冬の定番、鉢花の代表格として人気を集めるシクラメン。実は長野県が出荷量全国1位を誇る一大産地であることをご存じでしょうか。クリスマスや年末にかけて出荷のピークを迎える今、県内の生産者たちは贈答用の高級品から、これまでにない珍しい品種まで、多彩なシクラメンづくりに情熱を注いでいます。産地ならではのこだわりと技術、そして、挑戦を続ける生産者たちの姿を追いました。

■道の駅で出会える4万株の彩り

飯島町の道の駅には、直営の花屋があります。季節の花々が並ぶ店内で、ひときわ目を引くのがシクラメンのコーナーです。色も形も豊富で、その品種の多さが訪れる人々を楽しませています。

中南信を中心に広く栽培されているシクラメン。

飯島町の道の駅では、隣接のハウスで栽培する4万株ものミニシクラメンから、好みのものを自由に選んで購入できるのが特徴です。贈答用の品も充実しており、豊富なラインナップが人気を集めています。

訪れた客たちは口々に魅力を語ります。

「最近はいろいろな色が出てきて見るのが楽しい」「赤色が好きです」という客や、「毎年新しいものを買っています。かわいい花びらが多いので気に入っています」と話す夫婦の姿も。

涼しい気候を好むシクラメンにとって、標高が高く冷涼で日射量が多い飯島町は、栽培に適した環境なのだそうです。


■贈った人も贈られた人も笑顔に

飯島町のあるハウスでは、およそ30品種のシクラメンが栽培されています。ここで育てられているのは、主に贈答用として出荷される、いわゆる高級シクラメンです。

産地ならではのこだわりや技術で育てる鉢花農家の宮沢健一さん。

主に中京圏や道の駅に出荷しています。出荷直前、宮沢さんは一鉢一鉢を丁寧にチェックしながら、形を整えていきます。「贈答用なので贈った人も贈られた人も両方笑顔になるようにしないと」と語る表情には、プロとしての誇りがにじみます。

宮沢さんは長野県が主催する鉢花類コンクールで、最高位である農林水産大臣賞を2年連続で受賞した経歴の持ち主です。その宮沢さんが理想とする花の形があります。

「葉がドーム状で、真ん中に花がたくさん、花の高さが均一で低い花がないのが理想の形です」

最近人気なのは、バイカラー咲きと呼ばれる2色咲き。「色が上下で分かれていて、特に下が白で上がピンクやオレンジが人気になりますね」と教えてくれました。

■こだわりの管理で高品質を維持

形の良いシクラメンを作るために、宮沢さんは5000鉢という膨大な数を、ひとつひとつの状況に合わせて管理しています。高品質を維持するための、細やかな気配りです。

特に重要なのが「葉組み」と呼ばれる作業です。「葉っぱを外にやって、それを3回、4回繰り返して真ん中から花がたくさん綺麗に上がるようにっていうのをやっています」。

この地道な作業の積み重ねが、美しい形のシクラメンを生み出すのです。

今年の状況について尋ねると、「年々暑さの影響で成長が夏に止まっちゃったりして、ちょっと遅れ気味かなっていうのはあります」と正直に答えてくれました。

しかし、「ちゃんと管理して、暑さを乗り越えてきた花たちはもうみんないい感じに咲いてるんじゃないかなと思いますね」と自信をのぞかせます。

贈答用の高い技術を学びに、上伊那農業の高校生が実習で訪れることもあり、後進の育成にも尽力しています。

宮沢さんは語ります。「職人気質な人間なのでどうせならこだわりたい。買ってくれた人がずっと『いいものが欲しい』というのを作りたい。そうすれば景気が悪くなろうが好きなものは必ず買ってくれる」。

■8年かけて誕生した「プチティアラ」

一方、原村には個性的なシクラメンを育てる生産者がいます。現在、農林水産省に品種登録をされているシクラメンは319品種。実際にはそれ以上の種類があると言われています。

小松良比古さんが力を入れているのは、オリジナル品種の栽培です。「これがプチティアラという品種。これが一番先にできた品種です」と紹介してくれたのは、王冠のような花弁が特徴的なシクラメン。

「普通のミニシクラメンの中に王冠みたいな花弁がちょっと変わったのを見つけまして、そこからだんだん選んで交配して商品になりました」。

ここまで行くのにかかった時間を尋ねると、「やっぱ8年かかりましたね」という答えが返ってきました。

小松さんが品種改良に取り組んだのは約30年前から。現在は、花の形や色に特徴がある7種類を育てています。


■「森の妖精」が生まれるまで

特にこだわっているのが花の色です。人気の赤やピンクは、鮮やかで発色の良さを追求。また、光によって青にも紫にも見える魅惑的な「ミスティックブルー」など、珍しい色の品種も手がけています。

そして、今までにない色を求めて誕生したのが、ライムグリーンのシクラメン「森の妖精」です。「これはシクラメンにない色っていうとこですね」と小松さん。

「真っ白の純白の品種を作ってたんです。その中に淡い色がちょこっと出たもんで。数鉢、何千鉢の中の数鉢だけ。それをだんだん研究重ねてやっとこの色にたどり着きました」。

「見たことない、すごい色だって。そういう声を聞くと嬉しいですね」と目を細めます。

珍しい色は専門店からの需要が高く、東京、大阪の花市場に出荷しています。

独自に交配して作り上げたオリジナル品種。名前を付けるのは妻の辰子さんの仕事です。「名前は本当に大事。一生懸命考えます。

森の妖精は花屋さんもかわいい名前だって言ってくれた。子どもみたいでかわいいよね」と笑顔で話します。

小松さんは言います。「消費者の皆さんが喜んでくれるような色を出したい。そういった色を出すために試行錯誤を重ねて交配して作り出すのが楽しい」。

産地・長野が誇るシクラメンは、生産者たちのたゆまぬ努力と情熱に支えられているのです。

長野放送
長野放送

長野の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。