アメリカのトランプ大統領が打ち出した、関税措置を巡る動きについてお伝えします。
株価が乱高下するなど、世界経済の混乱を招いていますが、そもそも『相互関税』とは?
まず『関税』は輸入品に対して課される税金のことです。
そして『相互関税』とは「貿易相手国と同じ水準の関税を課すこと」をいいます。
今回、トランプ大統領が打ち出した相互関税はすべての国と地域に一律10%の関税をかけた上で、貿易赤字国に対してはさらに関税を上乗せするというものです。
日本はアメリカにとって貿易赤字国です。
日本に対してはあわせて『24%』の追加関税が、日本時間の9日午後から発動されました。
しかし、また方針転換されました。
トランプ大統領は「報復措置を行わなかった国に対しては相互関税の上乗せ分を90日間停止する」と発表しました。
つまり90日間は日本には「一律10%の関税」が課せられることになります。
政治的交渉によって刻一刻と状況が変化していったり、品目によって関税が異なっていたりするので複雑です。
その複雑さが混乱を招いている要因とも感じました。
県内企業からも問い合わせが相次いでいるという、貿易関係の支援機関に話を聞きました。
訪ねたのは、熊本市にあるジェトロ熊本です。
熊本県産品を海外のバイヤーに売り込むなど、中小企業の海外展開の支援を行っています。
【ジェトロ熊本 水野桂輔所長】
「一番多いのが『自社の関税が米国でいくらになってしまうのか』とか、そういったご相談がある。球磨焼酎の事業者からも問い合わせがあり、先行きが見えない不安が皆さんから感じられる」
水野所長は、去年12月に日本の『伝統的酒造り』がユネスコの無形文化遺産に登録されたことを追い風に、「日本酒や球磨焼酎をさらにアメリカ市場に売り込もうと意気込んでいた矢先だった」と話します。
【ジェトロ熊本 水野桂輔所長】
「まさに世界にこれから出る、アメリカこれから、というときに関税が上がって水を差されることになったが、それでも付加価値が日本酒や焼酎にはあると思うので、少しくらい価格が上がっても現地の消費者に受け入れてもらえるような戦略や支援をジェトロとしてもやっていきたい」
一方、既に影響が出始めている酒蔵もあります。
山鹿市の『千代の園酒造』です。
約20年前からアメリカへ日本酒や米焼酎を輸出しています。
現在は3つの銘柄を月に1度から2度、約150ケース単位でアメリカ向けとして出荷していますが…
先日のトランプ大統領の相互関税の発表を受けて、早速、輸出業者からある連絡が来たそうです。
【千代の園酒造 本田雅晴社長】
「輸出元からメールが来て『すでに出荷しているものは倉庫でしばらく輸出を止めておいて様子を見たい』と。そして、そのあとの輸出の注文はしばらく見合わせるとメールが来た」
千代の園酒造は日本国内の輸出業者を経由してアメリカの輸入業者のもとへ商品を送り、現地のレストランや小売店などに商品を流通させています。
【千代の園酒造 本田雅晴社長】
「関税が上がった分だけアメリカでの販売価格も上がってくるし、(アメリカの輸入業者からすると)利幅が少なくなる、あるいは赤字になるかもしれないということで、このままでは販売できないと判断したのだと思う。輸出をするのはこういうリスクもあるというのを今回、認識させられた」
千代の園酒造は台湾やカナダにも自社商品を輸出していますが、市場規模はアメリカがトップ。
千代の園酒造全体の年間売上高の5%ほどを占めるといいます。
【千代の園酒造 本田雅晴社長】
「ひょっとしたらもっと関税が上がるかもしれないし、下がるかもしれないし、先が見えない状況」
トランプ大統領の「90日間停止」という発表を受けてジェトロ熊本の水野所長に10日朝、話を伺いました。
「トランプ大統領が次に何と発言するか…冷静に状況を見る必要がある。10%のベース関税は発動されているのでこれまでよりもアメリカでの販売価格が高くなってしまうのは目に見えている。他の輸出先を探すなど多角化していくための支援をジェトロとしても取り組んでいきたい」と話していました。
例えば他の品目ですと、熊本県産の黒毛和牛も多くアメリカに輸出されています。
JAグループ熊本でつくる熊本県農畜産物輸出促進協議会によりますと、昨年度、熊本から海外に輸出された農畜産物の総額は約34億円。
このうち和牛が25億円と7割以上を占めます。
そのなかでアメリカへの輸出は約2割。
台湾、香港に次ぐ3番目の市場規模ということです。
協議会の担当者は「まだ先行きは不透明だが、輸出が滞ると県内の生産者が苦境に立たされるので、新規輸出国を開拓するなど他の販路を探る必要が出てくるかもしれない」と話していました。
このほか自動車関連産業など工業系も影響が懸念されています。
熊本県工業連合会によりますと、「情報収集の段階」とのことで本格的な影響が出始めるのはこれからとなりそうです。
今回の関税政策について熊本県や熊本市、県内の各商工会議所、金融期間などでは特別相談窓口を設けて対応しています。