【アート】JR札幌駅南口の再開発工事エリアの仮囲いに国内最大級の巨大な壁画を描き、注目を集めるJAPAN AX PROJECT(ジャパンエーエックスプロジェクト・札幌)。山田真史社長に、まちに彩りを添え、人を呼び込むアートの魅力について聞きました。
BOSS TALK#100

――社名のエーエックス(AX)って何ですか。
「DX化をはじめ、どんどん効率化する世の中。もう少しアナログ的なもの、芸術的なものを育むところに本当の暮らしの豊かさがあるという意味を込め、(DXに対照的な)造語『アーティスティック・トランスフォーメーション(AX)』を作り、広めようと考えました」


専門学校卒の学歴に打ち勝つため、「長時間、死ぬほど働いた」

――学生時代から芸術系だったのですか。
「子どもが好きだったので保育士、次に結婚式が好きだったから、ウエディングプランナーを目指しましたが、いずれも大変な仕事だと分かりました。そこで未来を考え、リクルートの(結婚情報サービスの」『ゼクシィ』の求人に応募しましたが、不採用でした。トーク力が足らないのが敗因と思い、もっと磨こうと、3年間ほど新車の営業をして再び、ゼクシィに応募しましたが、学歴がなく、だめでした。私は専門学校卒。採用は大卒でラインが引かれていました。これまでの経験を生かし、(中古車情報サービスの)『リクルートカーセンサー』に派遣で入り、2カ月後に契約社員、2年後に社員になり、その2年後に本社に出向にしました」
――東京でどういう仕事をされましたか。
「商品を売り、納品し請求して入金のフローを管理する仕事です。400人ぐらいの営業マンに指導、指示するプレイングマネージャーみたいな形でした。死ぬほど働きました。学歴に勝るのは(勤務)時間しかありません」


自宅のリビングに描いた壁画 人生のべスト3に入る貴重な原体験

――今の仕事とは、まだ全然つながってきません。
「『北海道に帰りたい』という家族の希望もあり、戻って来てシステム開発会社『グルーコード』に役員で入りました。新規事業として、リフォームとリノベーションのウェブサービス事業を手掛ける新会社『モノクラ』を立ち上げ、3代目の代表になりました。リノベーション事業者が新たな取り組みを探る中、壁に絵を描くアイデアを出したら、おもしろいと、うけが良く、事業化することにしました。そこで、自宅のリビングの一角にアーティストに絵を描いてもらいました。4、5日間、アーティストと会話をして交流を深めながら、プロセスを見ていて、すごく良いものを作っていると実感しました。これは人生のベスト3に入るすばらしい原体験になりました。これなら、みんなやりたくなるはずだと思い、起業しました」
――事業を切り離して独立したわけですね。
「安易と言えば安易ですが、その思いだけで会社を立ち上げ、ずっとビジネス畑にいて、アートの業界の経験はないので、いろいろな壁にぶち当たり続けています」


JR札幌駅南口の壁画が「観光名所」に 人を呼び込む効果も

――思い出深いプロジェクトは?
「石狩管内新篠津村役場からご依頼があって、村内の米倉庫の壁画を描きました。その前にある広場でお祭りとして、壁画のライブペインティングを行い、村長をはじめ、地域の人がビールを飲んで盛り上がりました。村の一つの場所を作り、自分たちもその一員になれた。壁画って人を集わせる効果もあると言われていて、そういう場所が新篠津村に作れたのはプロジェクトとして良かったと思います」
――今、力を入れて取り組まれていることは?
「JR札幌駅(南口の再開発工事エリア)に去年、幅約100メートルの壁画を描きました。無機質な工事の仮囲いにアートが描かれ、通りかかる人が『この道を通るのが楽しくなったよ』と言ってくださいました。壁画が札幌の観光名所のように取り上げられました。いろいろな地域に大きな壁画を描いて新たな観光名所を作る―。新しい人流の作り方として壁画を活用したいと思っています」
――あの壁画は山田さんにとって挑戦でしたか。
「駅のすぐ横のパブリックな場所に壁画のある地域は全国でもなくて、さらに日本最大級の幅約100メートル。制作がまだ暑い時期で、人通りがあり、けが人が出ないよう気遣い、チャレンジというか、非常に大変でしたね」
――道外のアーティストが描いており、なぜ、北海道の人に任せられないのかと残念でした。しかし、山田さんたちがアートを求める人とアーティストをつなぐ仕事をしたと知って良かったと思います。
「北海道のアーティストの育成に向け、北海道にアーティストが集まる環境づくりをしたいので、世界で活躍し、実力のあるアーティストを連れてきました。」


親の幸せは子どもの幸せ」 夢は子育て中の親が楽しめるサービスの提供

――北海道という土地を生かした展開はありますか。
「北海道って良い場所がたくさんありますが、行く理由がなかったり、行く理由が一つだけだったりすると、(わざわざ空路で)2、3時間かけていくのかとなります。壁画を道内各地に描き、人流が作れれば、もっと人が北海道にやってくる。すべての地域が手を取り合うツールとして、壁画を作れれば良いなと思います。
――今後の夢は?
「子どもが大好きです。子どもを育てる親が幸せなら子どもは幸せだと思います。例えば、壁画やワークショップで親御さんが『今日は一日中、楽しかった』って思っていただく。子育てしている親が幸せになることを念頭に事業づくり、サービスづくりをしていきたいと思います」
――アートが地域をつなぎ、アートが人と人をつなぐ。そういった幸せな未来がアートをコアにできれば良いなと感じました。

北海道文化放送
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