選挙の応援演説に訪れた岸田首相に爆発物を投げ込み、威力業務妨害容疑で逮捕された木村隆二容疑者(24)。警察の取り調べに対して黙秘を続けているということだ。
政治への強い関心を伺わせる言動があったことなど、少しずつ分かってきた木村容疑者の過去。事件の背景や動機について、関西国際大学の中山誠教授に「犯罪心理学」の観点から分析・解説してもらった。
参院選前に損害賠償求めて国を提訴 「選挙制度への強い不満」が背景に?
これまでの映像を見た中山教授は、犯罪心理学の観点から、取り押さえられた時や送検時の木村容疑者の表情に注目している。
関西国際大学・中山誠教授:
まず気になったのが、容疑者が取り抑えられた時に“無抵抗”だったということ。しかもじっくりと周りを見据えるような表情でした。そして17日、検察庁に身柄を送られた際も、しっかりと前を見据えていました。
こういう映像を見る限り、事件を起こしたことへの後悔の念などは感じられません。「目的を達成した」という感じではないでしょうか

動機につながるかまだ分からないが、木村容疑者は「参院選に立候補できないのは憲法違反だ」として、国に損害賠償を求めて裁判を起こしていた。
木村容疑者は2022年の参院選で「年齢要件や供託金制度を理由に自分が立候補が出来なかったのは不当だ」として、国を提訴。この時は弁護士をつけない「本人訴訟」だった。その後…
▼2022年11月、神戸地裁はこの請求を棄却。
▼2022年12月、木村容疑者は判決を不服として控訴。
ちなみに裁判で木村容疑者は、このような主張もしていた。

「故・安倍晋三の様な既存政治家が政治家であり続けられたのは、旧統一教会の様な組織票を持つ団体と癒着していたからである」と一方的に主張。
政治に対する本人なりの想い、また自分が立候補できなかった。このような選挙制度への不満が犯行に繋がった可能性はあるのだろうか。
関西国際大学・中山誠教授:
容疑者が選挙に出るための年齢要件を満たしていないのは明らかなので、神戸地裁の棄却は極めて合理的だったと思います。これと安倍元首相の事件や旧統一教会との関係というのは無関係だと思います。選挙制度への不満が今回の事件の動機ならば、狙う対象は岸田首相ではなくても良かったと私は思います

安倍元首相の事件と今回の事件の関連性 「ほぼ模倣犯」
関西国際大学・中山誠教授:
これはもう私の主観なのですが、事件を起こした木村容疑者は、自分の能力に対する過信、妄想に近いような一方的な思い込みがあったのではないかと。自分の事を認めてくれない、選挙に出させてくれない社会に対する不満みたいなものが、背景にあったのではないかと私は思います
このような事実も分かってきたのだが、改めて時系列を追って整理する。
▼木村容疑者が国を訴えた裁判は2022年6月、そして翌7月に安倍元首相が銃撃された。
▼2022年9月、木村容疑者は川西市で行われた「市政報告会」に参加。その際、被選挙権の法改正を訴えた。

つまり、安倍元首相の事件が起きる前から、木村容疑者は選挙制度に不満を持っていたことが分かる。
さらに安倍元首相の銃撃事件の後も、こうした会(市政報告会)に参加しているので、不満を持ち続けていたことが伺える。
まだ動機が語られていないので分からない点は多いが、安倍元首相の銃撃事件の前から、木村容疑者が長い間不満を持っていた。そういう中で、安倍元首相の銃撃事件が発生。これが今回の岸田首相襲撃事件のキッカケになるようなポイントはあるのか。
関西国際大学・中山誠教授:
選挙演説であれば狙いやすいであるとか、そういう“方法論”については、模倣した可能性は高いと思います。ただ山上被告の場合は安倍元首相に対する個人的な恨みが動機ですけれども、今回岸田首相という個人の存在は、木村容疑者にとってあまり大きな意味は持たないと考えています

岸田首相を狙ったのは「承認欲求を満たしたい」思いからか
岸田首相が和歌山・雑賀崎に来ると発表されたのは直前。そういう中で木村容疑者はいつ頃から用意して、犯行に及ぼうと考えたのだろうか。
関西国際大学・中山誠教授:
やっぱりこの事件の背景には、“選挙制度への不満”があったと思われるので、2022年11月に神戸地裁が木村容疑者の訴えを棄却して、その後本人が控訴したけれども見通しは良くない…という中で、“方向転換”をしたという気がします。
今回狙われたのは岸田首相でしたが、ひょっとしたら他の政治家の演説の時でもよかったかもしれません。ただ、一番センセーショナルに扱われるのは国のトップですからそこを狙って…というのはあったかもしれません。
ただ岸田首相に対する、個人的な恨みは木村容疑者には無かったと思われます

出来るだけセンセーショナルに、大きな話題を提供したい…ということであれば、岸田首相を狙うというのが木村容疑者にとっては一番よかったのかもしれない。
冒頭の解説で中山さんから「木村容疑者には達成感みたいなものがありそう」という指摘があった。木村容疑者は岸田首相を殺害しようという目的があったのか?それとも、爆発物で一定の騒ぎを起こし、それが達成されて満足なのだろうか?

関西国際大学・中山誠教授:
殺害が動機であれば、(逮捕時や送検時の)あの表情はしていなかったと思います。大騒ぎになった時点で、満足してやり切ったのではないでしょうか。
自分の能力に対する過信があるのに社会がそれを認めてくれないので、世の中を畏怖させるというか、驚かせたいというか、そういう感情があって犯行を起こしていると思われます。殺害が目的なら、もっと殺傷能力の高い爆発物を作ったのではないかと思います

安倍元首相事件の山上被告と今回の木村容疑者にはこのような共通点がある。
▼選挙演説中の犯行だったこと。
▼そして、手製の武器だったこと。
▼安倍元首相を銃撃した山上被告の動機は旧統一教会への恨み。
▼一方で、木村容疑者の動機はまだ語られていない。

関西国際大学・中山誠教授:
山上被告の場合は完全に統一教会への恨みが根本にあって、そこから安倍元首相を狙ったわけです。今回は岸田首相への恨みはありませんが、話をより大きくする、センセーショナルにするためには、首相を狙うのがいい。
これは私の主観ですが、自分を目立たせたいとか、承認欲求を得たいという気持ちがあったのではないかと思います

犯行の背景に「社会に対する不満 模倣犯への懸念」
ハッキリした動機は、まだ分からないながらも「目立ちたい」という思いが事件の背景にあったのではないか…と推察される。
視聴者からこんな質問が届いた。
Q:まさか地元でこのような事件が起こると思わなかった。何故このような事件が増えるのですか?
関西国際大学・中山誠教授:
やはり、自分が社会に対して不満を持っていて、自分の事を認めてくれないとなると、「こういう遊説中には大物政治家に近づけるんだな」ということで、事件を起こせば世の中に衝撃を与えることが出来るんだとなって、模倣犯が出てきてしまうのだと思います

統一地方選も後半戦、まだまだ選挙もあって、5月にはG7も行われる。選挙演説や警備のあり方も問われそうだ。
大阪大学大学院・安田洋祐教授:
安全性はこれまで以上に気を付けないといけないと思いますが、こういった事件をキッカケに、選挙や投票という民主的な仕方で仕組みを変えるのではなく、暴力によってなにかやり方を変えてしまうと、それが行き過ぎてしまうと、また模倣犯をうみだしかねないので、その辺りは慎重に検討した方がいいのではないかと思います
(関西テレビ「newsランナー」4月18日放送)