日本の木造建築として2番目の高さを誇る「興福寺・五重塔」が、約120年ぶりに大規模な改修工事を行う。2031年以降に工事が終了する見通しだというが、工事はどのように行われるのだろうか。

約120年ぶりの改修工事を開始

奈良時代の730年頃に造られたとされる興福寺・五重塔は、日本にある木造建築としては、京都の東寺・五重塔に次いで2番目の高さを誇る国宝だ。

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奈良のシンボルの一つである五重塔だが、これから10年近くに及ぶ大規模な改修工事が行われる。日本建築史を専門とする東京大学大学院・海野聡准教授が、中心となって改修工事を監修する。海野准教授は、2023年4月に終えた薬師寺・東塔の改修にも携わった。

東京大学大学院 建築学専攻・海野聡准教授:
直近の修理は、明治30年代(1897年)頃に行われています。120年くらい前です

なんと、前回の改修は約120年前。約120年もの間、改修工事を行わずともその姿を保ってきたということだ。このことから、当時の建築技術がいかに優れていたかがうかがえる。

奈良県には、当時の修理に関する資料があり、工事の概要や、かかった費用の詳細な記録が残されている。

東京大学大学院 建築学専攻・海野聡准教授:
やはり120年というのは、屋根替えをするタイミングとしては適切なところです。部分的に瓦が傷んでいそうですし、あるいは屋根が少しS字を描くように沈下している…。“軒が乱れている”といったりします

奈良時代の都だった平城京で、藤原氏の氏寺として栄えた興福寺。建立にあたって専用の役所まで設置され、まさに“国家プロジェクト”として建てられた五重塔だが、実は…。

東京大学大学院 建築学専攻・海野聡准教授:
今の(五重)塔は6代目、およそ600年前に建てられたものです

火災や雷で何度も焼失していて、今建っている五重塔は、室町時代の1426年に再建されたものなのだ。

残されている当時の瓦が鍵に

東京大学には、興福寺が建立された当時の“1300年前の瓦”が残っていて、これがかつての時代背景を読み解く“鍵”になる。

東京大学大学院 建築学専攻・海野聡准教授:
模様が細やかなものが、興福寺の創建当時8世紀(700年代)頃の丸い瓦です

創建当時の700年頃に造られた瓦と、室町時代の1400年頃に造られた瓦を見比べてみた。

東京大学大学院 建築学専攻・海野聡准教授:
(1400年頃に造られた瓦は)真ん中(の細やかな模様)がなくなってきていて、だいぶ簡素な形に変わっています。やはり武士の台頭、社会の混乱の中で、往時(昔)の力に比べるとやや陰りがあったのかもしれません

工事完了まで最低でも8年

今後、2024年7月まで1年ほどかけて塔全体を覆うような建物を造った後、その中で修理を行う。修理の方法を海野准教授に聞いた。

東京大学大学院 建築学専攻・海野聡准教授:
瓦を1枚1枚剥がして、その瓦がもう一回使えるかを確認していって、使えるものは最大限使います。1枚ずつ叩いて音で判断します。外から見て大丈夫そうでも、中でヒビが入っていることがあるので確認を行います

膨大な数の瓦を手で1枚ずつ剥がして確認していくというのだ。瓦の数は約6万枚に及び、気が遠くなるような作業だ。

東京大学大学院 建築学専攻・海野聡准教授:
最低でも8年(かかる)。実際に中を開けてみて(状態が)悪ければ、より長く(かかること)も想定されます

材料費の高騰などで当初の予定よりも改修費用が膨らみ、約57億円かかるということだ。しばらく姿が見られなくなる興福寺だが、街の人は…。

周辺の土産物店・店主:
火事で建て替えはあっただろうけど、1300年続いているから、10年は知れています。スケールが違います

地元の70代男性:
2日に1回ぐらいは散歩がてら来ています。(10年後は)もう80歳。男性の(平均)寿命ですから、ここまで歩いて来られるかも分かりません。(修復後の姿を)できれば見てみたいですね

1300年ほどの歴史を思えば、約10年の年月は長くはないと言えるかもしれない。海野准教授は今回の工事について次のように語った。

東京大学大学院 建築学専攻・海野聡准教授:
今、我々が見ている木造建築も先人たちの不断の努力の結果で、ようやく我々が遺産として受け継いでいます。目先の数十年の話じゃなく、最低でも100年、できれば400年のスパンでちゃんと残せるお手伝いができればうれしいなと思います

120年ぶりの大改修を経た姿を見られるのは、2031年以降となる見通しだ。過去には薬師寺・東塔の解体修理で、日本で最初に流通した貨幣といわれている和同開珎が出土している。今回の工事でも、何らかの発見があるかもしれない。

(関西テレビ「newsランナー」 2023年10月12日放送)

関西テレビ
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