東日本大震災の発生から、4月11日で14年1カ月です。震災で亡くなった大好きな先輩との高校時代の思い出を、14年を経て、先輩の両親に伝えた人がいます。きっかけは、何気なく開いた1つの記事でした。
茨城県常総市。
「こんにちは、よろしくお願いします」
黒澤くるみさん(31)。宮城県出身で高校までは主に石巻で暮らしていました。3月4日、仕事を終えて帰宅し、スマートフォンでニュースを眺めていると、ある記事が目に入りました。
仙台放送がLINE NEWSに掲載した東日本大震災の特集記事です。
愛知県の画家・小林憲明さん(50)が、震災で我が子を失った家族から依頼を受け、絵を描く活動に取り組んでいることを伝える内容。高校時代の先輩の写真を見つけ、驚きました。
黒澤くるみさん
「麻里先輩だ。麻里先輩のお父さんとお母さんの話なんだ。そこで気づいて」
今野麻里さん(当時18)。当時、高校を卒業したばかりでした。石巻市大川地区の自宅で、妹の理加さん(当時16)、そして同居する祖父母と津波に巻き込まれ、命を落としました。
黒澤くるみさん
「ずっと思っていた先輩が遺影となって、遺影となってそこにいるのは衝撃で。亡くなったっていうのは分かってはいるんですけど、信じられない気持ちがずっとどこかにあった」
亡くなった今野麻里さんは石巻西高校の演劇部で、黒澤さんの1つ上の先輩でした。練習には真剣に取り組み、先輩・後輩ながら恋愛の話をすることもあったそうです。ともに青春を過ごした、大好きな先輩でした。
震災前の2010年、黒澤さんは将来の夢に向かおうと石巻西高を自主退学し、仙台市内の高校に移りましたが、それでもなお連絡を取り合う仲でした。
そんな2人の再会を、突然かなわぬものにした震災。大川地区の被害が大きかったため、黒澤さんは麻里さんだけでなく、麻里さんの両親も無事ではないと思い込んでいたそうです。
黒澤くるみさん
「大川付近の状況を聞いて、どうやってもつながることができないかなと諦めて、機会があれば、大川の海の方へお花を置きにいきたいなって」
麻里さんのことをずっと思いながら、連絡のつてがなく手を合わせることもかなわなかった黒澤さん。
麻里さんの父・浩行さんは、児童74人が死亡または行方不明となった大川小学校をめぐる裁判で原告団長を務めました。麻里さんの弟・大輔さんは大川小で命を落としたのです。
せめて次の命を守る教訓にという浩行さんたちの思いは届き、学校の避難想定や訓練が不十分だったという訴えは認められました。
黒澤さんは、この裁判のニュースを見聞きしましたが、麻里さんの両親とは面識がないため気がつかなかったといいます。
黒澤くるみさん
「麻里先輩のお父さまだとつながってなくて、裁判されてたと知ったときに、自分の無知を恥じて、もっとちゃんとそのときの記憶から逃げないで、記事とか当時からいろいろ読んでいたら、もっと早く先輩に手を合わせたいって、連絡ができたんじゃないかなって思って」
3月の記事を読んだ黒澤さんは、いてもたってもいられずに仙台放送に連絡し、記者を介して麻里さんの両親と会う約束をしました。
黒澤くるみさん
「もしかしたら、麻里先輩が今なら会えるよってつなげてくれたのかなって思いがあって、すぐに連絡しなきゃって」
麻里さんの両親と、会う日がやってきました。
黒澤くるみさん
「14年経ってやっと先輩に手を合わせることができる。悲しいけど少しうれしく思う」
麻里さんの両親は、震災後、石巻市内の高台に自宅を再建し、2人で暮らしています。
黒澤くるみさん「失礼します。きょうはよろしくお願いします。黒澤くるみです」
麻里さんの両親「わざわざどうも」
黒澤くるみさん「やっと会えた」
麻里さんの母・ひとみさん「ありがとうございます。すごく明るい子だったからだから生前も」
黒澤くるみさん「いつもニコニコ。その記憶しかないぐらい笑っていた」
食卓を囲みながら、麻里さんの思い出を語り合います。
麻里さんの父・浩行さん「長男(大輔さん)と仲良くて。ゲーム、アニメ、マンガ好きだから」
黒澤くるみさん「麻里さんが、『弟大好き、弟すごくかわいい』みたいなことは、よく言ってました」
麻里さんの父・浩行さん「言ってたんだ」
黒澤くるみさん「うち家族仲いいからって」
弟・大輔さんのことを黒澤さんにも話していた麻里さん。
麻里さんの父・浩行さん「こうして後輩の人も年齢を重ねて、しっかりやっている。(麻里さんにそうした)イメージがない。高校生のころの姿しか思い浮かべられない。困ってんじゃないかとか思ってしまう。親だからしょうがない」
黒澤さんが保管していた、演劇部時代の台本。ここにも麻里さんとの笑顔の思い出が詰まっています。
黒澤くるみさん「ここが一番私の思い出のシーン。麻里先輩の顎をクイって上げる。それをすると先輩がいつも照れてしまって、毎回NGをくらっていた。『真面目にやって』って何度も怒られて」
麻里さんの母・ひとみさん「こうやって話をすると、自分の子供が生きてたって。その時その時を、一生懸命生きてたって。再確認できるというか」
黒澤くるみさん「本当にかけたらいけないというか」
14年を経て大好きな先輩に手を合わせ、両親に思い出を伝えた黒澤さん。
黒澤くるみさん
「今生きている道が正しいか分からないけど、先輩が大丈夫だよって勇気づけてくれてると思って、背中を押してくれると考えて生きていきたい」
また、会いに来ます。