9月入学に官邸や知事は“前向き姿勢だが、状況に変化も…

新型コロナウイルスの影響での学校休校を受け浮上した「9月入学」導入案。文部科学省が導入する場合の具体的な案を示すなど、政府内で検討が進んでいる。しかしここに来て、緊急事態宣言が解除される中で、自民党若手議員たちからも反対論が上がるなど、9月入学導入への慎重論が勢いを増している。議論の潮目は変わりつつあるのだろうか。

この9月入学を巡っては、3月に急きょ開始された学校の臨時休校措置の長期化を受けて議論が始まった。休校期間の初期にあっては、特に小学生を中心に日中を自宅で過ごすこととなった子供達の心身や安全面への不安や懸念、そして受け皿とされた学童保育の飽和などが問題点として指摘された。

次に表面化したのが臨時休校に伴う親の休業補償の問題だった。そしてこれに次いで指摘され始めたのが、臨時休校の長期化に伴う子供達の学習の遅れで、それと共に9月入学に関する議論が持ち上がった。9月入学制度とは、現在の4月始まりの学校制度を9月始まりに変更するもので、欧米などでは主流となっている。

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全国知事会は4月30日に緊急提言として9月入学の国民的議論を求め、小池東京都知事と吉村大坂府知事も共同でメッセージを出し「賛否両論あるがこういう時期だからこそできることもある」「G7=主要7か国は、日本以外は全部9月だ」などと、そろってこのタイミングでの9月入学の導入について前向きな姿勢を示した。

これに呼応するかのように安倍首相も国会で「前広に検討する」と発言し、一連の9月入学導入論に一定の理解を示した。

拙速な議論だ!自民党若手60人以上が早期の9月入学制度導入に反対の声

こうした中、5月22日午前、自民党の小林史明・青年局長ら若手の国会議員を中心とした61人が連名で「『9月入学制度』の問題点と子供達の学びの保障について」と題した提言を発表した。

小林氏は現在の9月入学導入をめぐる動きが「コロナによる2か月あまりの授業の遅れをどうするのかということが発端となっています」と振り返りつつ、「とにかく今国民が求めているのは、(学習の)遅れをどう取り戻すのかということへの早い決断と、大学入試の時期、特にセンター試験の時期を決めてほしいということ」だと指摘した。その上で、「拙速に9月入学の議論をするのではなく慎重に議論していただきたい」と強調した。政府はもちろん、世論に浸透しつつある9月入学肯定論をもけん制した形だ。

小林氏らが掲げた提言は6項目から成り、そのどれもが“早急な”9月入学導入により生じる問題点だ。

1)休校中の学習の遅れをどうするのかという議論から始まった末に9月入学へと変更した場合、4月入学を9月入学へと遅らせた点では『子供達の学びが半年遅れとなる』という点

2)新型コロナウイルスの感染拡大は1度だけではなく2度3度と繰り返す可能性があるとの専門家らの指摘を踏まえ『今後コロナ等の感染症が流行する度に学校教育を後倒すのか』という点

3)保育園から小学校へ、あるいは小学校から中学校へなど進学の際に半年間の空白期が生じる。その間に子供達がどこで過ごすのか、特にそれまでいた保育園などに留まった場合、新しく入園予定の子供達が入園できず一時的に待機児童が急増するといった『移行期に子供達にとって重大な問題が発生する』という点

4)『移行期に家計の授業料負担が増加するか学校側の授業料収入が減少する。それを財政で補填するには数兆円規模の歳出が必要となる』という点

5)学生の卒業時期が半年ずれることで、例えば新型コロナウイルスとの戦いにおいて最前線で活躍する医師や看護師といった医療従事者が半年だけ社会に出てくることが遅れるなど、『卒業時期を後倒すことで業種によっては労働力不足が深刻化する』という点

6)『制度移行には30本以上の法改正など多くの制度改正が必要となる。既に教職員の働き方改革やプログラミング教育等が行われる中、現場レベルでも混乱なく実行するためには準備期間が必要となる』という点

そして小林氏は、9月入学の議論は「意思決定をする国と実行する現場の両方を見る必要がある」として改めて丁寧な議論を求めた。

大ベテランからも慎重論

この自民党若手の提言と同じ日、ベテランの文教族からも慎重論が噴出した。正午から行われた二階派の会合で、「大勲位」こと中曽根康弘元首相の長男である中曽根弘文・元文部大臣が9月入学をめぐる一連の動きに次のように苦言を呈した。

「これは掛け声がどうも先行しているような気がしまして。じっくりと教育のあり方、学校制度のあり方が国会の場・党内でいま議論されていますけど、十分な場で議論がなされないまま文科省が一定のたたき台を提示してしまったということだと思います」

この他にも自民党内からは、次のように様々な「9月入学導入反対」の意見が聞かれた。

「社会全体の問題、新卒の入社、人事、そういったすべてが変わるもので、すぐに結論を出すべき問題でない」(中堅議員)

「非常に報道が先走った印象、9月入学ありきと思っている人もいるということに非常に懸念があります」(若手議員)

「このタイミングでの9月入学を歓迎する声なんて私の周りでは全く聞かない」(党関係者)

前向きな政府と後ろ向きの自民党、問われるのはまたしても党の存在意義?

自民党では、岸田政調会長の指示のもと、柴山前文科相が座長を務める「秋季入学制度検討ワーキングチーム」が既に複数回にわたり役員会を開き、9月入学についての党としての考えを今月中にもとりまとめるべく議論を重ねている。

しかし中堅議員の「こっち(自民党)とあっち(政府)で真逆だから」との指摘の通り、現状では9月入学に関する賛否は自民党と政府の間で大きな隔たりを感じる。その一方で党関係者が「政府内でもこの議論は賛否が分かれていて、自分のボスがどっち向きかってことで(党内も)みんな顔色を見てけん制しあっているんですよ」と語るように、結局は政府の考え方を党側が気にしているといった声も聞かれた。

そうした中で、9月入学導入の議論は今後どういう展開をたどるのかだが、こうした党の慎重論を勢いづかせるような2つの状況の変化が生じている。

1つは、首相官邸の求心力の低下だ。国民への現金給付をめぐり、政府が二階幹事長や公明党の主張を受け入れ、一律10万円給付に方針転換するなど、官邸が党の主張を受け入れざるを得ない場面が増えてきていることだ。検察庁法改正案や東京高検の黒川検事長の問題で政府への批判が高まっていることも、その流れを加速させるかもしれない。

もう1つは、緊急事態宣言が5月25日をもって全国で解除されるに至ったことだ。休校期間のさらなる長期化が避けられる可能性が高まったことになり、これも議論に影響しそうだ。

安倍長期政権が続いてきた中で、様々な政策について首相官邸を中心とした政府の意向が強く反映され、自民党の意見が疎かにされがちな状況を表す“政高党低”という言葉が使われて久しい。今回の9月入学という議論をめぐっては、導入の是非の結論の行方と共に、そのプロセスにおいて政府と党の力関係に変化が生じるかどうかも注目される。

(フジテレビ政治部 自民党担当 福井慶仁)