経常収支 2カ月連続黒字も過去最少
経常収支の黒字幅が、589億円と8月単月では比較可能な1985年以来で過去最低の数字を記録した。
黒字は2カ月連続とはなったものの、額としては、2021年の同じ月に比べて1兆4,416億円、率にして96%の減少となった。
経常収支とは、貿易や投資で日本がどれだけ稼いだかを示す数字で、海外との貿易や証券投資などでの収入と支出の差のことを言う。
その内訳は輸出から輸入を差し引いた貿易収支や、海外の子会社から受け取った利子や配当など稼ぎを示す第一次所得収支、旅行収支を含むサービス収支などで構成される。
貿易収支の赤字は拡大 燃料価格高騰に円安が拍車
この記事の画像(5枚)今回、経常収支の黒字幅が縮まった大きな要因は、貿易収支の赤字の拡大だ。
原油価格の高騰などで、貿易収支が2兆4,906億円の赤字となったことが響いた。赤字額は2021 年の同じ月と比べて2兆1,000億円余りも増加している。
原油や石炭、LNG=液化天然ガスなど輸入物価の価格上昇に円安が拍車をかけている。
それに加えて輸送や旅行、金融、知的財産権等使用料などのサービス取引での収支も6,000億円を超える赤字となっていて、2021年の同じ月と比べて2,000億円近くも赤字幅が広がっている。
決して赤字が広がった項目ばかりではなく、「第一次所得収支」は円安の影響を受けたことで、海外から受け取る配当の円換算の額が増えたことなどが影響し、3兆3,271億円の黒字となっている。1カ月の黒字額として過去最大となったものの、残念ながら貿易やサービス収支の赤字の拡大を補うことは出来ていない。
経常黒字の減少も「円安」要因に
日本の企業は海外との貿易で外貨を獲得すると、それを外国為替市場で売却して円に換える必要がある。反対に日本に製品を売った海外の企業は獲得した円をドルに代表される外貨に換える。
つまり経常黒字が減っているということは、海外への支払いのため円が海外に流出し、それをドルなどの外貨にする需要が増えていることを意味している。
このため為替市場では円売り圧力が強まって、円安が進む要因にもなるという構図になる。
とかく足下の円安は日米の金利差の拡大が原因だと言われているが、日本が、これまでのように貿易やサービスで稼げなくなってきているという実需の上での現状も、為替市場での円売り圧力の強まりを招いている原因の一つとして看過できない。
つまり円安を加速させている要因は、日米の金利差の拡大という金融面のほか、実体経済面でも存在するというわけだ。
経常赤字傾向が定着する可能性も
さらに懸念されているのが経常収支が赤字になることだ。
実際、2021年12月は2,675億円の赤字、2022年1月は1兆2,157億円、さらに6月も1,433億円の赤字と、経常収支が一時的に赤字に転落している。
東日本大震災以降、日本は発電を化石燃料への依存にシフトしてきた。岸田政権は、2023年夏以降、最大17基の原発の再稼働を目指す方針を示したが、依然として化石燃料への依存は大きいのが現状で、エネルギー需要を満たすための化石燃料の輸入がただちに減ることは考えにくい。
さらに少子高齢化による労働人口減少などの影響で、日本の生産能力は下落傾向が続いているとして、今後、輸出が爆発的に伸びることも大きくは望めないのではないか。
加えて、これまで円安は輸出の多い大手の製造業に有利と言われてきたが、そうした大手製造業の多くは生産を海外にシフトしているため、決して円安が有利とは言えない状況になっている。
このままでは、経常収支の赤字傾向が定着する可能性が高いと警鐘を鳴らす声もある。
インバウンドが経常収支改善のカギ?
唯一の期待は、新型コロナウイルス対策で実施されていた「水際対策」の入国制限が11日に大幅に緩和され、外国人個人旅行客の入国が解禁されたほか、1日に5万人だった入国者数の上限も撤廃されたことだ。
これにより、インバウンドといわれる訪日外国人の日本国内での消費が増えれば、この消費は輸出に相当するため、経常収支の改善に寄与することになる。外国人旅行者にとっては円安も魅力的だろう。
しかし、完全に入国の制限が撤廃されたわけではなく、今後もワクチン3回目接種の証明か出国前72時間以内の検査での陰性証明の提示が入国の条件として残っていることで、旅行先として日本が避けられる懸念もゼロではなく、手放しでは喜べないのが現状で、その効果は未知数だ。
経常収支の黒字額縮小は、円安が進む日本経済の抱える構造的な課題を浮き彫りにしているといえそうだ。
(フジテレビ経済部 財務省担当 黒田哲也)