青森の「田舎館駅」がネットで注目

皆さんは、鉄道駅の「駅舎」に魅力を感じたことはあるだろうか。

都心だと数分間隔で次の列車が来るが、地方では1時間に1本なんてこともある。駅に早く到着して列車を待ちつつ、駅舎でゆっくりした時間を過ごすのも悪くはないものだ。

そんな駅舎に、新たな魅力を吹き込んだ試みがネットをざわつかせている。

「田んぼに囲まれた田舎の無人駅なんだけどさ、、、中に入ったらそのギャップに驚くと思う」

Twitterユーザーのたんどぅ(@tando_aomori)さんが投稿したのは、青森・田舎館村にある「田舎館駅」の駅舎を撮影した画像。外観からするとのどかな田舎の駅のように見えるが...

外観は普通の駅舎に見えるが...
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しかし一歩足を踏み入れると、その表情は一変!白と黒で表現された、前衛的なアートが所狭しと広がり、まるで別世界に迷い込んだかのような感覚にいざなってくれるのだ。

内部はまるで別世界!

そのギャップに驚き圧倒されるが、描かれているのは、ビル群や動物、怪獣などさまざまだが、いずれも遊び心を感じられる。

駅舎内の椅子やゴミ箱にも、これらの備品を生き物に見立てたキャラクターも描かれ、見ているだけで時間が過ぎるのを忘れてしまいそうになるほどだ。
 

地元出身アーティストとのコラボで誕生

このアートは、田舎館駅が所属する鉄道企業「弘南鉄道」青森県出身のアーティスト・GOMAさんとのコラボレーションによって生まれたもので、作品名は「ART STATION」。

弘南鉄道によると、GOMAさんから「新型コロナウイルスで自粛ムードが漂うが、人々が元気になるようなことができれば」との話があったことから、2020年5月のゴールデンウィークを活用し、約10日間で描いてもらったという。

青森県出身のアーティスト・GOMAさん

その変貌ぶりには、多方面から問い合わせが相次いでいて、乗客からも反響が寄せられているとのことだ。

奇想天外なこのアート、一体どんな思いを込めて描かれたのだろうか。なぜ、外観と内部のギャップを感じさせるような表現をしたのだろう。GOMAさん本人にもお話を伺った。

子供らを優しく包み込んで見守る存在になれば

――なぜ、田舎館駅の駅舎をアートにした?

弘南鉄道さんとは1、2年ほど前から、駅をアートにしたいというお話をさせていただいていたのですが、私の仕事が忙しくタイミングが合いませんでした。新型コロナウイルスの影響で少し余裕ができたので、この機会に制作させていただきました。駅舎の掃除に1日、壁や天井のペンキ塗りに1日、ペンでのアートに9日間かかっています。

田舎館駅を選んだ理由は、アートを見に来る人の自動車を停められる敷地があったこと、アート制作のための足場が組みやすく、乗客の迷惑になりにくいと感じたためです。実は僕自身、田舎館駅は一度も利用したことがありませんでした(笑)。

――制作のイメージなどはある?

この話をすると理解に苦しむ人が多いと思いますが、僕は絵を描く右手と物事を考える脳が別々に働くんです。構想や下書きなどはほぼなく、直感的に描きました。

ただ、今回の作品にはポイントもあります。例えば、天井の大きな目玉と大量の腕は、見守りと千手観音を思い浮かべて描きました。駅舎の周辺は子供の遊び場になったり、年配の農家さんが行き来するので、優しく包み込んで見守る存在になればと思ったんです。

子供たちにわくわくしてほしい思いから、怪獣やモンスターっぽい絵も描きました。見るたびに新たな発見ができるものにしたいと、牛乳やマヨネーズなどの絵も隠しています。
 

天井に描かれた大きな目玉や腕にも理由があった

――色彩を白と黒で統一したのはなぜ?駅舎の内部だけに描いた理由は?

田舎館駅は70年前(1950年)に作られたので、建物自体はすごく古いんです。最初はカラフルな色で描こうと考えましたが、駅舎を実際に見たときに「カラフルにするのは少し違うのでは?」と感じました。そこで白のペンキを塗り、黒のペンで描こうと思いました。

外観をそのままにしたのも同じ理由で、駅舎を見たときに「これは歴史的遺産だな」と思ったためです。かすれた手書きなども味があって、このまま残したいと思ったんです。
 

田舎館駅の以前の状態

障害で勉強ができなくても「美大に行きたい」と思えた

――なぜ、アーティストになろうと思った?

絵は好きでしたが絵描きになろうとは思っていなく、以前は保育士をしていました。そんな中、ふいに「美大に行きたい」と思えたんです。自分は文字の読み書きが難しい学習障害「ディスレクシア」と注意欠陥・多動性障害の「ADHD」を持っています。

教科書が読めない上に、授業中はまともに座ってられなかったので、成績はいつも赤点(笑)。そんな自分だったので「人生でこんなことがあるのか」と思い、必死で受験勉強するとなんとか美大に合格できたんです。自分でも仕事にできるとは考えていませんでした。
 

――これまでの作品の中で、お気に入りを教えて

「天狐」という、キツネの神様を描いた作品がお気に入りです。天狐は東北地方になじみがある神様なので、神仏を初めて題材とするときに選んだのですが、満足する出来となりました。

東京の富岡八幡宮に展示された「金魚花魁」も気に入っています。これは、青森の祭りである「ねぷた」に関連した「金魚ねぷた」を擬人化した作品です。ねぷたの絵は普通、専門の絵師が描くものなので、絵描きとして選んでいただいたことを光栄に思っています。
 

お気に入り作品の「天狐」
GOMAさんの作品は東京でも見ることができる

――アートをつくるときのこだわりは?

見た時にわくわくや驚きを与えられる作品にしたいとは思います。自分の絵は細かいタッチが多いのですが、誰もみたことがないような表現ができればいいですね。
 

新型コロナが落ち着いたときに訪れる場所となれば

――田舎館駅の作品が話題となったことをどう思う?

驚いています。朝起きたらTwitterのフォロワーが何百人も増えていて、びっくりしました。青森をアートで盛り上げたいので、田舎館駅が新しい観光スポットになるとうれしいですね。新型コロナウイルスが落ち着いたころ、人々が訪れる場所になってもらえたらと思います。


――これからの目標は?

アーティストとしては、自分はまだまだこれからです。今回の件で多くの人に自分の作風を知ってもらえたので、いろいろな場所でアートを制作できればと思います。
 

奇想天外なアートには、駅舎が子供から年配の人までを見守る存在にしたいという思いが込められていた。

田舎館村といえば、水田にさまざまな色の稲を植えて巨大な絵を描く「田んぼアート」(※2020年は新型コロナウイルスの影響で中止)も有名だ。感染拡大が終息するころには、田舎館駅も新たな観光名所となっていることだろう。
 

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