8月9日発表の厚生労働省の統計によると、7月29日から8月4日の新型コロナウイルスの新規感染者数は、全国で65,699人。前週より13,000人ほど減り、13週連続の増加は避けられた。

しかし安心はできないという。

「例年、学校が夏休みに入ると、新規感染者数はいったん減少します。そしてお盆明けに再びどかんとくるのです」

そう話すのは、感染症学が専門の、昭和大学・二木芳人名誉教授。 しかも、流行中の新しい変異株「KP.3」は、何やらやっかいな性質を持つらしい。二木芳人名誉教授に詳しく話を聞いた。

■最新変異株「KP.3」は、これまでの免疫が役に立たない

昭和大学 二木芳人名誉教授:現在、流行している変異株「KP.3」は、とにかく広がるスピードが速いです。1つ前に流行していた変異株「JN1」が、みるみる内に「KP.3」に置き換わっていきました。 通常、新しい変異株が出ると置き換わっていくものですが、これまでと比べて、相当スピードが速いです。

-Q.どうしてそんなに速く伝播するのか?
昭和大学 二木芳人名誉教授:実は「KP.3」は、感染力はそれほど強くありません。むしろ、前の「JN1」の方が強い。ならばどうしてというと、「免疫回避機能」です。

私たちはこれまで、ワクチンを打ったり、感染したりして、コロナウィルスに対する免疫を作ってきました。しかし「KP.3」は、免疫をかわす能力が非常に高く、これまで私たちが作ってきた免疫が役に立ちません。ですから、あっと言う間に広がってしまったのです。

■コロナ第11波 感染者数はいったん下がり、お盆明けにピーク

昭和大学 二木芳人名誉教授:毎年そうなのですが、学校が夏休みに入ったこの時期、新規感染者数はいったん落ち着きます。そして、お盆休み明けに再び、どかんとくる。おそらくピークは8月20日過ぎぐらいだと思います。

若い人、健康な人は、コロナは風邪のようなものと感じているかもしれません。 しかし、高齢者や持病のある方にとっては、やはり重症化リスクのある、怖い感染症です。お盆休みで、ご高齢の方や目上の方に会う若い方々は、自分が感染源にならないよう十分に気を付けて下さい。

■「KP.3」はマスクで防げる!

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昭和大学 二木芳人名誉教授:先にも述べましたが、「KP.3」の感染力自体は強くありません。 マスクをしていれば防げるタイプのウィルスです。 過去の変異株はマスクで防ぎきれないものもありましたが、これはそうではありません。

「マスク」、「手洗い」、「三密を避ける」といった、基本的な感染対策を徹底すれば、予防は難しくないのです。

また、夏場はエアコンの効いた部屋に、人々が集まる機会が多いと思いますが、締め切った部屋は換気が不十分になりがちです。意識して空気の入れ替えを行ってください。

■症状出ても病院に来ない人が増加

昭和大学 二木芳人名誉教授:今、懸念しているのが、患者さんが病院に来なくなってしまったことです。 昨年5月に2類から5類に移行したことで、通院や隔離などへの強制力がなくなりました。 しかも、医療費は自己負担になりましたから、病院で検査を受けるだけで、数千円はかかります。

そうなると、症状が出ても、医者に診てもらおうと思わない人が増えているのです。 コロナは風邪だ、寝て入れば治ると、通院も検査もしない。

しかし、新型コロナはただのかぜではありません。若く健康な人でも、症状が軽かった人でも、後遺症を訴える人が少なからずいるのです。 比較的症状が軽いとされるオミクロン株でも、半年後に日常生活に影響がある後遺症を訴える人が、8.5パーセントもいるとの報告があります。

■自己負担3万円 薬を飲まない高齢者

昭和大学 二木芳人名誉教授:そして最も心配なのが、薬を飲まない人が増えていることです。

これまで、高齢者や持病があり重症化リスクの高い人は、発症後すぐに「重症化リスクを下げる薬」を飲んできました。 しかし、この薬の薬価はおよそ10万円。2類の時は無料、今年3月までは公費負担があったので、最大9000円で処方されてきました。

それが、4月からは通常の保険診療で自己負担が生じ、3割負担の人は約3万円かかります。 コロナにかかった直後は、比較的症状が軽いこともあり、「3万円もするなら飲まない」という人が、高齢者でも増えています。

ですが、この薬は、このタイミングで飲むからこそ、症状が軽いままで済む。ここで飲まないと、高齢者や持病のある人は重症化していく可能性があるのです。

いまだ、コロナの決定的な治療薬はありません。 タイミングが遅れ「生きるか死ぬか」の大変な状況で、投与して命を救ってくれる抗ウィルス薬はないのです。 今あるのは「重症化リスクを下げる薬」と「症状を少し早く収める薬」。 医療機関も、やみくもに患者さんに薬を勧めているわけではありません。必要な人に必要な治療をということですから、ここはぜひ慎重に検討して頂ければと思います。

そして、国にも、もう少し臨機応変に対応していただけないかと思います。 流行している時期や、重症化リスクの高い人には、検査や治療薬などの補助が出来るような、小回りの利く政策をしていただきたいです。

■10月から新たなワクチン接種 高齢者らは積極的に検討を

昭和大学 二木芳人名誉教授:10月から、新たなワクチン接種が始まります。 65歳以上の高齢者と60~64歳の持病を抱える人の負担額は7,000円程度、任意の方は15,000円程度となる見込みです。

コロナウィルスはどんどん進化しており、今回の「KP.3」のように、これまでの免疫を回避するものも出ています。 高齢者や重症化の心配がある方には、追加接種を積極的に考えてみていただきたいです。

今やコロナをかぜのように考えている人も多いと思います。 しかし、コロナで亡くなる人は、決して少なくありません。

流行が始まった20年から、23年に5類に移行するまでの約3年半の総死亡者数は、死亡診断書の情報を用いた人口動態統計によると、約89,000人。5類移行後の7カ月間でも16,000人以上が亡くなっています。高齢者を中心に既に10万人以上が亡くなっている感染症です。そして現在でも、多い月には4000人以上が亡くなっているのです。

今はもう、国や社会は守ってくれません。高齢者や持病のある方は、自分で自分を守って下さい。 そして若い方、健康な方は、自身が感染源にならないよう、注意していただければと思います。 

(関西テレビ 2024年8月12日)

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