試合会場に声援を送ることができる“リモート応援システム”を開発
新型コロナウイルスの影響で、多くのスポーツイベントが延期・中止となっている。早期の再開に向けて検討されているのが、感染予防の観点からの“無観客”での開催だ。
実際、大相撲は5月の夏場所を中止にしたものの、7月に行われる名古屋場所を、東京・両国国技館に会場を移しての無観客開催を目指している。また、サッカー・Jリーグでは、公式戦再開に向け、無観客や制限付きでの試合開催も視野に入れて検討している。
この無観客試合で懸念されるのが、観客の声援がないため盛り上がりに欠けるということではないだろうか。また、ファンの応援で力を最大限に発揮する選手も中にはいるだろう。
こうした中、自宅で試合を見ながら、試合会場に声援を送ることができる“リモート応援システム”をヤマハ株式会社が開発した。
『Remote Cheerer powered by SoundUD」という応援システムで、スマホアプリなどからボタンをタップしたり声を吹き込んだりすることで、実際の試合会場に声援を届けることができるというのだ。
現在は開発段階にあるのだが、5月13日に静岡県の「エコパスタジアム」で実証実験が行われ、観客動員時に近い十分な臨場感が得られることが確認されたという。
外出自粛期間中の今だけでなく、いろいろな理由で試合会場に足を運べないファンにとってもうれしいシステムとなることだろう。
期待できそうなこの応援システムだが、いつから導入されるのだろうか? また、実現に向けて問題点はないのだろうか? ヤマハ株式会社の担当者に詳しく聞いてみた。
スマホをタップするだけで声援や拍手を届けられる
――開発の経緯を教えて
昨今、テレビやラジオのみならず、ストリーミング配信、パブリックビューイングなどを通じて、音楽ライブやスポーツ中継、講演会などを離れた場所から鑑賞する機会が増えつつあります。
しかし一方で、遠隔地やご自宅で鑑賞される方の熱い声援を会場に直接音で届けることは出来ておらず、何かできないかと考えて開発しました。開発自体は約1年半前から行っておりまして、新型コロナウイルス感染症拡大の状況を受け、無観客試合を想定した今回の実験を行いました。
――利用者はどのようにして使うの?
対応アプリをスマホから起動して使用します。声援や拍手はプリセットされたものが用意されており、ボタンをタップするだけで送ることができます。
会場のどの位置から声を流すかを選択することができ、あたかも観客席にいるかのような感覚で応援が楽しめます。また、直接マイクから声援を吹き込むこともできるようになっています。
――利用者のアクションとスタジアムのスピーカーで、タイムラグはない?
インターネットを介するため多少のタイムラグは発生します。ただ、端末やネットワーク環境にもよりますが、安定した環境下ではそれほど大きいものではありません。
また、ネット視聴など放送自体がやや遅れている場合などは、放送音声にのみ歓声を反映することもできます。(例えば、試合会場では現場にいる人(遅延がほぼ無い方)のアプリ声援のみが流れ、放送では放送視聴者のアプリ声援もミックスされるという棲み分けが出来ます。現場では大声での応援や観客を間引いての試合開催も想定され、現場でアプリを使用して応援するケースも想定されます)
実証実験で有用性と確かな臨場感を実感
――実証実験はどのようにして行われたの?
会場にスピーカーを58台持ち込み、両サイドに分けて設置して実験しました。ユーザーは、ジュビロ、エスパルス各本社と現場に別れた合計30人ほどで、それぞれがアプリで遠隔応援に参加しました。
検証では、歓声の臨場感、既存のアナウンスと調和が図れるかなどを確認しました。歓声の音量はボタンが押された数に応じて変更するように設定し、万単位の応援を想定したサウンドをシミュレートして放送するなど工夫して実施しました。
その結果、感染リスクを排除しながら試合を応援できるシステムとしての有用性を検証できました。
「ピッチの上で戦う選手たちにとっては心強い後押し」
――実験の手ごたえは?
確かな臨場感を感じることができ、また既存の設備と調和が図れることも確認できました。
――実証実験に参加した人の声はどうだった?
このような声をいただきました。
無観客および応援制限の試合が想定される中で、今回のシステムは、ピッチの選手たちにサポーターの皆様を近くに感じてもらい、勇気を与えるものになると考えています。また、サポーターの皆様にとっても、選手たちを後押しできる画期的な技術だと感じました。今後もクラブとして導入に向け、協力して参りたいと思います。(株式会社ジュビロ 事業戦略本部 柳原弘味さん)
歓声は試合を創りあげる大切な要因の一つであります。ピッチの上で戦う選手たちにとっては心強い後押しであると元選手の立場から考えます。今後もエスパルスとしてクラブのリソースを最大限活用し、本システムの開発に携わっていけたらと考えています。(株式会社エスパルス 営業本部 高木純平さん)
『Remote Cheerer powered by SoundUD』を体験中に目を閉じるとあたかもスタジアムにサポーターがいるかのような臨場感を感じました。本スタジアムでもこのシステムを使って選手を応援できることを実感しました。(小笠山総合運動公園エコパ 営業企画部 松林啓介さん)
スポーツ以外を含めると、6月から活用が開始される予定
――導入はいつ頃を予定しているの?
スポーツ業界以外も含めると、来月から活用が開始される予定です。現状、システム自体は一部開発中ではあるものの、すでに本導入いただける程度にシステムは組み上がっておりますので、スポーツでの活用については、採用側のご都合次第となります。
――利用者は無料で使えるの?それとも有料になる?
イベント主催者様にお決めいただく形となります。
――実現に向けて問題となっていることは?
まずは「知っていただく」ことが一番の課題です。実績を重ねることでより良い物になると考えます。
他のスポーツはもちろん、音楽ライブやエンタメイベントにも応用可能
――この先どんなことに応用できる?
他のスポーツはもちろんのこと、音楽ライブや各種エンターテインメント系のイベントにも応用可能です。海外のイベントに声援を届けるといったことも可能になると考えます。
また、大声を出しての応援が禁止されている場合などでも、スタジアムにいる観客がこのアプリを使って声援を流せば感染症予防を実現しながら大歓声をあげることもできます。
例えスピーカーからだとしても、ファンの声援が選手や出演者のモチベーションにつながることは変わらないだろう。ウィズコロナ・アフターコロナ時代のスポーツやエンターテインメント業界においては、“リモート応援”も観客の新しい応援様式となっていくのかもしれない。
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