子育て世代が直面する「小1の壁」。その対策として、大阪府・豊中市が、学校の門を1時間早く開ける取り組みを始めた。その1時間で生活が大きく変わる保護者の声を取材した。

【動画】『小1の壁』「仕事と子育て両立できない」保護者の切実な声受けて 朝7時校門を解放

■全国でも珍しい午前7時からの校門開放 「小1の壁」問題への取り組み

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まだ、人通りの少ない午前7時。豊中市立桜塚小学校では、警備員によって校門が開けられた。 すると…

吉原功兼キャスター:午前7時を少し回ったところです。保護者と子どもが校門から学校に入っていきます。

全国でも珍しいという、午前7時からの校門開放。これは、保護者たちの切実な現状に応えた取り組みだ。

 小学1年生の保護者:すごく助かります。仕事が早いので、仕事の時間を変えるか、短くするかっていうので。

■「小1の壁」に苦しんだという保護者 午前7時開放で負担はかなり軽くなるという

豊中市に住む、横井川妙子さん(49)。娘の法華(ほうか)さんは小学5年生だ。

横井川妙子さん:きょうも給食がまだないので、お昼ご飯を作っていくんです。

イベント企画などの仕事を行う横井川さんは、育児との両立に励んできたが、法華さんが小学校に入学して以来、生活スタイルに大きな変化があったという。

 横井川妙子さん:保育園は6時半とかに開くし、午後7時まで預けられたので、仕事が朝一で入った日は、友達のところに行ってもらって出たり、前日の夜からお泊りで、友達の家に預けたりとか…気は使う、やっぱり。

-Qお母さんは仕事で朝早い時ある?
娘の法華さん:うん
-Q法華ちゃんはその時どうしてる?
娘の法華さん:友達んち行ってる

これがいわゆる「小1の壁」といわれる問題。小学校に入学するタイミングで、保育園のときと比べて子どもを預けられる時間が減少。そのため、仕事と育児の両立が難しくなるのだ。

 横井川さんも「小1の壁」に苦しめられた保護者の一人。

 横井川妙子さん:小1の壁は、仕事をだいぶ減らしました。どうしても仕事で行かないといけないときは、(娘を職場に)連れていってました。

今回、豊中市が校門の開放を午前7時に変更したことで、横井川さんの負担はかなり軽くなりそうだ。

 横井川妙子さん:(朝早く)動けるようになったので、仕事を早めます。学校の中に入ってくれる方が安心かな。

吉原キャスターは今回、実際に午前7時から子どもを預けに来た保護者の方に話を聞いた。

 小学3年生の保護者:今まで、子どもが一番(家を出るのが)最後の時は、鍵閉めて出てたりしてたんですけど、GPSでまだ家にいるって心配しながらいつも見てたんで、『いってらっしゃい』って、『お願いします』って、直で言える人がいるのはすごく助かります。

小学1年生の保護者:(この制度がなければ)妻が仕事を辞めるとか、そういったことも考えながら、夫婦で話していた。
-Q(保育園と)同じように午前7時から預けられる
小学1年生の保護者:そこはすごいありがたいですね。生活スタイルを変えなくて済むというところが。

■校門開放から登校時間までの1時間 「子どものトラブル」の責任など心配ごとも

訪れた子どもは本来の登校時間である午前8時まで、体育館などで預かる仕組みだ。 教員の負担を増やさないよう、配置されている見守り員2人は民間委託で、校門の開け閉めも警備員が担う。

豊中市教育委員会 桑田篤志学校施設管理課長:午前8時が登校時間なんですけど、(これまでは)少し早めに来られて、門の前で待たれている児童が複数いました。(教員の)勤務時間は見直しはせずに、教育委員会事務局の責任において、全小学校で一度やってみようかと。

しかし、保護者からはこんな声も…

-Q何か心配事とかはありませんか?
小学1年生の保護者:見守り員さんは心配って言ったらあれですけど、子どものトラブルとか。子どもに対しての対応が、どのくらいのレベルできている方なのかというのは正直あります

見守り員になるために、特に必要な資格はなく、豊中市教育委員会は、「何かあった場合は、教育委員会が責任を負う」としている。

今回、取材した桜塚小学校の校長は、「子どもたちや保護者の安心につながる」と歓迎する一方、責任の所在については、こう話す。

 豊中市立桜塚小学校 後藤るみな校長:何かがあっても、基本的に学校の責任ではないだろうなと考えています。だからといって、何かが起こっているのに、知らん顔をするのは難しいと思っているので、どういうふうにこれからなっていくのかなと心配しています

こうした取り組みは全国に広がるのか。 放課後の居場所の運営などをしているNPO法人の代表は…

放課後NPOアフタースクール 平岩国泰代表理事:先生の負担をなく設計したのはとても評価されるところだと思います。現実的には先生の負担に多少なるところはあるだろうと。人は誰を充てるのか、責任はどうなんだというところが懸念をされて、朝の時間の延長というのは、悩ましいというのが実情だと思います。

どのように、「小1の壁」問題と向き合うのか。学校現場で、今後も模索が続く。

■「小1の壁」問題の対策への課題はコストやトラブルが発生した時の責任の所在

豊中市では午前7時から校門を開けるということだが、ほかの自治体ではどうなっているのか。 「校門の解放を早める予定はあるか」と尋ねたところ、大阪府内の自治体は「現状予定なし」とし、「教師の働き方に影響が出るのではないか、どんな効果があるか注視していく」とのことだった。

また、兵庫県内の自治体も「現状予定なし」とし、「コスト面や人材確保の手段などについて、課題が多い。現状議論は進んでいない」という。

子育てと仕事の両立が難しい中で、1時間早く預けられることで、「生活スタイルを変えずに済みました」という声が、本当に印象的だった。

保護者から「助かりました」という声が聞かれたが、課題もあるようだ。

関西テレビ 神崎博報道デスク:コスト面や費用です。今回、豊中市の場合はこの活動に年間約7000万円かかっています。自治体によって財政的にゆとりがある所とそうでない所で、できる・できないところが出てくると思うので、例えば、放課後の学童保育は利用者が一部費用負担をしていますので、この活動についても、全額自治体の持ち出しではなく、利用する人が一部費用を負担するという形になれば、ほかの自治体にも広がるかもしれません

元京都府知事 山田啓二さん:非常に過渡的なものだと思います。要するに7時から8時は、これは学校教育の中なのか、それとも学校教育の外なのか。学校側としては学校教育ではないという形になってるが、親としては学校に入れたという、この意識のずれが問題を生まなければいいなと思っています。そういった面から、はっきりとそこを区別するか、それとも7時から学校をやっていくのか。そのためには、資格を持った人を入れて、安心安全に気を配る、その代わりコストがかかる形でもって行くのか、将来的にはしっかりとした制度設計が必要になると思いますが、まず一歩踏み出したということは評価すべきだと思います。

元京都府知事の山田啓二さん:本当は地域が見守り、それから会社の方も時差通勤など、子育て家庭に対して配慮して、みんなが温かく見守る社会の中で、こういった仕組みができてくるといいなというのが、理想論ではあります。

関西テレビ 神崎博報道デスク:全部、学校側に押しつけるのではなくて、企業側が出勤を遅らせるなど、働き方や出勤時間の自由度をもっと広げることと、両輪でやっていくべきだと思います。

保護者側、学校側の双方が安心して子供を育てられるように、今ある課題をどうクリアしていくのか注目される。

(関西テレビ「newsランナー」2024年4月9日放送

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