経済的な壁を越え 夢を追う場所を
「この春、人生を変えたい」。そんな決意を胸に、15歳から25歳の若者14人が講習会に集まった。沖縄県内で9店舗を展開するネイルサロン「琉佐美(りゅうさび)」が開いた無料のネイルスクールだ。

主宰するトンケリー美由紀代表はこれまでに国や県の職業訓練事業を通して約500人のネイリストを育成してきた。経済的な理由で夢を諦めざるを得なかった若者たちの姿を何度も目にしてきたからだ。「学歴や家庭環境ではなく、実力で未来をつかめる場をつくりたい」と無料スクールを始めた。
ネイリストは努力次第でスキルも収入も伸ばせる仕事だ。指名料や売上手当などが自分の頑張りに直結し働く中で自己肯定感も育まれる。若者たちの経済的な自立と心の支えになりたいとトンケリー代表は考えている。

22歳 もう一度夢を追う
北谷町出身の津覇佳蓮(つは・かれん)さん(22)は受講生の中でも特に熱心にメモを取っていた。ネイリストは高校時代に憧れた職業、今ようやく追いかけられている日々に胸を弾ませている。

高校生の時に父親が亡くなった。家計は苦しくなり進学を断念。給付型奨学金で短大に進学し卒業後は一般企業に就職したが、突発性難聴を発症して退職せざるを得なかった。
療養中は何度も心が折れそうになった。海辺を歩いて気持ちを落ち着かせた。「波の音を聞きながら、ただ空を見ていました」。ネイリストになる夢を思いだしたふとしたきっかけだった。

ネイルがくれた心の彩り
ある日訪れたネイルサロンでつけてもらったピンクのネイル。その仕上がりに心がふわりと軽くなった。「今度は私が誰かに力を届けたい」。無料スクールへの応募を決めた。
開講から1カ月。受講生たちは実技練習に励んでいた。サロンで働くためにはネイリスト技能検定3級が必要となる。通常なら半年かけて学ぶ内容だがスクールで学べるのは2か月だ。65分間で両手の爪にマニキュアとトップコートを塗り、中指にはアートを施すという課題、津覇さんも日々技術を磨く。
「少しずつだけど、上達しているのが自分でもわかる。毎日が楽しいです」。同じ目標を持つ仲間と励まし合いながら過ごす日々に笑顔がこぼれる。

爪先から広がる希望の光
「私と同じような似た体験をした人に少しでも前を向いてもらえるようなネイルを届けたい」。あの頃、色を失っていた日々に希望の光をくれたネイル。今度は自分が誰かに寄り添う番だ。津覇さんは新たな未来を自分の手で描こうとしている。

自らの手で未来を拓く
「琉佐美」は卒業後も就職支援や定着サポートを行っている。月1回の面談や県内サロンへの就職斡旋など学びの先にある一歩を支える。
トンケリー代表は「若い人が“稼ぐ力”をつけることが長期的には貧困の連鎖を断つ第一歩になる」と話す。
一つの技術が一人の人生を変える。 その手で夢をつかんだ若者が次の誰かの背中を押す存在になるかもしれない。 今日もスクールでは新たな一歩を踏み出そうとする若者が、力強くネイルブラシを握っている。
(沖縄テレビ)