時間外労働の規制が適用され労働力不足が起こる、いわゆる2024年問題。

 影響はトラックやバスなど運輸業界に限らず、建設業界も同じです。

 現場では効率化や技術の継承で人材不足を乗り切ろうと奮闘する姿がありました。

 「(作業員の日当が)5万円超えることも聞こえてきています。1日です」

 「(Q:その金額でも集まらない?)(他社では)そういう話も聞こえます。ここ2年ぐらいで(賃金が上がった)。その作業員の奪い合いも出ているのではないか」(ともに岩田地崎建設 寺田晃治 建築部長)

 2022年に創業100年を迎えた岩田地崎建設。マンションやビルなどの建設を手掛ける北海道内のゼネコン最大手ですが人手不足に苦しんでいます。

 背景には少子高齢化のほか、各地で進む再開発や半導体工場ラピダスの建設などがあります。特に電気設備の作業員が不足し賃金が高騰しています。

 「昔であれば、僕らの方が仕事をお願いしたら、すぐ来るような状態だったが、逆に選ばれる時代が近づいている」

 さらに追い打ちとなっているのが2024年問題。残業規制です。

 そこで、岩田地崎建設は少しでも人手不足を解消しようと2023年8月に現場をサポートする専門部署を立ち上げました。

 北海道内各地の現場をカメラで見られるようにしたり、ソフトを使って現場の会議の文字起こしをしたり、作業の解説をするYouTubeチャンネルを作ったり。デジタル技術も積極的に活用しています。しかし、不安は尽きません。

 「作業員の絶対数が足りないことと、若い人が少ないので、将来を心配しています」(岩田地崎建設 寺田部長)

 若者の建設業界離れの中、最も深刻なのが大工です。

 総務省の国勢調査では大工の就業人口は、1985年に約80万人でしたが年々減少。35年で4割足らずの約30万人にまで減っています。

 そうした中、独特な経営方針で若者がこぞって入社を希望する会社がありました。三笠市に本社がある1946年創業の武部建設です。

 古くは社有林を使った林業から始まり、現在は木造建築を手掛ける地域密着の工務店です。

 従業員約30人のなか、2024年の新入社員は異例の人数でした。なんと新入社員が4人も入ってきたのです。

 「技術力の高い会社が北海道に少ない。いい会社だと思った」(大工志望)

 「雑誌の中で武部建設が施行した物件を見て、実際に建てているモノを実現している人たちと仕事をしたいと思い入社しました」(設計・施工管理志望)

 武部建設が手掛けた長沼町の馬追蒸留所です。カラマツ、タモ、ナラ材など北海道産材をふんだんに使いながら張弦梁構造を採用することで柱がない大空間を実現させています。こうした技術力の高さからくる物件に魅力を感じ入社を志望したと言います。

 人気の理由はこれだけではありません。

 「うちは大工が社員として在籍しているのが会社としての特徴で、全国的に見ても少数」(武部建設 武部 豊樹 社長)

 武部建設では約30年前から社会保険を完備した社員大工としての雇用を進めてきました。

 「仕事がなくなったり薄かったり、安定感のない時に保証があるかないか。就職段階で学校の先生も考えるし、親御さんはもっと考える。だから若い人が職人として入ってこないのが現実的な姿」(武部社長)

 一般的な工務店では、大工は正社員ではなく業務委託や請負として下請けになっています。肉体労働をする大工に社会保険などを整備し生活を支えることで、若者にも建設業界を選んでもらおうと導入しました。

 さらに、技術の継承です。現代の木造建築は、コストカットや工期短縮のため工場で生産された木材で住宅を作る「プレカット工法」が90%以上を占めていますが、武部建設は、伝統技術による木造建築にこだわり社員大工を育てています。

 「どこで継ぎなさいとかは書いていない。材料と長さと場所によって自分で考える」(棟梁)

 設計図を基に柱や梁などを書き写した「板図」。棟梁がこれをもとに木材に「墨付け」していきます。

 墨付けされたものをノミを使って手で刻むのが「手刻み」。

 「あまり(手刻みを)やらせてくれる会社がないのでやりたかった」(見習い大工)

 現場にいたのは下は18歳から上は78歳まで。幅広い年代が混在することで、技術を伝える環境が生まれます。

 「社長がそういう考え。『健康だったら来いと使うから』伝えていく義務もある。技術屋は先輩として伝えないといけない」(70歳大工)

 技術力を生かした武部建設ならではの事業に興味をもち、入社する若者もいました。

 「あれをみてすごくひかれた。感動がすごかったのは覚えている」(見習い大工)

 会社の敷地内にある築100年以上の古民家。約20年前に北海道由仁町から移築され、自社の大工で再生させました。

 「(通常は)機械で解体して産廃処理をしてしまう。うちが新築でやるよりも立派だったのでもったいないから使ってみようというのがきっかけです」(武部社長)

 20年前から取り組んでいる古民家再生は、現代的な暮らしやすさと伝統的な間取りを大事にしたモダンクラシックをコンセプトに掲げています。

 大手ハウスメーカーには真似のできない得意分野として、新しい入社を志望するきっかけになったといいます。

 「大工の育成にもものすごい役に立つ。伝統的な木組みの構造も学べる。今のプレカットとは違った作り方を身に着けることができる」(武部社長)

 古民家の解体にも多く携わるようになり、逆に解体した建材を再利用した現代建築も手掛けていました。

 栗山町のレストラン「サメオト」は、社有林から造材した丸太が特徴的な外観と、内装は梁として使われていた建材を柱にして、歴史を感じながらもモダンに仕上げました。人材不足を背景にAIやロボットの活用が進む業界の中でも、いかに人を大事に育てるかが業界で生き残るために重要だといいます。

 「それぞれのお客さんの好みや暮らし方を反映した住宅の規模で、システムを開発したりロボットを製造する予算より人間の育成にかけたほうが圧倒的にいい。経営として工務店という業態が将来的に生き残っていくのは間違いない。そこで一番基幹技能者として活躍するのが大工」(武部社長)

 効率化を進めながら時間のかかる技術習得のためにも伝統建築も手がける。

 この環境づくりが建築業界の人手不足を乗り切るヒントかもしれません。

北海道文化放送
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