伝説の牛「平茂晴」
全国でも注目を集めるブランド長崎和牛。やわらかいのはもちろんだが、脂がとても甘く、鼻を抜ける香りがたまらない。
この記事の画像(12枚)長崎和牛は2012年に開かれた「和牛のオリンピック」全国和牛能力共進会の肉牛の部で、日本一に輝いた。
5年後開かれた次の大会でも特別賞を受賞し、(2017年、米交雑脂肪の形状賞)2大会連続で品質の良さが評価されている。
長崎和牛日本一の裏には、ある「伝説の牛」の存在があった。伝説の牛、その名も「平茂晴」!
壱岐で生まれたオスの種牛で2017年、老衰により19歳でこの世を去った。
銅像は平茂晴の功績をたたえようと今年建てられ、農家などからは1700万円を超える寄付金が集まった。
平茂晴が伝説になったのには理由がある。
長崎県肉用牛改良センター 峰靖彦所長:
平茂晴の、生涯に産まれてきた子どもたちが10万頭以上。県内に今いる牛が9万頭前後なのでそれと比べても、10万頭というのがいかに多いかわかっていただけるかと思います
これまでに生まれた平茂晴の血を継いだ子どもは 10万4392頭!
共進会で日本一に輝いたのも平茂晴の孫牛。他にも多くの部門で子どもや孫牛が賞を獲った。平茂晴は「数」と「肉質」両方の意味で、県内の肉用牛生産に大きく貢献してきた。
平茂晴が子だくさんのわけは?
平茂晴がこの世を去って2年。
JAながさき西海 キャトルセンターを訪ねるとまだ体の小さい子供の牛がいた。
ーーどんな牛?
JAながさき西海 キャトルセンター 福浦友昭場長:
平茂晴の子供で生後6ヵ月です
平茂晴の「子ども」がたくさん!どうして死から2年が経った今も子どもが生まれ続けているのか?
答えは液体窒素の入ったタンクから取り出された、ナゾの物体にあった。
ーーこれはなんですか?
長崎県肉用牛改良センター 岩永博司専門幹:
凍結精液です
ーー牛の精液は凍結している状態からお湯に浸すことによってまた動き出すということですか?
長崎県肉用牛改良センター 岩永博司専門幹:
はい
長崎県平戸市にある長崎県肉用牛改良センターでは、種牛など約140頭を飼育しているほか、優秀な種牛の精液を採取し有料で販売している。
平茂晴の精液はメス牛を飼う農家の間で争奪戦になったこともあったそうだ。
長崎県肉用牛改良センター 峰靖彦所長:
平茂晴の子供たちは特に(体が)大きくなる。皆さんがロースステーキで食べられるお肉に霜降が入っていると思うが、その霜降りが(子どもに)非常によく入る
平茂晴のようなすぐれたDNAを持つ種牛はどのように誕生しているのか?
こちらは「直接検定牛」と呼ばれる生後約7ヵ月の種牛候補だ。
背の高さや体の大きさを測定し、能力が高いかどうかを判定する。
県肉用牛改良センター 松本健二主任技師:
例えば発育が良かったり幅が広かったりという牛であれば、種牛になった場合、その産子もよりたくさんお肉が取れる
第2、第3の平茂晴
一人前の種牛が完成するまでには約6年かかる。
まず、県内で能力が高いとみられるオス牛16頭がセンターに集められ、検定を経て4頭が選抜される。
4頭それぞれから生まれた15頭以上の子どもの肉質データを分析し、一定の基準を満たせば「優秀なDNAを持つ」として種牛として育成されていく。
こうして誕生した第2、第3の平茂晴がいる。
その名も「金太郎3」。そして「弁慶3」だ。
弁慶3を世話する松本拓郎技師:
(弁慶3は)おとなしいけど頑固、頑固なところがありますね
大きく成長すると体重が900キロを超える種牛もいて、もし暴れると大変だ。そこで欠かせないのが日々のコミュニケーション。愛情を注ぐことで精液の採取もスムーズになる。
弁慶3を世話する松本拓郎技師:
言うことを聞いていたのが、ある日を境に走り出そうとしたり。また言うことを聞くようになったんですけど、ちょっとした牛と人との距離感がズレたら…その距離を保つのが大変ですね
ーー足を上げるのはどういうサイン?
金太郎3を世話する種本雄一技師:
気持ちいいときとか、かゆいところを(ブラッシング)すると…性格も一頭一頭違うし顔も違うし、いろんな牛がいる。農家さんに使ってもらえる、自信を持って言えるような牛を作っていきたい
平茂晴に次ぐ、「モ~」1つの伝説は誕生するのか?
日本一の長崎和牛のはじまりの場所には人の牛への愛情があった。
(テレビ長崎)