厚生労働省が公表した2022年の日本人の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳。過去30年余りで男女ともに5歳以上延伸する中、素敵な歳の重ね方をしている静岡県内のお年寄りを紹介する。

元教師が記録した“郷土の宝”

9月12日から森町文化会館(静岡県森町)で開かれている写真展「静岡県内の祭り屋台」。

写真展「静岡県内の祭り屋台」
写真展「静岡県内の祭り屋台」
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ずらりと並んだ数々の写真の被写体はどれも“祭り屋台”だ。その数1838台。湖西市から南伊豆町に至るまで、県内各地の大きさや形、装飾の異なる屋台を見比べることができる。

これらはいずれも同町在住の岩本雅志さん(85)が撮影したものだ。岩本さんは祭り屋台の魅力について「地域の一員として自分の地域の屋台を誇りに思い、みんなで力を合わせて嬉々として屋台をひき回す、その気持ちや姿がたまらない」と熱っぽく語る。

岩本雅志さん(85)
岩本雅志さん(85)

祭り屋台を撮影するようになったのは今から半世紀も前のこと。小学校の教師をする中で、子供たちの姿を写真に収めようとカメラを買ったことがきっかけだった。「『ウチの屋台はこうだ』と自慢し、そういう話を聞くのがうれしかった。祭りに参加している喜びに満ちた顔を表現したい」と思ったからだ。

以来、ライフワークとして県内各地の祭り屋台を撮り続けるとともに、時には写真展を開催したり、自費で屋台について解説した本を出版したりしてきたが、今回の写真展には特別な思いが込められている。

集大成の写真展を だが…

「自分の一生のまとめとして、3~4年前から準備してきた」。

ただ2023年7月、原因不明の病が岩本さんを襲う。一時は話をするのもつらい状態で、写真を撮るなど夢のまた夢。屋台2000台を撮影するという目標は断念せざるを得なかった。

入院中の岩本さん
入院中の岩本さん

それでも「写真展はなんとしても開催したい」、その一心でリハビリに懸命に取り組んだ。同時に病室から家族に指示を出し、集大成に向けた準備を進めた。

長女の誓子さんは「祭りや写真展に懸ける思いが本当に強いと改めて感じた。開催が近づくにつれ、指示も1日に何度も飛んできて、父も元気になってくる。そういう意味では祭りはすごいと思った」と振り返る。

祭り屋台への愛情と情熱をこれからも

病院のスタッフの協力もあり、岩本さんは写真展の開幕前日に退院。会場には初日から多くの人が訪れた。

来場者の一人は「自分の地区や娘たちが住んでいるところの屋台を見つけて見るのが楽しい」と笑顔を見せ、岩本さんの教え子だという男性は「すばらしい。ひとつのテーマを決めて、ずっと撮るというのはなかなかできないこと」と舌を巻く。

また、中には40年ほど前の自身の姿が写っているという人もいて、懐かしみながら「みんなの元気な姿が見えるので、祭りの活気の良さが写真から伝わってくる」と話した。

岩本さんも家族に車いすを押してもらいながら会場を見て回り「すべて形は違うし、大きさも違うけれど、どれも地元の人にとっては誇り。そういう気持ちでみんな屋台を見たり、ひいたりしていると思う」と思いを馳せた。

岩本さんは10月には86歳を迎える。それでも、病に負けず祭り屋台への愛情を持ち続け、この先も近場の祭りを撮り続けていくことが今の目標だ。

岩本さんは言う。「屋台があってみんな団結する。屋台があるから大人になっても、歳をとっても、いつまでも故郷と屋台と祭りがつながっていく。地域の誇りであり財産」と。

その言葉には50年以上、祭り屋台を撮り続けてきた岩本さんだからこその説得力があった。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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