世界の政治家やセレブ・要人のツイートをモーリー流に翻訳・解説する「Twittin' English」。今回は7月19日、イラン外務次官のツイート。



モーリー:

日本国内はさまざまなニュースで揺れていますが、このコーナーは独自路線でいきますよ。
アッバス・アラグチという日本人のような名前のイラン外務次官が、ツイートで余裕をかましています。

We have not lost any drone in the Strait of Hormuz nor anywhere else. I am worried that USS Boxer has shot down their own UAS by mistake!

我が国は、ホルムズ海峡でもそれ以外の場所でも、一切ドローンを失っていません。私は、米軍艦ボクサーが自国のドローンを誤って撃ち落したのではないかと心配しています。


この感嘆符がなんだかトランプ大統領のパロディのようにも感じられますが、内容でもアメリカを揶揄しています。
キーワードになるのは、「drone(ドローン)」や「the Strait of Hormuz(ホルムズ海峡)」で、面白いのは「USS」。United States Shipの頭文字を取ったもので、アメリカ海軍艦艇の艦名に付けられる接頭辞だということです。

「心配している」と言っていますが、これはもちろん皮肉。まず経緯を説明します。

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拿捕にスパイ容疑…欧米に強硬姿勢のイラン

【7月18日】
トランプ大統領は、ホワイトハウスで次のように発言しました。

「約900mまで接近してきたドローンに対し、防衛措置を講じた。複数回警告したが無視し、艦艇と乗員の安全を脅かしたからだ。ドローンは直ちに破壊された」

アメリカの艦艇に近づきすぎたドローンが警告を無視したため、撃ち落したと発表したのです。ここでは言及しませんでしたが、後にアメリカ当局者の話として、「イランのドローンを撃墜した」と追加情報が報道されました。


このトランプ大統領の発言に対する反論が、先ほどのアッバス外務次官のツイートです。「あなたはどこの国のドローンを撃ち落したんですか?自国のものではないですよね?イランのドローンは全て無事ですが」と挑発しているのです。

加えて、イランのザリフ外務大臣も「無人機を失ったという情報はない」と国連本部で発言し、トランプ大統領との意見と食い違いを見せました。

【7月19日】
イランの強硬派であるイラン革命防衛隊が、国際的な航行規則に従わなかったとして、イギリスの石油タンカーをホルムズ海峡で拿捕しました。

実は、これに先立って、イギリス領であるジブラルタル当局がイラン船籍の船を拿捕していました。イラン船籍の船がシリアに対して石油を密輸しようとしていたことが理由です。
19日のイラン革命防衛隊によるイギリス石油タンカー拿捕は、この報復であると見られています。


【7月22日】
イランの情報高官は、機密情報を収集していたとされる17人が「CIAのスパイである」として逮捕され、うち数人がすでに死刑判決を受けたと明らかにしました。

このあたりの真相はあやふやなのですが、イラン側の説明では、容疑者らは全員イラン人。主に国内の民間企業に勤務していて、原子力・軍事・インフラ・サイバーなどの重要分野に従事し、それぞれが独自にスパイとして行動していたというのです。


軍事衝突に発展しそうな気配がプンプンしていますが、どうなるのでしょう。
6月13日にホルムズ海峡付近で2隻の石油タンカーがイランらしき組織から攻撃を受けた事件がありましたが、現在このようなことが日常化してしまっているのです。

イランの最終決定権を持つのは誰? 対話と武力で揺れる国内

私は今回の件を受けて、いくつかの側面に注目しています。

その1つが、イランの船がどうやらシリアのアサド政権を支持していること。これに対しEUは、「反人道的なアサド政権に石油を渡そうとする船は拿捕する」としていました。
にもかかわらず、EUの枠組みにおける対シリアの“西側国際社会の決議違反”をイランが公然と行ったため、ジブラルタルで拿捕されてしまった。

きちんと謝罪をすれば、しばらくしてから石油とともに船を返してもらえたと思うのですが、拿捕を受けたイランの強行派政治家たちは「これは喧嘩を売られている。イギリスはアメリカの弟子、“子犬”だ。こちらも相応の対応を」と声を上げ、次第にその気運が高まっていきました。

そして、とうとう報復するかのようにイギリス船籍の船を拿捕したわけです。

穏健派のロンハニ大統領やハタミ元大統領は、武力ではなく対話による解決を訴え続けています。しかし、国内にはイラン革命防衛隊を含む強行派たちがいて、彼らは「対話はすべて時間の無駄だ」と主張しています。

またイランは、EUとは核合意と引き換えに経済制裁を解くという約束もあります。
イギリスもEUの一員ですから、今回、イギリスに対して穏便に対応していれば、まだ核合意を延長する可能性がありました。しかし、ここでわざわざEU側の船籍を捕まえるということは、「もう核合意はいらない」と言っているに等しい。
どうもイラン革命防衛隊の意見が強くなり、穏健派の経済制裁解除という夢は遠くなっているようです。

穏健派のハタミ元大統領は、イギリス紙に対して次のように答えています。
「イラン国民は武力衝突ではなく平和を望んでいるのにもかかわらず、トランプ大統領は理不尽に核合意を破棄し、アメリカは一方的に中東に関与している。今こそアメリカの心ある人は、平和に向けて声を上げてほしい」
ところがその裏で、イランはイギリスの石油タンカーを拿捕しています。

結局、誰がイランの最終決定権を持っているのか?
大統領は穏健で、イラン革命防衛隊はその下に位置しているはずなのに、最高指導者のハメネイ師は、“ファミリー”であるイラン革命防衛隊の意見を汲んでいるのです。

こうして、イラン国内でのパワーバランスが崩れ、対話路線が狭まって強行派の声が大きくなっていく。そして、アメリカ政権の中にもボルトン大統領補佐官のような武闘派がいます。

このマイノリティーでありながら両側で力を握ってしまった人たちが、衝突へと向かっている可能性があります。そして、その危険性は、6月にアメリカとイランの緊張関係についてお伝えした時よりも増していると感じています。

(BSスカパー「水曜日のニュース・ロバートソン」 7/24 OA モーリーの『Twittin' English』より)

モーリー・ロバートソン
モーリー・ロバートソン

日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学とハーバード大学に現役合格。1988年ハーバード大学を卒業。タレント、ミュージシャンから国際ジャーナリストまで幅広く活躍中。