品川~名古屋間を40分でつなぐリニア中央新幹線。ただ、静岡県は県内区間の着工を認めていない。その大きな理由が南アルプスのトンネル工事による水資源や環境への影響だ。長野県で行われている工事の最前線を取材した。

2016年に着工した長野工区

人口 約900人の長野県大鹿村
人口 約900人の長野県大鹿村
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長野県大鹿村。
東京~名古屋のほぼ中間に位置していて、東側が静岡県に接する人口 約900人の村だ。
この村の一角で2016年から南アルプストンネル・長野工区の工事が始まった。

全長 約8.4kmの長野工区
全長 約8.4kmの長野工区

長野工区は全長 約8.4km。
2022年3月までに3つの作業用トンネルが完成し、現在はリニア新幹線本体が走るトンネル、いわゆる「本坑」の掘削作業が進められている。

最前線取材・トンネル内部へ

斜坑(作業用トンネル)内部
斜坑(作業用トンネル)内部

JR東海・中央新幹線長野工事事務所・水上英也 分室長によると、斜坑(作業用トンネル)は全般的にダンプが通るため、工事がしやすいよう等間隔に照明がつけられ、一定の明るさが保たれている。
また、安全のため車両は時速20キロ以下での走行が求められ、信号機も設置されている。

本杭内部
本杭内部

さらに奥へと進み、リニア新幹線が実際に走行する本坑へと向かった。

水上英也分室長によると、本坑は断面が少し大きく約100平米あり、斜坑の断面の倍以上はある。

トンネルに入ってから車で約10分。工事の先端部分に到着した。

杉村記者「奥に見えるのがトンネルの断面」
杉村記者「奥に見えるのがトンネルの断面」

杉村祐太朗記者が長野工区・本坑工事の最前線を取材。

南アルプストンネル長野工区・本坑工事の現場に入った。
奥にトンネルの断面が見える。

工事内容を説明するJR東海・水上 分室長
工事内容を説明するJR東海・水上 分室長

重機を使って静岡・品川方面に向かって掘削作業が進められている。ドリルジャンボで火薬をつめるための穴を掘る、穿孔(せんこう)作業を行っているという。

穿孔作業を行うドリルジャンボ
穿孔作業を行うドリルジャンボ

現場では、「ドリルジャンボ」とよばれる重機でトンネルの先端部分に、火薬を装填するための穴をあける穿孔作業が行われていた。

静岡工区でも採用予定のNATM工法
静岡工区でも採用予定のNATM工法

リニア新幹線の山岳部の工事では、一般的なトンネル工事と同じ「NATM工法」で掘削が行われ、静岡工区でも採用される予定となっている。
この工法は火薬の爆発力を利用して前方の岩盤を破壊し、トンネルの壁をコンクリートやボルトで固定することで地盤と一体化させていく。
火薬を1回爆破させるごとに約1m前進し、これを昼夜2回ずつ行うため、順調なら1日約4m進むことになる。

JR東海・水上 分室長「それほど水は出ていない」
JR東海・水上 分室長「それほど水は出ていない」

静岡県で懸念されているトンネル工事による湧水の大量流出について聞いた。

「ご覧いただいている通り、それほど水は出ていない。切羽(トンネルの断面)を見てもらっても、前から水が出ている状況はない」(水上英也 分室長)

長野工区ではこれまでのところ静岡県が懸念するような事態は起きていない。

工事は2026年11月まで続く

トンネルの出入り口近くに設置された濁水処理施設
トンネルの出入り口近くに設置された濁水処理施設

また、トンネルの目の前には濁水処理施設が設置されている。
工事で出た水のほか、トンネル内の散水や掘削に使った排水を集め、きれいな水へと処理する。

きれいにした水はトンネル内で洗浄の水として使用したり、穿孔したりする水に再利用し、それ以外の余った水は、放流基準に則ってきれいな状態で川に放流するという。

1日につき約60人態勢で工事を進めている南アルプストンネル・長野工区。
工期は2026年11月までを予定している。

「地質が非常に複雑な部分もあり、しっかりと前方の地質を確認しながら、掘削方法を安全に慎重にやっていくことが大事。早い開業を望まれている方もいるし、当然この工事を心配されている方々もいる。工事を安全に、早く掘り切れるようにやっていきたい」(水上英也 分室長)

早期開業を望んでいるのはJR東海だけではない。

早期開業を望む長野・飯田市の経済界

飯田商工会議所・原 会頭「順調がゆえに開業が遅れたら…」
飯田商工会議所・原 会頭「順調がゆえに開業が遅れたら…」

リニア新幹線の長野県駅が建設される長野・飯田市の経済界関係者に話を聞いた。

「飯田地域は、時間的にどこへ行くにも最低4時間はかかる。東京も、静岡市に行くのもそのくらいかかってしまう。そういう状況が、これで解決されるということは間違いない」(飯田商工会議所・原勉 会頭)

大都市圏との移動時間が大幅に短縮されることで、人々が新しい暮らし方や働き方ができると期待している。
一方、2027年の開業が困難となっていることについては

「土地の買収や駅周辺の整備など、順調に進んでいると見ている。ただ順調がゆえに、開業が遅れたらもっと大変なことになる。駅ができる、新幹線が通るという中で、移転した人たちは新しい生活に入っている人もいるわけなので」(原勉 会頭)

そして、工事の着工を認めていない静岡県についても質問した。

「水の問題など私もあると思う。そのことは飯田でも同じ。それだけの大きなトンネルを掘ったりすると、常にそういう状況は必ず起こっている。だからそれをどう克服するか。
やはり、やっていく方向で川勝さん(静岡県知事)にもそういう気持ちになって、この件に判断をしてくれるんじゃないかなと私は信じている」(原勉 会頭)

長野県で進む”最難関”の南アルプス・トンネル工事。
様々なリスクにどう向き合い、対処しているのか。
先行する他県の事例を学び、静岡の議論に生かしていくことも必要だろう。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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