少子高齢化が進み、保育施設のない瀬戸内の離島で、高齢者が保育に参加する“子育てサークル”を島民が立ち上げた。島民らは、島の現状にあった保育施設を行政に求めているが、島民らが先手を打った形だ。その現状を見た。

少子化で幼稚園は休園 島民は保育施設を要望

広島県三原市の沖合の佐木島。トライアスロンの開催地として知られるが、少子高齢化が進む瀬戸内の離島だ。島の子どもの減少で幼稚園は休園し、保育施設はない。

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島民らは”離島の現状にあった保育施設の設置を”と、9割の島民が署名した要望書を11月27日、三原市の岡田市長に渡した。

要望書を提出した、滝田千陽さん(28):
未来の子どもたちへ向けて、今できることを一緒に考えていきたいと思っています

滝田千陽さん
滝田千陽さん

要望書を提出した滝田千陽さん。

尾道市出身で4年前に父の実家がある佐木島に移住、島内のパート先で夫・守さんと出会い結婚。2023年1月、洸(こう)ちゃんが産まれた。島に保育施設がないため、現在はほかの未就学児2人とともに、島外の施設に洸ちゃんを預けに通う。

滝田千陽さん:
家族で一緒で過ごしたりとか、島の人たちと触れ合ってすごい大事にされてる。この子が大きくなっていく姿をすごく喜んでくれている

夫・滝田守さん(28):
今のまま活発に育ってくれたらいいかな。時間があるから海に遊びに行ってくるとか、山を走ってくるとか、そんな元気な子になってくれたらいい

育児をしながら滝田さんは絵本の制作をしている。尾道駅裏に住み続けた野良猫の生涯を描いた絵を担当した。

滝田さんが絵を担当した絵本
滝田さんが絵を担当した絵本

滝田千陽さん:
今、幼稚園は休園状態で、小学校も去年までは島の子がいたけど、今、小学校は特認校で、子どもは島の外から来られている。島内で通っている子はいない。こういう状態の中で子育てをしようと思っても、島外の保育園や幼稚園に預けに行かなければいけない

高齢化率は70%の農業の島

佐木島の主な産業は農業。この時期ミカンの収穫が最盛期を迎えている。

春は小高い山の上に千本を超える桜のピンクのじゅうたんが広がり、1990年から始まったトライアスロン大会には毎年多くの人が参加する。

かつて3,000人いた島の人口は、地元経済を牽引してきた製造業の衰退に伴い、今では600人ほどまで落ち込んだ。

2005年以降の17年で高齢化率は20%以上アップし、今は70%を超えている。

小学校には島外から13人が通っているが、幼稚園は定員割れで2017年から休園している。

そのため、島に住んでいる洸ちゃんと未就学児2人は毎日、島の外の保育施設に通っている。

鷺浦町内会の会長 山根宗光さんは以前、幼稚園の運営について、当時の教育長と、ある「口約束」を交わしたと話す。

鷺浦町内会 山根宗光 会長(74):
島の未就学児が1人になってでも、幼稚園を何とか残しましょうと。新たに始める時は3人おれば再開できるようにということを当時の教育長と話をしたんだけど、書面でもらっておけばよかった。当時はそこまで頭が回っていなかった

この「口約束」について、三原市の担当者に事実関係を聞くと、「口約束したとされる時期も休園の基準は6人未満。3人で再開すると住民と約束した記録はない」との回答。

鷺浦町内会 山根宗光会長:
行政的にしょうがないといえばしょうがないかもわからないけど、地域のことを考えてほしい。過疎化に拍車をかけることではなく、離島は離島なりに頑張っている姿を分かってほしい。無理を言っているのは分かるけれど、ここの地域を守るために、若者も頑張ってくれている。我々年寄りも頑張らなければという気持ち

ほかの地方都市と同じく人口減少が進む三原市だが、移住、定住促進を積極的に進めていて、2022年度は79世帯が三原市に移住した。

ただ、佐木島へ移住する人の多くは仕事をリタイアした人で、子育て世代は保育施設がないことを理由に断念するケースが目立ち、ここ5年間で移住したのは1世帯のみ。

三原市 経営企画部 磯谷吉彦部長:
一定以上の利用者を見込むことが難しい現状の中では、施設の維持は困難。公設公営の道を歩むのではなくて島内での住民組織、助け合いによって、行政も何らかの形でできるところをして、子育て世代の安心感を何とか解決したい

三原市 経営企画部 磯谷吉彦部長
三原市 経営企画部 磯谷吉彦部長

高齢者とともに自前の子育てサークルを立ち上げ

そんな中、滝田さんは自分たちで10月に子育てサークルを立ち上げた。子育て世帯と地域の住民が一緒に子育てをしていくことが目的で、週に1回、2~3時間ほど開催している。

参加した人(70代):
お母さんが一生懸命、島外の保育所まで連れて行き、帰ってきているのを見ていて、しんどいよね、なんとかしたいよね、というのもあって。洸くんのこともあるし、力になれたらいいなと思って。ちょっとした時間と気持ちでお手伝いできればと

参加した人(70代):
島外からの移住者がいま、3人子どもを育てているわけですから、若い人たちがやっていることに対して協力してあげないといけない。体が許す限りはね

佐木島では子どもの減少と高齢化が急速に進む中で、滝田さんたちは、保育施設を地域と行政が協力して運営する新しい形を模索している。

滝田千陽さん:
未来に佐木島に来たいと思う人たち、産まれてくる子どもたちのためにも保育施設は必要。たくさん色んなことができて、遅くまで預かってもらえるような施設は考えていなくて、島に即した、島でできることを一緒に考えて、できる形を望んでいます

広島大学大学院 匹田篤 准教授(社会情報・メディア論が専門):
高齢化の問題で人口ピラミッドがいびつになっていて、各年齢ごと世代ごとの行政サービスを維持できないという大きな問題がある。そんな中で地域コミュニティで、何とか子育て・保育を維持していこうというのは、もうちょっと頑張ると、すごく良いモデルになるのではないかと思う

佐木島での子育てサークルは、島民の「共助」が大きな力を発揮したケースとして注目されている。

(テレビ新広島)

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