5月1日で水俣病の公式確認から69年となります。
1日の慰霊式を前に30日午後、浅尾 慶一郎環境大臣が水俣市に入りました。
去年、批判を浴びた環境省の対応、いわゆる「マイクオフ問題」を受け、今年は被害者団体との懇談が30日から2日間にわたって行われています。
まずは、改めて去年の問題を振り返ります。
例年、5月1日の慰霊式の後に環境省が実施している被害者団体と環境大臣との懇談。去年、この席には8つの被害者団体が集まり、環境省が設定した「1人3分間」の持ち時間内でそれぞれの思いを伝えようとしていましたが…。
【環境省職員】
「話をおまとめください」
制限時間を超えると環境省の職員が一方的にマイクの電源を切り、発言を遮りました。
この対応が批判を浴び、当時の伊藤大臣は謝罪に追い込まれ、去年7月には大臣との再懇談が3日間にわたって行われました。
去年10月、新たに浅尾 慶一郎参議院議員が環境大臣に就任。
浅尾大臣は4月25日の会見で、初の水俣入りを前に「しっかりと意見交換して、水俣病問題の解決に向けて少しでも前進させたい」と述べていました。
水俣市で取材をしている中原キャスターに伝えてもらいます。
【環境省水俣病情報センター/水俣市】
はい、水俣湾を望む慰霊の碑の近くにあります環境省の『水俣病情報センター』前からお伝えします。
現在、こちらの建物で「水俣病被害者・支援者連絡会」に所属する6つの団体と浅尾環境大臣や熊本県の木村知事らとの懇談が午後4時半ごろから行われています。
マイクオフ問題を受けて初めて2日間の日程で行われる懇談。浅尾環境大臣は30日午後、水俣市に入り水俣病の関係施設などを訪問しました。
【浅尾環境相】
「環境大臣の浅尾慶一郎です。きょうはお邪魔させていただきました」
浅尾大臣は、まず胎児性・小児性患者向けのケアホーム『おるげ・のあ』を訪問。
この施設で暮らす胎児性患者の金子 雄二さんと面会しました。
金子さんは気管切開の影響で話すことができないため、支援者や主治医が金子さんの思いを代弁しました。
【加藤 タケ子さん】
「生まれた時から構音障害、言語障害が重く、それでも私たちと一緒に水俣病を伝えるプログラムで小学校を回り伝えに行っていた」
主治医などによりますと、金子さんは加齢により、水俣病の症状が悪化し歩行が困難となったほか、口から食事がとれず胃ろうにより栄養を補給しているということです。
また、毎月約10万円かかる訪問入浴について、水俣市が重度障害福祉サービスの利用を認めず、自己負担となっていて、現在、市と争っていると説明。
環境省の水俣病対策として支援してほしいと大臣に訴えました。
【浅尾環境相】
「制度の話なので、うまく制度を活用できるようにできればと思う」
浅尾大臣は水俣病互助会のメンバーとも個別に面会しました。
小児性患者で水俣病互助会 会長の岩本 昭則さんは「胎児性や小児性の患者は定職に就くこともかなわず、経済的に厳しい状況にあることを理解してほしい」と、患者が置かれている窮状を訴えました。
【水俣病互助会会長 岩本 昭則さん】
「現在生きている認定患者は200人余りで、ほとんど胎児性、小児性患者。支えてくれた両親もすでに亡くなり、兄弟、姉妹は高齢化して家庭の(支える)力はなくなった。私たちは大きな不安を抱えて生きている」
また、水俣病公式確認の年に生まれた胎児性患者の坂本 しのぶさんは「利用している介護や福祉サービスの現場は人手不足で、これから先の生活が不安だ」と声を絞り出して訴えました。
【胎児性患者 坂本しのぶさん】
「私はこれからのことが心配」
これに対し、浅尾大臣は「患者補償の充実についてはチッソにも伝える」と応え、同席した熊本県の木村知事は「みなさんが安心して地域で暮らせるよう国や鹿児島県とも連携して取り組む」と述べました。
続いて、浅尾大臣は『水俣病胎児性小児性患者・家族・支援者の会』と面会しました。
【水俣病胎児性小児性患者・家族・支援者の会 加藤 タケ子事務局長】
「この69年の中で命が無残に閉ざされている現実をしっかりと見てほしい」
加藤さんの前にあるのはこれまでに亡くなった水俣病認定患者や支援者の写真です。
加藤さんは去年の懇談の後にメンバーが1人亡くなったことを報告し、「水俣病の現実を見てほしい」と訴えました。
【水俣病胎児性小児性患者・家族・支援者の会永本賢二さん】
「残念ながら僕は『A』、こっち(松永さん)は『B』。この差は大きい。(松永さんは)車いすなのにどうして?だから僕はそこがおかしいと思う」
【水俣病胎児性小児性患者・家族・支援者の会 松永 幸一郎代表】
「ランク変更を(15年の間に)4回出して却下されて。他の胎児性患者はほとんどAランクなのに自分はBランクで。その違いを教えてください」
胎児性患者の松永 幸一郎さんは、20歳のときに水俣病と認定されました。
当時は自分の足で歩けたため、症状の重さによって『A』から『C』まで3段階に分けられる補償のランクは2番目の『B』に。
しかし、15年ほど前から自由に歩けなくなり、現在は車いす生活です。補償のランクを『A』に変更するよう申請していますが、これまでに4回棄却されていて、ランクの変更を改めて大臣に求めました。
これに対し浅尾大臣は「一番大事なのは対話。制度の中で見直していきたい」と述べました。
【寺田 菜々海リポート】
「会場に詰め掛けている報道陣の数は去年よりも多いと思います。これから6団体と環境大臣の懇談が始まります」
浅尾大臣と木村知事は、午後4時半ごろから6つの水俣病被害者団体と懇談を開始。
冒頭、水俣病被害者・支援者連絡会の山下 善寛代表代行が去年の『マイクオフ』問題を受けて発足した環境省のタスクフォースについて、「環境省の姿勢は『マイクオフ』問題から変わりなく、話を聞くだけで信頼回復とはなっていない」と批判しました。
懇談では、出席した6団体などが連名で、公健法に基づく認定審査や今年度から環境省が先行的に始める脳磁計などを使った健康調査の見直しを求める要求書を提出しました。
そして浅尾大臣と被害者団体との間で議論が交わされました。
【水俣病被害者互助会佐藤 英樹 会長】
「私は関西訴訟の判決に沿えば100%なんですよ。それなのに『総合的判断』で棄却ってなんですか?おかしいでしょ」「『総合的判断』はあなたちの都合のいい判断だ」
【水俣病被害者市民の会 山下 善寛 代表】
「私たちが反対している脳磁計やMRIによる健康調査を実際に実施するのか撤回する気持ちはないのか、お尋ねしたい」
1日も午前中から2つの団体との懇談が行われ、午後1時半からの犠牲者慰霊式の後も懇談は続く予定です。