5月30日、アメリカ・フロリダのケネディ宇宙センターからスペースXの宇宙船「クルードラゴン」が打ち上げられた。

民間企業が開発した宇宙船での打ち上げは初めてで、クルードラゴンは無事、国際宇宙ステーションへのドッキングに成功した。

宇宙事業の商業化という新しい時代の扉を開いた今回の打ち上げについて、8月にも運用機第1号に搭乗予定の、日本人宇宙飛行士・野口聡一さんに話を聞いた。

提供:NASA
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米史上初の民間企業による有人宇宙船打ち上げ成功

アメリカで有人宇宙船が打ち上げられたのは、2011年にスペース・シャトルが役割を終えて以来9年ぶりだ。打ち上げを見守った野口さんも、その熱気を実感したという。

野口さん:
「アメリカの大地から宇宙船を上がるのを見るのがエキサイティングだった。素晴らしい盛り上がりだった」

NASA(アメリカ航空宇宙局)はその間、ロシアのソユーズに有人打ち上げを依頼してきた。しかし、打ち上げに膨大な費用がかさむことや安定した打ち上げが確保できないこと、さらに米ロ関係に伴う不安定要素などもあり、アメリカでの打ち上げ再開を模索してきた。

そのためにNASAは方針を大きく転換。これまでとは違い、民間企業に宇宙船の開発、打ち上げを任せ、NASAは顧客として宇宙を目指す選択をしたのだ。

NASAは米テスラのCEOでもあるイーロン・マスク氏が設立したスペースXのクルードラゴンと、ボーイングのスターライナーを有人飛行の候補とし、開発を競わせてきた。

野口さん:
「民間企業が主役となる日が来ている。きょうそれが明確になった。歴史的な転換点だと思う」

野口さんの言葉通り、クルードラゴンによる有人飛行の成功は民間主導の宇宙開発、宇宙ビジネス新時代の幕開けを告げたのだ。

日本人宇宙飛行士・野口聡一さんが日本人第1号でクルードラゴンに

試験運用の最終段階となる今回の打ち上げで、試験機が無事に帰還すれば、いよいよ本格運用が始まる。NASAは8月30日にも運用第1号機を打ち上げると発表した。

第1号機には野口さんが、日本人として初めて搭乗することが決まっている。野口さんにとっては2005年、2009~2010年(長期滞在)に次いで、10年ぶり、3回目の宇宙飛行となる。

野口さんにとっては懐かしく、また新たなチャレンジでもある。

野口さん:
「打ち上げに向けて仕上げをかっちりしていきたい」
「ISSの滞在クルーの中で10年以上あけてカムバックするのは僕が初めてかもしれない。ロンゲストカムバック賞でもいただけたら(笑)」

今回、野口さんはISS(国際宇宙ステーション)に半年間滞在し、小型ロケットの宇宙への放出や実験が予定されている。

ミッションにもこの10年間の技術の進歩が反映されているという。

野口さん:
「10年前になかった超小型衛星の放出や、AIやロボットを使った実験作業、日本の強みであるIPS細胞など、遺伝子工学に関わるテーマが非常に増えています。」

開かれた宇宙旅行への扉

今回の成功により、民間企業による宇宙旅行や宇宙の商業利用がより現実的なものになってきた。NASAもISSを民間に開放し、宇宙で企業活動ができるような計画を打ち出している。

スペースXのイーロン・マスク氏は「まずは多くの人が他の惑星を旅行できるようにしたい」などと述べ、人類が自由に宇宙旅行を楽しむ未来が現実の目標となってきたとの認識を示した。

野口さんも、日本も含めた民間による宇宙事業参入に大きな期待を示す。

野口さん:
「地球の低軌道の利用に関しては、いかに商業ベースで成立するように持っていくか。それからスタートアップ企業のような新しいアイデア持った人たちが、容易に参加できるような、そういう環境づくりをしていくのかが大事だと思うし、民間企業の持つアイデアだったり、豊富な資金力、そういったところを宇宙開発にどんどん生かしていってもらいたい」
「日本の皆さんも民間ベースでの宇宙ベンチャー、スタートアップがこれからどんどん増えていくことを期待しています」

ISSの先、月、そして火星への旅行も、映画や夢ではなく、現実のものとなる日が遠くない未来に実現するかもしれない。野口さんは宇宙を夢見る若者たちにこんなメッセージを贈ってくれた。

野口さん:
「今回は皆さんの夢をつなぐ歴史的に意味ある打ち上げだったと思います。ミッションの成果をしっかり見届けて、将来皆さんが宇宙に行く時に、スペースXが打ち上がったのを見たな、と思いだしてほしい」

無限に広がる宇宙へのロマン。期待は膨らむばかりだ。

【執筆:FNNニューヨーク支局長 上野浩之】

上野 浩之
上野 浩之