能登半島地震が起きた後、介護が必要なお年寄りや障害がある人が身を寄せる、石川県輪島市の「福祉避難所」について、関西テレビでは取材を続けてきた。ここに避難している人たちの、次の受け入れ先が見つからないという課題を解決するため、ある取り組みが始まった。

 介護が必要なお年寄りや障害がある人は、学校の体育館などに開設された1次避難所に身を寄せることが難しいため、看護師などがいる施設が受け入れ先となっている。

看護師 中村悦子さん:(Qベットに空きがありますがまた入ってくる?)そうですね。入ってくると思います。今日空いたこと知ってるから、来るんじゃないですかね。

断水したままの自宅などで、体調を崩すお年寄りが絶えず、地震から1カ月がたっても、次々と新たな避難者がやってくる。現在30人がこの福祉避難所に身を寄せている。

■「福祉避難所」は『ずっとおれるわけじゃないからね』

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立壁徳子さん(80)と娘・由起美さん
娘:きょうは何日かわかる?
母:なーんも分からん
娘:きょうは1月最後の日よ
母:きょうは1月31日か

輪島市でひとり暮らしをしていた立壁徳子さんは、地震後に1次避難所で過ごしていたところ、認知機能が低下してしまい、福祉避難所に移ってきた。

娘・由起美さん:ビルが倒れるとか火事の新聞を見たみたいで、それで認知機能が低下したみたいで、はだしで徘徊したり、行動が変わった。

ここに来て、体調は徐々に回復した。ただ、福祉避難所はあくまでも緊急的な避難先という位置づけのため、いずれは閉鎖される。国や石川県は、ホテルや旅館などの「2次避難先」を用意しているが、立壁さん一人では、そうした場所で生活することはできない。石川県内の介護施設などの2次避難先を探していたが…

支援者:いまみんなが金沢市で探しているのが現状です。なので(娘さんが住む)岐阜で見つけたほうが早い。どっちも探った方がいいかもしれない。

取材から約2週間たった1月31日、ようやく立壁さんが暮らせる2次避難先が見つかった。ただ、場所は隣の福井県。故郷を離れるという、苦渋の決断だ。

立壁徳子さんと娘・由起美さん
娘:離れたらまたパニックになることが心配。福井に行くんやね?
母:はい。行けって言うとこに行かないとね。ここだめやから
娘:ここにおりたかったの?
母:どっかせめて金沢ぐらいならいいけどね、福井ってやっぱり遠いわ。輪島いいとこ、すぐ家そこやもん…

避難所の運営をするのは「ボランティア」で、1カ月にわたって行政・避難者・受け入れ先の施設とをつなぐ役目を担ってきた。断水が続くこの避難所に長くいることは、避難者にとって決していいことではない。

看護師 中村悦子さん:『ここにずっとおれるわけじゃないからね』っていうことは家族にチクッと言うんですけど、そこが今までの避難の仕方と違うかなと思うんです。なるべくなら輪島市から遠い所に避難してと。(輪島市は)上下水道が整備されていないということで、それ(2次避難)を言われてるので。そこがやっぱり大きな問題ですね。

■輪島の福祉避難所から、福井県の2次避難所へ移った人も

この避難所から、すでに福井県の2次避難所へ移った人たちもいる。1月30日、自衛隊の支援によって、輪島市から約200キロ離れた勝山市の施設に6人の高齢者が移った。

施設スタッフ:お疲れさまでした。疲れた?
村上はなさん(103):ここはどこですか?
施設スタッフ:福井県の勝山市
村上はなさん(103):あー福井ですか

6人の高齢者の中に、103歳になる村上はなさんの姿もあった。村上さんが輪島の福祉避難所にいた時は、スタッフにこれまで大切に守ってきた自宅の話を繰り返していた。

村上はなさん(103):みかんの木から、いちじくの木から、甘柿の木から、私の嫁いできた家には柿の木何本もあったけど。ここにいつまで、置かされるかなと思って。

福祉避難所のスタッフ:ずっと『帰りたい』って言っていて。ずっとおうちを守ってきた。息子さんとの穏やかな暮らしが戻るといいけど。地震があったのも覚えてらっしゃるし、でもどういうわけかここに連れて来られたというような認識で、『お家を守らなきゃいけないから早く帰らなきゃ』という。おうちの事を聞くとなおさらね。

避難所のスタッフが用意したオセロを触った村上はなさん。「こんなハイカラなん初めてや。私田舎もんでこんなん珍しい」と話し、明るい雰囲気でまわりを和ませる。一方、不安な気持ちの影響か、家族が迎えに来ると信じ込んで夜眠れないことが増えていた。

村上はなさん(103):あした迎えに来てくれるって言うさかい。うれして寝られん。家はええわいな。ありがとね、お世話になって。

そんな状態で2週間が経過。1月30日にようやく動きがあり、福井県勝山市に新たに「福祉避難所」ができた。「水がでる所でちゃんとゆっくりしてほしい」という息子の考えもあり、村上さんはこの2次避難所に移ることになった。 新たな福祉避難所には介護士が常駐していて、避難してきた人の生活をサポートする。被災者には、プライバシーを守るためのテントや、暖かい布団などが用意されている。

ただ、ふるさとの輪島を離れたことについて…
村上はなさん(103):私が家を空ければ、心は心配です。おうちに帰りたい。そりゃ、うちほどいいところはないです。戻らせてくださいお願いします。

■「福祉避難所」平時から備えが必要

103歳の村上はなさんは、眠れない日が増えているという話もあった。長引く避難生活などで、高齢の方たちには身体的・心理的なストレスが相当かかっていると思われる。 今回のケースでは医療法人が行先のない高齢者が多いことを懸念して、福祉避難所を開設したという。災害時における高齢者の広域避難のあり方には課題が残っている。

関西テレビ 神崎報道デスク:本当は県内がベストだと思います。例えば県庁所在地であったり、ある程度人口がある都市に、福祉避難所として受け入れるサポート体制を、そもそも構築しておくべきだと思います。人数が多くて入り切らないような場合は、近隣の県にもサポートをお願いする二重の構え・備えを、平時から準備しておくことが必要になってくるということです。

(関西テレビ「newsランナー」2024年2月2日放送)

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