戦後最悪、14.7%-アメリカの4月の失業率だ。
新型コロナウイルスの感染者が35万人を超えたニューヨーク州では、「ピークは超えた」とされているが、都市部ではまだ経済活動の再開には至っていない。外食・小売りなどは営業停止のまま、2ヶ月が経とうとしている。業績悪化に耐えきれず老舗の百貨店やジム、ファッションブランドなどが、次々と経営破綻を表明した。

この2ヶ月間に、3600万人が申請したという失業保険。私たちが取材した、ジョナサン・マキアさんもそのひとりだ。

大学生のジョナサンさんは、ニューヨーク市内の大学への通学費や、携帯電話代、実家に入れる生活費などのために、週に3日ほど、郊外のスポーツ用品店でアルバイトをしていた。3月に入り、新型コロナウイルスの感染が拡大し始め、事実上の外出禁止令が出たことにより、店は営業できなくなった。スポーツ用品店は「必要不可欠なビジネス」ではなかったからだ。

ジョナサンさんは、職場から、失業保険に申請するよう勧められた。
失業保険申請はすべて労働局のホームページから行うため、サイトがパンク状態となり、ジョナサンさんも2時間ほどかかったという。しかし、申請は無事終わり、翌週には最初の振り込みがあった。

取材に応じるジョナサンさん
取材に応じるジョナサンさん
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戸惑いも・・・「働いていないのに以前より収入が増えた」

ジョナサンさんは、以前は週に300ドルほどの収入を得ていた。失業保険は収入の一部が支払われる仕組みで、ジョナサンさんの場合「毎週169ドル」が支払われると決まった。これは新型コロナウイルスとは関係なく支払われる金額だ。これに加え、「新型コロナウイルスの影響で収入が失われた人」の場合、収入・地域にかかわらず、一律で、連邦政府から毎週600ドル(約6万4000円)が支給される制度がある。月額にすると2400ドル、日本円で約25万7000円が加算される計算になる。(※ここから税金が差し引かれる)。

ジョナサンさん:
働いていた時より、収入が増えてしまったんです。(どう思いますか?)このシステムは・・・変だと思います。自分がもらっていいのかどうか・・・」

ジョナサンさんは正直、戸惑いを隠せない様子だ。

ジョナサンさん:
「このシステムは、一部の人にしか機能していない、不釣り合いなシステムだと思います。僕は“エッセンシャル・ワーカー”ではないし、一切、働いていないんです。もちろん、僕もある程度はお金が必要です。でも、もっと危険な環境で働いている人たちもいるのに、今の僕より収入が低い人もいるはずです」

ジョナサンさんに限らず、フルタイムの労働者でも、「毎週600ドル加算」のために以前より収入が増えた人は多いと報じられている。ジョナサンさんは、店が営業再開したら仕事に復帰するつもりだが、手当がもらえる間は「働きたくない」という人もいると予想される。このため、多くの経営者にとっては、加算が続いている期間中に職場を再開しても、労働力を確保ができるかどうかが課題のひとつとなっている。

ジョナサンさんが受け取った、NY州の失業保険についての書類
ジョナサンさんが受け取った、NY州の失業保険についての書類

「危険手当」なしのエッセンシャル・ワーカー 支出も増加

ジョナサンさんが戸惑う理由のひとつが、医療、食料品、交通機関などで働く「エッセンシャル・ワーカー」のとの格差だ。「ヒーロー」として感謝されている彼らだが、「危険手当」など連邦政府からの金銭的な補償はない。

ニューヨーク・マンハッタンの中心部で、マンションのドアマン(受付や管理業務など)として働く、ダニエル・アレーナスさん(29)は、こう話した。

ダニエルさん:
「危険手当がもらえたらいいと思う。連邦政府は当然、エッセンシャル・ワーカーたちに支払うべきだと思う。不公平だと思うよ。働いていない人は600ドル加算されているのに、僕の友達の医療関係者では週の給料が600ドルに満たない人もいると聞いた」

ドアマンとして働くダニエルさん
ドアマンとして働くダニエルさん

ダニエルさん自身も危険手当は受け取っていない。収入は以前と変わらないが、支出は増えたという。感染リスクを考慮し地下鉄の通勤を避け、配車サービスの「Uber」を利用して通勤しているからだ。片道およそ20ドル、もちろん自腹である。

連邦政府から危険手当が支給されないのは、「不公平だ」と話すダニエルさんに、こんな質問をぶつけてみた。

ーーたとえば、自分の失業手当がいくらになるか計算してみたとこはありますか?

ダニエルさん:

「ないことはないけど・・・考えないようにしている。私たちのような仕事は24時間、常に対応しなくてはいけない仕事だし。やめようとは考えなかったよ!」

このようなエッセンシャル・ワーカーたちの「プロ意識」に支えられ、「ステイ・ホーム」生活は成り立っている。しかし、危険手当については、一部の企業は独自に支払っているが、連邦政府からは支払われていない。

ニューヨーク州のクオモ知事は「エッセンシャル・ワーカーに危険手当を支払うよう、連邦政府に提案する」と表明したものの、状況は変わっていない。また、アメリカ議会でも医療従事者などへの危険手当は審議されているが、成立の見通しは不透明なままだ。

少しずつ経済は再開していく方向に動いてはいるものの、「コロナ以前と同じ生活」に戻るにはまだまだ時間がかかるだろう。その間、生活に困窮する人への救済策と並んで、エッセンシャル・ワーカーへの支援をどうしていくのか。また、どのようにして人々が持つ「不公平感」をなくしていくのか。アメリカの政策に注目していくとともに、日本も考えなくてはいけない問題だろう。

【執筆:FNNニューヨーク支局 中川眞理子】

中川 眞理子
中川 眞理子

“ニュースの主人公”については、温度感を持ってお伝えできればと思います。
社会部警視庁クラブキャップ。
2023年春まで、FNNニューヨーク支局特派員として、米・大統領選、コロナ禍で分断する米国社会、人種問題などを取材。ウクライナ戦争なども現地リポート。
「プライムニュース・イブニング元フィールドキャスター」として全国の災害現場、米朝首脳会談など取材。警視庁、警察庁担当、拉致問題担当、厚労省担当を歴任。