タイのナイトライフ産業に大打撃…現状を取材

東南アジアのタイでは、バーやパブ、クラブといったナイトライフが大きな産業になっています。しかし新型コロナウイルスは、こうした夜の経済を直撃しています。

豊かな自然やビーチ、そして文化遺産…。年間4千万人の外国人が訪問する観光大国・タイ。その魅力は昼だけではありません。

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夜になると街の雰囲気は一変し、バーやナイトクラブなどが、街の主役に取って代わります。中でも首都バンコクは世界でも有数のナイトライフが楽しめると評判です。       

タイでレストランやバーなどを経営している後藤俊行(ごとう・としゆき)さん。バーは2ヶ月にわたって休業しています。

後藤俊行さん:
「それぞれの店の家賃がかかったり、いろんなレンタルしている部分があるのでリース料がかかったり、ぼくはその負担ですけど、従業員の皆さんも仕事がないので、助けてあげたりしていたら、かなり厳しい状態ではありますね。」

バンコクでバーを経営する後藤俊行さん
バンコクでバーを経営する後藤俊行さん

感染抑制のため、タイ政府は3月18日から、全てのバーやパブなどを強制的に休業させました。こうした業種に携わる人は、仕事が全くない状況です。

後藤俊行さん:
「夜の繁華街も色々あって観光客の皆さんもたくさん来られるんですけど、これだけ閉まっていると従業員の人だけで何万人という数がいるので、皆さんの生活もあるし、結構厳しいですよね。」

年間6千億円の一大産業…再開はまだ先に

タイのナイトライフエコノミーは、年間で55億ドル=日本円で6千億近くを稼ぎ出しているといわれます。しかし、これらの業種はリスクが高いとして、営業が再び認められるのは早くても6月下旬、それより先になる可能性もあります。

バンコクから2時間離れたリゾート地パタヤも大打撃を受けてました。バーやパブが並ぶ通りは、ほとんどが閉鎖されたまま…再開をあきらめた店も増え始めています。 

トランスジェンダー女性も苦境

市内のとある場所を訪れると…トランスジェンダーの女性たちが支援物資を受け取るために並んでいました。ここはLGBTの人を支援する団体の施設。パタヤに住むLGBTの人の多くは、ショーやパブなどのナイトライフ産業に携わっていて、この危機で仕事を失う人が続出しています。

看護婦:
「生活で感染リスクはありますか?」

プイさん:
「気をつけて生活してます。ずっと家にいて外出してないです」

この日、相談に来てたのは、トランスジェンダー女性のプイさん。プイさんはコロナ危機が起きるまでは「ティファニーズ・ショー」という老舗のニューハーフ・キャバレーで働いていました。芸歴は19年。コロナ危機の前は、収入は月5万バーツありましたが、仕事が途絶え、今は日々の食事を買うお金にも困っています。

プイさん:
「私はお金持ちじゃなく、田舎から出てきてパタヤで働いているんです。」
「収入がなくて、とても大変です。固定費などは変わらないから。」

商売道具である体のキレを維持するため友人と自宅でエクササイズをするのが日課です。観光産業が戻るのを待つ日々ですが、ショーのお客さんは、外国人がメインのため、再開の見通しは全く立っていません。

プイさん:
「新型コロナで、私の思い描いていたものは、全て変わってしまいました。」

LGBTの支援団体のディレクターによると、パタヤにはおよそ2万人のLGBTの人たちがいてその大半が困難に直面しているといいます。

LGBT支援団体NGOのディレクター・ドイさん:
「いまはLGBTの権利や同性婚問題は後回しで、まずは生活が最優先です。」
「感染者が0になっても、パタヤの景気が元に戻るのは、1年はかかるのでは」

厳しい対策が功を奏し、タイの感染者は大きく抑え込まれ、一度は完全に姿を消した人気のナイトマーケットが5月15日、再びバンコクに戻ってきました。

再び活気あるタイの夜が戻ってくる日を多くの人が待ち望んでいます。

再開したバンコク・ラチャダー鉄道市場
再開したバンコク・ラチャダー鉄道市場

【執筆:FNNバンコク支局長 佐々木亮】

佐々木亮
佐々木亮

物事を一方的に見るのではなく、必ず立ち止まり、多角的な視点で取材をする。
どちらが正しい、といった先入観を一度捨ててから取材に当たる。
海外で起きている分かりにくい事象を、映像で「分かりやすく面白く」伝える。
紛争等の危険地域でも諦めず、状況を分析し、可能な限り前線で取材する。
フジテレビ 報道センター所属 元FNNバンコク支局長。政治部、外信部を経て2011年よりカイロ支局長。 中東地域を中心に、リビア・シリア内戦の前線やガザ紛争、中東の民主化運動「アラブの春」などを取材。 夕方ニュースのプログラムディレクターを経て、東南アジア担当記者に。