全国で発生した広域強盗事件のうち、東京・足立区の空き巣事件をフィリピンの収容所に滞在しながら指示した疑いなどで、8月22日、今村磨人容疑者ら4人が再逮捕された。

再逮捕された今村磨人容疑者
再逮捕された今村磨人容疑者
この記事の画像(6枚)

世間を震撼させた、一連の広域連続強盗事件。これを発端に、全国的に闇バイトによる事件が相次いで発覚し、半ば流行の様相を見せた。

警察関係者は「現場レベルでも、“闇バイト”に安易に応募し強盗などを行う事件が間違いなく増えた」と指摘する。

なぜ未来ある少年たちが安易に闇バイトに応募し、犯罪グループに使い捨てられ、人生を台無しにしていくのか。

警察庁が7月、「犯罪実行者募集の実態」(以下「資料」と記載)を発表した。

そこには、闇バイトに応募し検挙された少年たちの事例をもとにしたリアルな実態が描写されていた。

闇バイトへの応募

闇バイトへの応募は主に、①自身で応募 ②知人に誘われた ③SNSの繋がりから誘われた、といった3つのパターンが想定される。

【①自身で応募】このパターンについて、資料内で以下いくつかの事例が示されている。

・ Twitter(現「X」) に「お金に困っている」旨の書き込みをしたら、犯行グループから「働いてみないか。大金を稼げる仕事がある」などのメッセージが届いた。

・ Instagram で「仕事を探している」旨の書き込みをしたら、地元の先輩から連絡があり、その後、知り合いのヤクザを紹介された。

特に、Twitter(現「X」)上で無料現金配布キャンペーンなどでリツイートするなどの反応を見せた人間をターゲットにしている場合もあるほか、Instagramでの募集が多い。

また、地元コミュニティの掲示板なども募集に使われる。

更に、大手求人サイトで、「高収入」をうたい、「高額」「即日現金」「高額即金」「副業」「ハンドキャリー」「書類を受け取るだけ」「行動確認・現地調査」のアルバイトなどと称して募集していたことが明らかになっており、重要な募集経路の一つである。

資料内では、募集に使われることが確認されているツールとして以下のものが示されている。

<SNS>Twitter(現「X」)、Instagram、Facebook、iMessage<コミュニティサイト・掲示板>爆サイ、ジモティー<その他>歓楽街の電柱に貼られた QR コード、自宅ポストに投函された求人チラシ、求人情報サイト、求人情報冊子

(イメージ)
(イメージ)

また、犯罪グループの募集時の募集文言として資料内で以下のように示されている。

「高額収入」、「高額バイト」、「安全に稼げます」、「1件 10 万~、2件いけたら 20 万」「犯罪ではありません」、「学生可能」、「初心者大歓迎」、「国対応」 、「保証金なし」、「営業で地方へ出張する仕事」 、「リスク無し」、「詳しくは DM」、「ホワイト案件」、「高校生でもいける」、「詐欺ではありません」、「誰にでもできる簡単な仕事」など

【②知人に誘われた】このパターンでは、仕事を探していたら先輩・知人等から「闇バイト」を紹介された例や、先輩から金銭トラブルをふっかけられ、借金返済のため「受け子」の役目を強要された事例もある。

いわゆる“地元のつるみ“特有の狭いコミュニティ内における特殊な関係性から、犯行に加担せざるを得ない、断れないといった事情もある。

【③SNSの繋がりから誘われた】このパターンでは、SNS で知り合った者に「金を貸して欲しい」旨の相談をしたら、「銀行協会の委託の仕事を紹介する」などと言われ犯行グループを紹介されたなどといった、SNS特有の軽薄な関係だが気軽に接点を広くもてる利便性に乗じたケースも確認されている。

闇バイトによる強盗事件が頻発した際、各報道では「想像力がない」といった少年たちのリテラシーの低さを指摘する声が多く聞かれた。

事実、闇バイトに応募する際、少年たちはやってはいけないことをやってでも状況を変えたいと追い込まれている環境であったかもしれない。

また、やって良いことと悪いことの区別はついているが、強盗を行う犯罪組織に引き込まれないように、「この先に何が待ち受けているか、あり得るか」と想像する力が不足してしまっていたと言えるだろう。

それに加え、犯罪組織の巧妙・悪質な手法が存在するのだ。

闇バイトから抜け出せないロジックとは

闇バイトに応募した後、犯罪グループから、SignalやTelegramといった一定時間が経過すると通信履歴が消去される機能を有する匿名性の高いアプリのインストールを促され、ここで犯罪の実行に向けたコミュニケーションが行われる。

イメージ:テレグラムの履歴はのちに消去される
イメージ:テレグラムの履歴はのちに消去される

資料内では、犯罪グループとのコミュニケーションツールとしてTelegram、Signal、WeChat、DingTalkが示されている。

そして、犯罪グループから応募者の個人情報が要求される。

免許証や学生証、マイナンバーカードや住民票などの身分証や写真、家族や交際相手の個人情報などだ。

その後、犯行から抜け出したいという少年たちに対し、本人や家族、交際相手への危害などを匂わせ脅迫する。

資料の事例では、「警察に捕まるリスクが大きいと思い断るとか『自宅に押しかける。母親から狙う』と脅された」、 「受け子の仕事だと分かったが、犯行グループから『逃げたらこうなるよ』と男が殴られる動画が送信されてきた」といった脅迫の事例が示されている。

検挙された少年たちのリアルな声

検挙された少年たちの声を資料から抜粋する。

「詐欺だと分かったが、個人情報を送り脅された後だったのでやるしかなかった。どうせ捕まるんだろうなと思っていた」

「今後も犯行グループからしつこく誘われないか、家族に影響が及ばないかと思うと不安で仕方ない」

「受け子などの紹介をしてくるやつは、『お前が一番かわいい後輩』『お前しかいない』『めちゃ稼げる』『本当は教えたくないけどお前だから紹介してやる』など、言葉巧みに持ち上げてくる。しかし、裏ではパシリのようにしか思われていないのが現実」

「闇バイトに手を染めれば必ず捕まる。家族に相談するなどして勇気を持って断って欲しい」

そして、どのような情報を知っていれば、犯行を思いとどまることができたかについて、少年たちが指摘したのは、 「闇バイトが犯罪実行役の募集であることやその仕組み、流れ」や「 個人情報を握られ、自分だけでなく家族も脅迫されることで、犯行グループから抜け出せなくなってしまうこと」「 警察に捕まるリスクや、刑の重さや罰金額。捕まれば、少年院に行かなければならないこと」だ。いずれも当たり前のように見えるが、少年たちはこのような情報さえ認識できていなかった。

筆者が携わった特殊詐欺事件では、息子たちに迷惑をかけないようにと、老人ホームの資金をためていた高齢の方が特殊詐欺で現金1000万円近くを騙し取られた。

被害者調書を作成する際、被害者は泣きながら私にこう言った。

「恥ずかしい。息子に絶対に言わないでほしい。迷惑をかけたくない。」
「老人ホームに入れないのであれば、どこかでひっそり死ぬしかない。」

つつましく生活をしていたという被害者にこう言わせた加害者を、私は絶対に許せない。

資料の最後には、こうした被害者たちの悲痛な声が記載されている。
本稿を読むのは、おそらく少年たちの親世代だろう。

どうか、警察庁の「犯罪実行者募集の実態」について一読して子供たちに伝え、闇バイトを無くすきっかけにしてほしい。

警察庁「犯罪実行者募集の実態」Link:https://www.npa.go.jp/news/release/2023/yamibaitojirei.pdf

【執筆:稲村悠・日本カウンターインテリジェンス協会代表理事】

稲村 悠
稲村 悠

日本カウンターインテリジェンス協会代表理事
リスク・セキュリティ研究所所長
国際政治、外交・安全保障オンラインアカデミーOASISフェロー
官民で多くの諜報事件を捜査・調査した経験を持つスパイ実務の専門家。
警視庁公安部外事課の元公安部捜査官として、カウンターインテリジェンス(スパイ対策)の最前線で諜報活動の取り締まり及び情報収集に従事、警視総監賞など多数を受賞。
退職後は大手金融機関における社内調査や、大規模会計不正、品質不正などの不正調査業界で活躍し、民間で情報漏洩事案を端緒に多くの諜報事案を調査。
その後、大手コンサルティングファーム(Big4)において経済安全保障・地政学リスク対応支援コンサルティングに従事。
現在は、リスク・セキュリティ研究所にて、国内治安・テロ情勢や防犯、産業スパイの実態や企業の技術流出対策などの各種リスクやセキュリティの研究を行いながら、スパイ対策のコンサルティング、講演や執筆活動・メディア出演などの警鐘活動を行っている。
著書に『元公安捜査官が教える 「本音」「嘘」「秘密」を引き出す技術』