新型コロナウイルスによる外出自粛を受けて、自宅での「おうち時間」を楽しむ動きが広まっている。一方で懸念されるのが、生活リズムの乱れや運動不足による体調面の影響だ。

特に高齢者は、閉じこもりがちな日常で足腰が弱ったり、ストレスを抱えたりもしているのではないだろうか。そんなシニア世代にお勧めしたい情報がある。

超高齢社会の課題を研究する「東京大学 高齢社会総合研究機構」が、おうち時間を楽しみ、健康に過ごすための“高齢者向けの手引き”をウェブ上で公開しているのだ。

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手引きは20ページにわたり、そこではまず、高齢者が知っておくべき基礎知識として、(1)新型コロナウイルスの基本情報、(2)自宅に閉じこもることでの健康リスク、(3)健康長寿に必要な要素の3つを解説している。

この解説によると、ウイルスへの感染を恐れるあまり家に閉じこもってしまうと、心身の機能が低下して知らず知らずのうちに要介護状態に近づく可能性があるという。そして、高齢期における2週間の寝たきり生活で、7年分の筋肉量が失われてしまうとも書かれているのだ。

こうしたリスクを避けるためには、「栄養」「運動」「つながり」が大切と指摘しているが、では実際の生活ではどうすればいいのか。

高齢者の健康を保つ「お・う・ち・え」とは

手引きでは、おうち時間を健康的に過ごすための4つの心がけとして、「おいしく食べて健康に」「うちですごす時間を豊かに」「ちいきで近くで支えあい」「えがおでゆとりの心待ち」を提唱している。頭文字を合言葉とした「お・う・ち・え」で覚えておくと役立つだろう。

そしてこれら、4つの心がけを守るために日常生活でできることもまとめられている。
例えば、「おいしく食べて健康に」の関連項目では、免疫力を高める日々の食事であったり、屋内での転倒や骨折を防ぐ、足指やバランス感覚のトレーニング法などを学べる。また、認知機能が低下しないための頭のテストも出題されている。

続いて、「うちですごす時間を豊かに」の関連項目では、万が一、家族の誰かが新型コロナウイルスに感染して自宅待機や自宅療養を命じられたときの対処法なども掲載。

家庭内感染を防ぐには、もしものための「隔離部屋」の備えを家族で話し合うべきとして、玄関やトイレに近い、窓がついている、家族全員が出入りしないなどの部屋の条件も示している。

高齢者に限らず、全世代に役立つ情報も数多く盛り込まれていると言えるだろう。

新型コロナウイルスに負けないため、高齢者はどんなことに注意すべきなのだろう。そして家族や周囲の人は何ができるのだろうか。高齢社会総合研究機構の担当者に伺った。

高齢者には閉じこもりや健康悪化が懸念される

――なぜ、高齢者向けの「おうち時間」の手引きを作成した?

新型コロナウイルスの影響で生活が不活発となり、高齢者の皆さまには閉じこもりや健康悪化が懸念されるためです。身体機能だけでなく、精神面や認知機能への影響もあります。
※医療関係者はこうした健康状態の悪化を「フレイル」(虚弱)と呼びます

私たちの組織は学際的な研究チームで、高齢社会の課題解決に向けたプロジェクトを進めてまいりました。その経緯から、平時に戻ったときにこれまで通りの生活が送れるよう、この機会に何かチャレンジをして心身面で充実した生活を送ることができるよう、気を付けていただきたいことや普段の生活で楽しみながらできる工夫などをまとめました。
 

――新型コロナウイルスに関連した、高齢者の衰えのデータなどはある?

新型コロナウイルスの影響で、例年実施している研究が一時中断しています。そのため、感染拡大に伴う高齢者の健康低下の明確なデータは保有しておりません。ただ、個別の事例として「体重が約2㎏以上減少し、足腰の筋肉もかなり低下した」「週3回通っていたデイサービスが中止となったため、唯一の外出の機会が無くなり、膝痛を訴え始めた」などのお話は届いています。
 

――高齢者が自粛生活を続けると、どんな健康リスクが出てくる?

栄養面では、偏った食生活などにより、筋肉をつくる「タンパク質」やそれを助ける「ビタミンD」の不足が懸念されます。また、人と話す機会も減るため、咀嚼力の低下といった口腔機能の衰えが進行して、全身の筋肉が弱まることも懸念されます。

運動面では、外出機会の減少などにより、全身の筋肉が失われることが懸念されます。外出が減ると単に運動不足となるだけではなく、ビタミンDを活性化する日光を浴びる機会も減ります。

社会参加の面では、地域の集まり、趣味の活動などが中止・減少することで、フレイルの予防に重要な社会とのつながりが失われることが懸念されます。社会とのつながりを失うことはフレイルへの入口となるため、感染予防をした上でつながりを確保することが必要です。

このほか、自粛生活による疲れ、不安やストレス、認知機能の低下も見逃せません。これらは相互に影響しているため、ひとつの低下が全身にドミノ倒しのように影響する可能性もあります。
こうしたことがないよう、気を付けていただきたいと考えています。
 

家族や周囲の人ができること

――健康リスクに備えるため、できる取り組みや習慣などはある?

健康長寿を保ち、フレイルを予防するには「栄養・運動・社会参加」の3つの柱が重要です。これらは相互に影響しているため、三位一体でバランスよく実践することが重要です。今回の手引きでは日々の生活でできる工夫、楽しみながらできるノウハウなどを発信しているので、いくつかでも継続して取り組んでいただければと思います。

歩きましょう、運動しましょう、食べましょうというメッセージだけでは、国民への意識が変わりにくい現状があるため、実際の取り組みとしては、魅力的な要素、斬新さ、分かりやすさなどの要素が盛り込まれているかが重要だと思います。世間には健康のためのコンテンツが数多くあるので、自分に合ったものを無理のない範囲で続けてほしいと思います。
 

――自粛生活において、家族や周囲の人が高齢者にできることは?

積極的なコミュニケーションが苦手な人に「おしゃべりをしましょう」と呼び掛けても、難しいのが現状です。また一般的には、高齢者は自身のモチベーションだけでは、新たな活動を継続するのには踏み込めないものです。

そこで重要なのが、ご家族や周囲の方からの声がけです。高齢のご家族と同居、近くにいる場合は直接、遠くに住んでいる場合は電話で、話を聞いてあげてほしいと思います。高齢者の中にはインターネットを通じた情報の入手が苦手な方もいます。こうした人に日々の生活でできる楽しみや工夫を伝えてあげることも重要です。

また、地域で気遣いながら支え合う力も必要でしょう。「助けて」というサインを出すことが苦手な方もいます。買い物の帰りに様子を見に行く、電話やメールで声をかけるといったこともできると思います。ご近所、ご友人、地域全ての高齢者の自立機能や社会性、つながりが少しでも低下しないようにすることが重要だと思います。
 

「自分に合ったものを少しでも取り入れていただきたい」

――高齢者には、どんなことを心がけてほしい?

感染拡大を防止することも重要ですが、生活が不活発だと心身面の機能が大きく低下する恐れがあることを知っていただきたいと思います。自粛生活においては、感染予防というメリットもありますが、同時に過剰な自宅内での自粛生活には、生活の不活発による負の連鎖という側面もあることを認識していただければと思います。

その上で、感染拡大の防止に留意しながらできる工夫、楽しみながらできることで、自分に合ったものを少しでも取り入れていただきたいと思います。
 

――今回の手引きはどのように役立ててほしい? 

高齢者の皆さまには、現在の生活を見直して少しでも生活が変わるきっかけや、日々を楽しむヒントになればと考えています。ご家族や地域の人には、こうした情報を高齢者の方々に届け、促していただければと思います。

また、全国の自治体、企業、団体のお力を借り、配布、掲示、SNSでの発信などで幅広い人々に
ご活用いただければうれしく思います。もしも自治体・企業・団体の皆さまがご活用される際には、問い合わせ先までご連絡ください。
多くの方にご覧いただき、全国の皆さまのお役に立てればと願っております。

新型コロナウイルスに感染しないためには、外出を控えることが望ましいが、高齢者にはそれが決定的な衰えにつながることもあるので注意が必要だ。心身で気になるところがある人や高齢者がいる家族は、一度手引きを確認し、感染予防対策を徹底した上で生活に取り入れてみてはいかがだろうか。