脳出血が原因で右半身にまひのある19歳の青年が、父親と共に2人乗りの自転車「タンデム自転車」で愛媛から広島に向けてしまなみ海道縦走の旅に挑戦した。
障がいがある中で掲げた大きな目標。親子の思いに迫る。
タンデム自転車で目指す“大きな目標”
2人で息を合わせてペダルをこぐことで進むタンデム自転車。佐川陸さん(19)と父・功二さん(48)はこのタンデム自転車と出会い、大きな目標を見つけた。
陸さんは右半身にまひがあり、1人で自転車に乗ることはできない。まひの原因は脳出血。それは2020年、高校2年の夏休みのことだった。
父・功二さん：
先天的な“脳動静脈奇形”という10万人に1人の脳血管の障がいがあって、それが破裂しました。一瞬にしてみんなの人生が変わったみたいな感じですね
突然、脳出血を起こし倒れた陸さん。幸いにも一命を取り留めたが、後遺症で右半身のまひに加え、重度の記憶障害や失語症が残った。
佐川陸さん：
覚えてないです。気が付いたら今なので。全く覚えてないです
コツコツとリハビリに取り組み、少しずつ症状を改善させてゆく佐川陸さん。父・功二さんにはある決意があった。
父・功二さん：
何か一緒に（息子の）意識がなかった頃に目標を共有して、それに向かって歩んでいって何かサポートできる、そんな日が来たらいいなとずっと思ってたんで
そんな時に出会ったのがタンデム自転車だった。タンデム自転車に乗った2人の感想は…。
佐川陸さん：
気持ちよかったです
父・功二さん：
乗ってる間も全然問題なかったのでOKね。ばっちりやね、とりあえずね
父・功二さん：
そもそも自転車に乗れるなんて思ってもなかったですし、それこそ一緒にこぐから時間も共有できるしリハビリにもなるし。しまなみ海道をタンデム自転車で70km、1泊2日でゴールしたいな、というのが一つの目標ですね、今一番の
佐川陸さん：
やるよ
父・功二さん：
可能性は…？
佐川陸さん：
無限大。可能性は無限大
「可能性は無限大」。陸さんの意識がなかった時も、父・功二さんが耳元でささやき続けた言葉だった。
この言葉を胸に、2人はサイクリングイベントにも積極的に参加し、50kmを走破するなど目標に向かって自信をつけてきた。
NPO法人も挑戦をサポート
そんな親子の目標を応援しようと動き出したのが、様々な乗り物を通して障がい者の交流を行っている愛媛・松山市のNPO法人・NONちゃん倶楽部だ。
陸さんの障がいに合わせたペダルやハンドルを作り、しまなみ街道縦走のサポートを約束してくれた。
NONちゃん倶楽部・津賀薫代表：
このタンデムを作った人が、障がいのある人たちも自転車に乗れるというコンセプトがあったわけよね。家族でこうやって走ってどんどん成長できるというのは最高のスタイルだもんね
仲間たちと共に「しまなみ街道縦走」へ
多くの人のサポートを受けながらペダルをこぎ続けて1年半。ついに迎えたしまなみ街道縦走1日目。
今回、陸さんには一緒に挑戦してくれる頼もしい仲間がいる。陸さんと同じ病気で左半身にまひのある渡部梨乃さん(18)、脳性まひで手足のまひと知的障害がある久保大翔さん(16)だ。
渡部梨乃さん：
笑顔で走り切れるように頑張りたいです
久保大翔さん：
暑いんですけど、熱中症にならないように最後まで走りたいと思います
佐川陸さん：
この日のために色んな準備をしました。今日はしまなみ頑張ります
彼らの挑戦をサポートするために、NONちゃん倶楽部のボランティアも参加してくれた。総勢26人のキャラバンでしまなみ海道に挑む。
コースは今治市の糸山公園から広島県の尾道を目指す70km。途中にはアップダウンもある2日間の行程だ。
まずは来島海峡大橋を渡る。
佐川陸さん：
気持ちいいな。橋を渡る時は一番緊張したけど、でも同時に爽快感がありました
観光スポットを巡りながらのこのコース。今治の3つの島を渡って初日に目指すのは広島県の生口島だ。
日中の気温が34度に迫る中、上り坂ではギアを軽くして進む。
父・浩二さん：
僕は本当に熱中症になるかと、ダウンするかなと思ったんですけど、陸から「早よ踏め早よ踏め」と相当あおられたので立場が完全に逆転してしまったんで、何とか盛り返さないと…
昼休憩で体調は回復し、1日目のゴールである広島県・生口島を目指す。
そして、1日目40kmを走破！
無限大の可能性を胸に…
翌朝、しまなみ街道縦走の2日目。向島の渡船乗り場を目指す。しまなみ海道ならではな風景にペダルも快調。つらい坂道も「ファイト！」の掛け声で乗り切る。
そして、いよいよゴール！
父・浩二さん：
お疲れさん、やったね
佐川陸さん：
こういう時ってさ、心臓がバクバクするよね
父・浩二さん：
そうか、興奮した？
佐川陸さん：
うん
他の仲間も続々と到着。誰一人リタイアすることなく無事に走り切った。
佐川陸さん：
道中しんどくなってやめようかなと思ったんですけど、でももうここまで来たら最後まで行くしかないなと思って、無事にゴールできてよかったです
父・浩二さん：
素晴らしい
目標達成は新たなステージへの扉。この喜びがさらなる挑戦へと向かわせる。そう、可能性は無限大なのだから。
（テレビ愛媛）
