一風変わった「閉店のお知らせ」が話題

街中で見かけるとどこか寂しい気持ちになるものと言えば、店舗が閉店するときのお知らせ。店主の思いやお客への感謝などがつづられていたりして、何とも言えない哀愁を感じさせる。

だが、その伝え方によっては人々を笑顔にできるかもしれない。いま、一風変わった「完全閉店のお知らせ」がTwitterに投稿され、ネットをざわつかせているのだ。

やばい行きつけのコーヒー豆屋さんがあと30年で閉まっちゃう

このように投稿したのは、Twitterユーザーのおっちー(@occhi1976)さん。埼玉・さいたま市のコーヒー豆店「なごみや」を訪れたところ、店主に「うち、しめちゃうんだよねー」と言われ、「☆完全閉店のお知らせ」というチラシを手渡されたという。

完全閉店のお知らせだが、よく見ると…(提供:おっちーさん)
完全閉店のお知らせだが、よく見ると…(提供:おっちーさん)
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そこには、「東川口でスタートして早10年が過ぎ、皆様には大変お世話になりました。年齢的に限界を感じる年となるため閉店する運びとなりました。長い間ありがとうございました。」と書かれていた。しかし、その下にはこう続いていたのだ。

日付:2050年9月4日(日)
理由:年齢(90歳)により閉店
それに伴い
2025年9月3日(水) 週休2日制移行
2030年9月3日(火) 週休3日制移行
2035年9月3日(月) 週休4日制移行
2040年9月7日(金) 週休5日制移行
2045年9月2日(土) 週休6日制移行
予定はあくまで予定ですので、状況に応じて変更の可能性がございます。
あしからず‼

閉店は閉店でもなんとそれは、店主が90歳を迎える30年後。しかもよく見ると、週休は5年ごとに1日ずつ増えるようになっていて、加齢をいたわるものとなっている。

閉店は2050年…週休も増えている(提供:おっちーさん)
閉店は2050年…週休も増えている(提供:おっちーさん)

このお知らせは反響を呼び、他のTwitterユーザーからは「閉店まで付き合うしかありませんね!」「まだまだやる気満々ですねw」などと、ユーモアを称える声が相次いだ。

60歳前後で定年を迎える人も多い中、90歳までお店を続けようとはエネルギッシュだが、なぜ今、30年後の閉店を告知したのだろう。そこにはどんな思いがあるのだろうか。

なごみやの店主である、髙野央司さんに伺った。

「この際だから」と少し先まで書いた

ーーなぜ、2050年の閉店予定をお知らせした?

私の誕生日は9月4日で、2020年に還暦を迎えました。現在は週休1日ですが、2025年には週休2日にしようと考えていて、そこから5年ごとに休みを増やしたところ、私が90歳となる2050年の9月4日で全部の曜日が休みとなったので、この際だからと少し先まで書きました。


ーー週休の曜日と年代はどう決めた?

お客さまの来店者数と身体の負担を考えて決めました。現在は木曜日がもともと休みで、次は水曜日、その次は火曜日を休みにしようと思います。(営業日を)「少しずつ減らしていくんだ」という見方をしてもらえればと思いました。

ただ、現実的には週休3日位が限界かなとも思っています。1週間分のお客さまが1日に来ると、対応しきれなくなってしまうので…。週休4日以降はお客さまの人数にもよりますね。


ーー2050年9月4日を閉店日に選んだ理由は?

いつかはお店をやめなきゃいけないので、閉店をいつにしようかと考えたとき、30年もあれば代わりのお店を見つけてもらえるんじゃないかなと思いました。そこまでお店が続くかどうか、自分が生きているかという問題もありますけどね。

「なごみや」の外観(提供:髙野さん)
「なごみや」の外観(提供:髙野さん)

自らも過去に閉店のショックを経験

ーー開店から10年とのことだが、お店を始めた経緯は?

以前は別の人が運営していたのですが、閉店するというので引き継がせていただき、2010年4月から始めました。私は当時、中学校の教諭だったのですが、体調がよくなかったので一度お休みしてのんびりしようと思っていました。そこに閉店するという話を聞いたので、じゃあやらせてもらおうかなと思い、転職をした形ですね。その後に移転し、今は自宅がお店です。


ーー教諭から転職とは思い切った決断だが。

よく利用したお店だったので、閉店と聞いたときかなりショックだったのを覚えています。自分の飲むコーヒーがなくなってしまう、困ると思ったんです。今回、閉店のお知らせをしたのも、そうした気持ちが心のどこかにあるかもしれないですね。閉店のショックも30年先なら、のんびり受け止めてもらえるかなと。

もしもお店を30年やれて、私も90歳になれたら、常連さんとかがお祝いしてくれるかもしれませんね。お祝いを求めているわけではありませんが、「もうあと何日だね」みたいに、普通の閉店とは少し違った見方ができるのかなとも思いました。

お店ではコーヒー豆のほか、お菓子などを扱っている(提供:髙野さん)
お店ではコーヒー豆のほか、お菓子などを扱っている(提供:髙野さん)

ーーお勧めの商品やメニューを教えて

お客さまとお話しして、好きなものを見つけるのが私の仕事なので、お勧めと言える商品はありません。必ずしも売れている豆を勧めるという訳でもなくて、どんな珈琲豆を召し上がっているのかなどを聞き、ブレンドなども話していきます。お客さまも、買う量も豆の配合も個人個人で決まっていることが多いので、お勧めはないんです。

今のままでのんびりやれたら

ーーお店の後継者や希望する人はいないの?

今のところはいないですね。私がお店を引き継いだときは、居抜きで引き継ぎましたが、今のお店は私の自宅です。後継すると言われても、引き継ぐ人に特典のようなものはないと思います。来てくれる、お客さんがいるくらいでしょうか。


ーー閉店のお知らせが話題となったが、反響は?

話題となったことは、取材のお話しで初めて知りました。最初は「大変なことになった」と思ったのですが、投稿者は悪意があるわけではなく、お店のことを分かってくれてもいたので、取材などもお受けしようかと思いました。

実際のお客さまからだと、先日、近所の人がお店にきて「私のところにバズったのが飛んできたわよ」という、お話しをいただきました(笑)。


ーーお店はこれからどう運営していきたい?

私のお店は普通の販売店と違い、お客様の滞在時間は15分から1時間以上、次のお客さまが来るまでということもあるのですが、私のコンセプトは見えないお客さまに売るよりは顔を見てお話しをしていくことなので、今のままでいいのかなと思います。

お店は教員時代に務めていた学校の学区内にあり、近所には教え子がいっぱいです。その教え子が自分の子供を連れてきて「先生、生まれたよ」なんて、話してくれるんです。他にも子供の悩みごとや部活の相談にも来てくれたりして、のんびり、楽しみながらやれています。


一風変わった閉店のお知らせには、店主の髙野さんが過去になじみのお店を失ったショックを、お客にさせたくないという優しい思いが隠れていた。

閉店は文字で見ると寂しく感じるが、今回のお知らせなら、2050年まではお店が続くと考えることもできる。そのアイデアに拍手したい。

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。