この時期、積雪の増加とともに注意したいのが除雪中の事故。
なかでも屋根からの雪下ろし中の事故が多いため、屋根に命綱を固定する“アンカー”の普及が急務となっている。

命綱の着用呼びかけも、課題が…

転落による死傷者が半数以上
転落による死傷者が半数以上
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毎年、冬になると発生する除雪作業中の転落事故。
新潟県内の雪による死傷者は昨シーズン364人。今シーズン(1月28日時点)もすでに98人にのぼっていて、このうち転落が原因の死傷者は56人と半数以上を占めている。

除雪作業中に転落
除雪作業中に転落

長岡技術科学大学 上村靖司 教授:
雪の多い年になると、全国で100人を超える人が雪に関わる事故で亡くなるといった状況が続いている。その大半が転落事故ということで、非常に大きな問題。早急に対策を打っていかなければいけない

雪の事故防止について研究している長岡技術科学大学の上村靖司教授。
事故が起こるたびに命綱の着用を呼びかけてきたが、その着用には課題もあった。

長岡技術科学大学 上村靖司 教授
長岡技術科学大学 上村靖司 教授

長岡技術科学大学 上村靖司 教授:
『命綱をつけましょう』というメッセージを具体的にしていくためには、“アンカー”と呼ばれるロープを結ぶ場所が屋根にないと話が始まらない。とにかくアンカーの普及が第一歩

命綱をつけるために欠かせない“アンカー”の設置。しかし、進んでいないのが現状だ。

転落事故を防ぐために① ”アンカーの設置”

命綱を固定する「アンカー」
命綱を固定する「アンカー」

実際にアンカーを設置した住宅で、どのような効果があるのか見せてもらった。
雪の下から出てきた金属のパイプと、そのパイプを支える金具。これが命綱のロープを固定するアンカー。

長岡技術科学大学 上村靖司 教授:
触ると分かるが、かなり頑丈でびくともしない。

転落事故を防ぐために② ”安全帯の準備”

安全帯
安全帯

アンカーが設置されたら、次はロープを体につけるための“安全帯”の準備。

長岡技術科学大学 上村靖司 教授:
安全帯の正式名称は『墜落制止用器具』

体全体を固定する『フルハーネス』、腰回りを固定する『シットハーネス』など、安全帯には様々な種類があるが、今回はシットハーネスを着用。

転落事故を防ぐために③ ”アンカーにロープを取り付ける”

アンカーと安全帯をロープで結ぶ
アンカーと安全帯をロープで結ぶ

最後に、設置したアンカーと安全帯をロープで結べば完了。

ロープの調節が大事
ロープの調節が大事

長岡技術科学大学 上村靖司 教授:
(ロープの)長さの調節がすごく大事で、屋根からはみ出ない長さにしたい

ポイントは、屋根の端に対して体1つ分内側に立ち、ロープの長さを短めに調節すること。
これにより転落の危険性がほとんどなくなると言う。

アンカーがあると安心感を持って作業できる
アンカーがあると安心感を持って作業できる

記者リポート:
屋根の端に来ると、落下の危険性を感じてしまうのですが、命綱があることで安心感を持って作業できます

自宅にアンカーを設置 米山二三男さん
自宅にアンカーを設置 米山二三男さん

今回、自宅にアンカーを設置したのは、これまで40年以上命綱なしで屋根の雪下ろしを行ってきたという米山二三男さんです。

米山二三男さん:
安心感というのをすごく感じている。やっぱり命綱をつけたほうが良いのかなと

屋根から転落した経験がある
屋根から転落した経験がある

こう話すのには、ある理由が…

米山二三男さん:
自分も1回だけ(屋根から)落ちたことがある。ちょっとバランスを崩して転んで、そのまま下の屋根に落ちてしまった

業者も頭悩ませるアンカー未設置…7割が知っていても普及せず

新潟県内のアンカー設置率はわずか6.8%
新潟県内のアンカー設置率はわずか6.8%

こうした事故を防ぐためにも、重要となるアンカーの設置。
しかし、新潟県が2021年8月に公表したアンケートでは、アンカーを設置していると回答した人はわずか6.8%にとどまっていた。

北都建設 加藤佐一郎 社長
北都建設 加藤佐一郎 社長

北都建設 加藤佐一郎 社長:
自分で雪下ろしを行えない人が業者に頼むが、業者もなかなかアンカーがないと屋根に上がることができない

藤川建設 藤川隆 社長:
高所作業ということで、落下事故を起こすと様々な問題が出てくる

アンカーを知っている?
アンカーを知っている?

アンケートでは、約7割がアンカーについて“知っている”と回答。
それでも設置に至らない理由は、その費用面にあるよう。

高額なアンカー設置費用…自治体では補助制度も

アンカーを設置しない理由(新潟県まとめ)
アンカーを設置しない理由(新潟県まとめ)

アンカーの設置費用の相場は10万円~30万円ほどと、決して安くはない。
アンカーを開発している三条市の雪止め金具メーカー・鈴文はその理由をこう説明する。

鈴文社員:
今は手間がかかるというか、一つ一つ単発で作るような形になってしまっているので、どうしてもコスト面を抑えるところまでいっていない

アンカーの大量生産は難しい
アンカーの大量生産は難しい

こちらのメーカーでは、豪雪地帯に多い屋根の形状に合わせて大きく3タイプ・10数種類のアンカーを販売しているが、注文数が少なく大量生産できないため、コストがかかってしまうと言う。

鈴文 鈴木一社長:
“この産業を広めていく”という形にしていけば、もっと安価で簡単にアンカーがついていくと思う

設置費用を補助
設置費用を補助

この費用面の課題を解決しようと、新潟県と市町村が連携し、設置費用を補助。
2021年度はこの補助制度を利用し、207軒でアンカーが設置されている。

「アンカー」を新潟から全国へ
「アンカー」を新潟から全国へ

雪国での暮らしで悲しい思いをする人が少しでも減るように…

長岡技術科学大学 上村靖司 教授:
毎年のように多くの人が事故に遭っている。こうした現状をなんとか変えていかなければいけない。そのための第一歩がアンカー普及だと思うので、新潟で先導しながら全国に広めていきたい。

(NST新潟総合テレビ)

NST新潟総合テレビ
NST新潟総合テレビ

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