住む聴覚に障害のある芦田タキ子さん。彼女も「電話リレーサービス」により社会参加の幅が広がったという…
この日、芦田さんが電話をかけていたのは、馴染みの洋食店。
洋食店のスタッフが受話器を取るとまずはじめに、オペレーターからこのような案内がある
オペレーター:
岡山県聴覚障害者センター電話リレーサービスです。よろしくお願いします。
芦田さん:
25日(月)の予約をお願いしたい…
洋食店もなれたもので、会話はスムーズに進む…
芦田さん:
(手話)ランチのメニューは何ですか?
オペレーター:
ランチのメニューは何ですか?
洋食店:
その日のランチはハンバーグですね…
洋食店 ぶどうの木舎 薮原桂子さん:
こういう所にきて楽しんでもらうのが一番だと思う。健常者と同じように楽しんでいただいて、笑って食べて「美味しかった」と帰っていただくのが一番だと思います。
電話リレーサービスには課題も…
聴覚障害者の社会参加の幅を拡げる「電話リレーサービス」。しかし、このサービスには課題もあるという…
芦田タキ子さん:
119番、110番が使えない…有事の際に使えないのが残念…
現在、電話リレーサービスは「緊急通報」に対応できていない。通常の電話サービスのように“公的”なサービスではないのだ。限られた予算で行われているため、夜間早朝の時間帯には対応できていないのだ。
2018年岡山県を襲った西日本豪雨。この時、芦田さんの自宅も床下浸水したが、このような災害時も時間外だと「電話リレーサービス」を利用できなかったという。
芦田タキ子さん:
ドアを開けると水が流れていて外に出られなかった…慌てて友達にどうしたらいいかラインしたが、情報を得るのに時間がかかり困った。
こうした中、政府も動き出した。
2018年11月の参院予算委員会で質問を受けた安倍晋三首相はこう答えた。
安倍晋三 首相:
電話リレーサービスは重要な公共インフラで、さらに拡大していくためには手話通訳の育成、確保や誰がコストを負担するかなどの課題があり。電話リレーサービスについては総務省総合通信基盤局が担当することとしたいと思います。
安倍首相が電話リレーサービスを「公共インフラ」と位置づけ総務省の担当を明言。今後、公的なものとして拡大する考えを示した。
総務省は2019年に入り、すでに2度の検討会を開き夏頃までに公共化の具体的な方向性をとりまとめることにしている。
聴覚に障害のある芦田さんも、電話リレーサービスの普及と理解に活動を行っている。
岡山県内の商業施設の従業員向けにおこなわれた手話接客の講習会の講師として招かれた芦田さん。講習会の最後に「電話リレーサービス」への理解を従業員に求めた。
芦田タキ子さん:
電話リレーサービスから電話がかかってきたら、今日ここで話したことを思い出して対応してもらえたら嬉しい。聞こえない人も聞こえる人も同じように社会参加ができるようになって欲しい…
身近にある電話を聴覚障害者も当たり前に使うことができる社会へ…電話リレーサービスの公共化は通信のバリアフリーの象徴となるはずだ。
(岡山放送)