緊急事態宣言による外出自粛で在宅ワークとなり、「何か身体を動かさないと」とランニングを始めた人も多い。しかし、健康のためにと始めたランニングも知らないと危険な落とし穴がいくつもある。

そこで、プロランニングコーチ兼陸上競技解説者の金哲彦さんに、ビギナーからベテランランナーまで、コロナ禍でのランニングについてアドバイスを伺った。

プロランニングコーチの金哲彦さん

「マスク・ランニング」3つのリスク

ーー外出自粛要請以来、街中にマスクを着用したランナーが増えていますね。

金哲彦さん:
コロナが始まった頃は「ランニングは3密じゃない」と、マスクを着用しないで走っているランナーがたくさんいました。しかし飛沫が飛ぶことがわかってからは、走る人もマスクをするようになりましたね。普通のマスクをつけているランナーを見かけますが、時期的にもう暑いし、吸い込んだときに口にくっつくので呼吸しづらいですよね。

ーー海外では、マスクをつけたまま運動するリスクを指摘する声もありますね。

金哲彦さん:
そうですね。特に避けるべきなのは3つです。まず、呼吸がしづらいマスクやマスクを着用しての激しい運動です。中国で死亡事故もありましたが、吸気が入りづらいので、肺と心臓に負担がかかります。

中国の再開された学校ではマスク着用が義務付けられ、体育の授業中に生徒が死亡する事故が相次いでいる

2番目が、マスクを着用して負荷の高い無酸素運動をすることです。無酸素運動の後は、酸素負債の回復のために大量の酸素が必要なのに、吸気が入りづらいと肺と心臓に負担がかかります。

そして3番目が、気温が高い時間帯にマスクをつけて長時間走ることです。マスクは顔周辺に熱がこもりやすくなり、熱中症のリスクが増加するからです。

ランニング用のTシャツでマスク作り

ーー私はバフを着用して走っています。

金哲彦さん:
バフの素材は目が粗いので、呼吸しやすいしすぐ乾きますね。ただ、バフは首周りが熱いです。

筆者はバフを着用してランニング

金哲彦さん:
僕はランニング用のTシャツでマスクを作るのをオススメしています。ランナーの皆さんはマラソン大会に出た時に参加賞でTシャツをもらいますね。でも多分、全部のTシャツは使っていないと思います。

ランニング用のTシャツは吸汗速乾素材なので肌触りがいいし、呼吸もしやすいし、何回でも洗えます。そこで、何年か使わずにいたTシャツの袖を切ってマスクを作るのです。この作り方をYouTubeに上げたらすごく反響がありました。

金哲彦さんのYouTube「ランニング用マスクの作り方(新型コロナウィルスCOVID-19対策として)」より

ーー確かにそれはいいアイデアですね。

金哲彦さん:
ただし、このマスクはあくまで走りながら人に飛沫を飛ばさないためのものです。また、外から入ってくるウイルスは防げないので、ランニング用と思ってください。でも、自分で作るので自分の顔にぴったりのサイズにできますし、使わなかったTシャツを利用するのでエコにもなります。袖を切った後はノースリーブのシャツになるので、夏の暑い時に着ることもできます。

Zoom飲み会ならぬバーチャルマラソン大会

ーー今回の外出自粛でランニングを始めたビギナーランナーが増えていますね。

金哲彦さん:
スニーカーなどで走っている人を見ますが、ランニングの着地時の衝撃は激しいので膝を痛めやすいです。これを機に始めようとしている人は、できればランニングシューズを履いてほしいですね。高価な物でなくていいので、靴屋さんなどで探してみてください。

また、自分が心臓に疾患を抱えているのを分からない人もいます。走り出す前には、よくウォーミングアップする、一回心拍数を上げておく、体操をする、などを心がけてください。

ーー今はグループで走るのも厳しいですが、「1人で走っていてもつまらない」というランナーはどうしたらいいですか?

金哲彦さん:
それは仕方ないですよね(苦笑)走る時に唯一できるのは、音楽やラジオを聴くぐらいですから。1人で走るのもいろいろな事を考えたりできるのでいいと思うのですが。

マラソン大会に何度も出ているランナーの間では、ネット上で行われているバーチャル大会が流行っていますね。スマホのアプリからエントリーして、2日でフルマラソンを走って結果をシェアするとか。Zoom飲み会と一緒で、皆で参加した感を得ることができますね。

音楽を聴きながら走れば気分もリフレッシュ

ランナーのストレス解消術

ーー雨の日など、家の中でランニングの代わりになるような、おすすめトレーニングはありますか?

金哲彦さん:
ランニングに匹敵するような有酸素運動は、家の中では難しいですよね。筋力の維持でしたらスクワットとか筋トレとかありますが。唯一、ダンスが近いと言えば近いですね。ランニングとダンスは、リズムに応じて身体を動かすので。

ーーマラソン大会も次々と中止となり、ランニング愛好者は私も含めてストレスを抱えている人が多いです。

金哲彦さん:
今は大会がゼロなので、ものすごくモチベーションが下がっているのはわかります。僕自身も毎月フルマラソンを走っていた時は、筋力をキープするためにたまに長い距離を走っていましたが、今は走る距離が圧倒的に少ないですよね。

ベテランランナー向けのトレーニングとして、ウインドスプリント走がありますね。「流し」と呼ばれていますが、100m程度の短い距離を全力疾走の7~8割くらいのスピードで何回か繰り返すものです。今の気温ならジョギングでは出ないような汗も「ぶわっ」と出て、ストレス緩和にもなりますよ。

多くの人が集まるマラソン大会は開催できないが…

ランニングで気持ちを前向きに

ーー徐々に緊急事態宣言が解除されていますが、都市部のランナーにはまだまだ厳しい状況ですね。

金哲彦さん:
ただ、こういう状態はいつか終わるので、ポジティブに考えることだと思います。ランニングにハマっている人って、身体に痛みや故障があっても大会にずっと出続けるじゃないですか。でも今は、自分の身体に集中する時間と割り切って、故障を治すことに専念し、再開した時に前よりもベターな状態で臨むと。実は僕も今回、脚の痛みが治ったんですね(笑)

ーーこれからもコロナと共生する日々が続きますが、ランニングと健康のあり方も変わっていきますか?

金哲彦さん:
これを機に走り始めた人は、継続はしないのかなと思います。ただ、走っている時に気持ちがいいと感じた記憶は、残るのではないでしょうか。ランニングはストレス解消や鬱の予防に役立つというのが僕の持論ですが、ランニングで気持ちが前向きになると気づく人が増えていくのでしょうね。

ーー収束したらまた仲間と楽しく走りたいですね。ありがとうございました。

【聞き手:フジテレビ 解説委員 鈴木款】