「頼れる妻」が…幸せな家庭を襲った事件
2019年10月20日、福岡・太宰府市にあるインターネットカフェの駐車場で1人の女性の遺体が見つかった。
佐賀・基山町の主婦・高畑瑠美さん。当時36歳。全身に木刀などで殴られあとがあり、無残で痛々しい姿は、対面した遺族が瑠美さんと分からないほどだった。
この記事の画像(20枚)福岡県警はその後、男女3人を逮捕する。
太宰府市の無職・山本美幸被告(41)と岸颯被告(25)。筑後市の元暴力団組員・田中政樹被告(47)。3人は、傷害致死や死体遺棄などの罪で起訴され、いずれも起訴内容を否認している。
この事件は、「被害者と被告らのいびつな関係」がある特異なものだった。家庭を持つ瑠美さんが、山本・岸両被告と奇妙な同居生活を送っていたのだ。
瑠美さんは、なぜ赤の他人と同居していたのか?
1年にわたって事件の関係者への取材を重ねた結果、非常に複雑な人間関係と一家をのみ込んだ山本被告たちの脅迫や洗脳、そして支配の構図が浮かびあがってきた。
高畑瑠美さんの母親:
今でもまだ娘が亡くなっているとは思えません
高畑瑠美さんの夫・高畑裕さん:
助けてほしくて警察に行っているのに、警察が動いてくれないんだったら、どうしたら良いんだろう
福岡県警は、遺体が見つかった車に同乗していた太宰府市の無職・山本美幸被告ら男女3人を傷害致死などの罪で逮捕した。
夫と子ども2人の4人家族だった瑠美さん。長距離トラックのドライバーで、家を空けることが多い夫の裕さんにとって、留守を任せられる「頼れる妻」だった。
高畑瑠美さんの夫・高畑裕さん:
無理だけはせんようにとか、寝不足にならないようにとか、そこら辺を気を遣ってくれていた。家のことを何でも自分からよくやってくれるいい嫁でした
目を疑うような写真 被告との奇妙な同居
どこにでもある幸せな家庭だったはずが、事件が起きる数カ月前、瑠美さんは、突然家を出て行ったという。
記者:
被害に遭った女性と被疑者数人が、こちらの建物に住んでいたとみられます
太宰府市にあるアパート。家を出た瑠美さんが、山本被告や岸被告と生活を共にしていた場所だ。
瑠美さんは、なぜ赤の他人と奇妙な同居生活を送っていたのか?
そのきっかけは、瑠美さんの兄の「金銭トラブル」だった。
高畑瑠美さんの夫・高畑裕さん:
兄のことで、(山本被告から)お金の請求が度々あった
瑠美さんの兄は、約10年前に失踪。山本被告は、兄の借金が残っているとして、保証人でもない妹夫婦にその借金を肩代わりさせていた。
瑠美さんは、その返済に苦心していたというが、取材を進める中で目を疑うような写真を入手した。事件の半年前に撮られた山本被告と瑠美さんが肩を並べて酒を飲む写真だ。
金を取り立てられていたはずの瑠美さんは、いつの間にか山本被告に取り込まれ、家族に金を要求する側に回っていたのだ。
瑠美さんの母親は、その時の様子を今でも不審に思っている。
高畑瑠美さんの母親:
瑠美が電話をしてきた時に、後ろで何か聞こえるんですよね。誰かがいるみたいな。誰かに言わされている、そんな感じがした
これは暴行現場のアパートで見つかった瑠美さん直筆のメモ。
(暴行現場で見つかった瑠美さんのメモ)
この前、メールで借金取りって言ったんだけど、実は使い込んだもので、お金を返してって言われとると。30万を返してって言われているから準備してほしい
母親に金を要求するための文言が、一言一句書いてある。まるで何かの「手引書」のようだ。
予想だにしなかった警察の対応
瑠美さんを仲間に取り込んだ山本被告は、田中政樹被告に暴力団員を名乗らせ、夫の裕さんに圧力をかけていく。
これが、実際の音声だ。
(テープレコーダー)
山本美幸被告:
あなたに貸したお金は、きちんと返済してくださいと約束しておりますので、返済をしてください
高畑瑠美さんの夫・高畑裕さん:
すみません、できません
山本美幸被告:
何が?
田中政樹被告:
弁護士入れたんか?
高畑瑠美さんの夫・高畑裕さん:
はい
田中政樹被告:
弁護士入れたところで…。やれるもんやったらやってみ…。いい加減にしとけ、おりゃ
妻を取り込まれ、暴力団を名乗る男にも脅された裕さんは、警察に被害届を提出しようとした。しかし、佐賀県警の対応は、予想だにしないものだった。
(遺族が録音した音声)
鳥栖警察署 A巡査:
払わなかったら殺すぞとか、払わなかったらどうするっていうことがまだ出てきていなくて、今のところは脅迫だと断定できない
遺族:
被害届を何で受理せんと?
鳥栖警察署 A巡査:
どうしようもないという状況という感じではないので
高畑瑠美さんの夫・高畑裕さん:
警察署を出て行く時は、自分の頭の中が放心状態に近かった。警察って、何かあっても頼りにならないのかなって考えたりした
遺族は、2019年6月から9月にかけて11回も相談に訪れたものの、佐賀県警は、とうとう重い腰を上げることはなく、最後の相談から1カ月後に瑠美さんは亡くなった。
瑠美さんの兄「借金と失踪は巧妙なわな」
瑠美さんの身に一体何が起こっていたのか?
事件後、取材班は、10年にわたり失踪していた瑠美さんの兄と接触することができた。兄は、借金と失踪は山本被告による「巧妙なわなだった」と証言した。
高畑瑠美さんの兄・亮太さん:
マインドコントロールされていたと思います
ーー事件について知ったときはどういう気持ち?
高畑瑠美さんの兄・亮太さん:
(瑠美の死が)現実となった時に、正直どうしたら良いかわからなくなってしまったのが事実
そして、遺族のSOSに応えなかった佐賀県警の対応に迫った。
記者:
Aさん? TNCなんですけど、高畑瑠美さんの事件について伺いに来ました
鳥栖警察署 A巡査:
…
記者:
このままで良いんですかね? 遺族は後悔しているんですよ
鳥栖警察署 A巡査:
…
記者:
Aさん!
(テレビ西日本)
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