日本は中国に勝てるのか

日米両政府はワシントンで外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を開き、日本の「反撃能力」に関し協力を深化させることで合意した。これにより日本の有事への備えは強固なものとなる。だが我々は安倍晋三元首相が生前、自衛隊幹部に言った「君たち、中国に勝てるのか」という言葉を忘れてはならない。

安倍晋三元首相
安倍晋三元首相
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安倍氏のこの言葉がタイトルになった本が産経新聞出版から刊行された。安倍政権で国家安全保障局次長だった兼原信克氏や岩田清文元陸上幕僚長ら自衛隊幹部OBによる共著だ。

この中で、2018年に策定された防衛大綱を作る際に、「居並ぶ自衛隊最高幹部を前にして、いきなり安倍総理から『君たち勝てるのか』と聞かれたことがありました」と兼原氏が明かしている。

安倍氏は早くから中国の軍事的脅威に危機感を持っていたが、残念ながらこれまでの首相の中にはほとんど危機感を持たない人もいた。

米軍と協力すれば負けない

この本を読んでいて思い出したのだが、僕は10年以上前に防衛省の首脳に「戦争になったら日本は中国に勝てるのか」と、安倍氏と同じ質問をしたことがある。首脳の答えは「今は特に海軍力で比べ物にならず日本が強いから負けないが、相手はものすごい勢いで航空機などを増やしているのでいずれ負ける。ただ米軍と協力して戦えば負けることはない」ということだった。

安倍氏はこの首脳の分析と懸念をよくわかっていた。集団的自衛権の行使を容認し、国家安全保障局を作り、国家安全保障戦略を策定し、米国との軍事同盟を強固にしたのだ。岸田首相がこの安倍路線を継承し、防衛力の強化、防衛予算の増加を打ち出しているのは評価すべきことだ。

2022年8月、台湾を訪問したペロシ米下院議長(当時・左)
2022年8月、台湾を訪問したペロシ米下院議長(当時・左)

ただ先日、米国のペロシ前下院議長が訪台した際に中国が日本のEEZ内にミサイルを撃ち込んだにも拘らず、日本政府の対応は外務次官が駐日大使に抗議しただけで、事実上黙認しているようにも見えた。

これについて兼原氏は「外務省の国際法局の意見がそのまま出てしまった」もので、「安保政策上の考慮が欠如している」と政府の対応を批判している。

私の島に手を出すな

つまり岸田氏は安倍氏の安保政策を忠実に引き継いではいるものの、詰めが甘い。というか現場対応がゆるい。このままでは海千山千の中国やロシアにいいようにやられてしまうのではないか。

この本にはもう一つ面白いことが書かれている。安倍氏は中国の習近平主席と会った際に「私の島に手を出してはいけない」と言い、さらに「私の意志を見誤らないように」と言ったというのだ。台本にはない発言でみんな驚いたが、同席していた兼原氏となぜか目が合った習近平は「このまま憑り殺されるかもしれないと思うほど冷たい視線」だったそうだ。これが外交だ。

中国・習近平国家主席
中国・習近平国家主席

台湾有事は、あるかないかではなく、いつあるかだ。岸田氏は早い時期に習近平に会って「私の島に手を出すな」と言わなければいけない。

【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】

記事 319 平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。2020年4月から立命館大学客員教授。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。