新型コロナウイルスの感染拡大で、私たちの生活、国や企業のかたちは大きく変わろうとしている。これは同時に、これまで放置されてきた日本社会の様々な課題、東京への一極集中、政治の不透明な意思決定、行政のペーパレス化や学校教育のIT化の遅れなどを浮き彫りにした。

連載企画「Withコロナで変わる国のかたちと新しい日常」の第7回のテーマは、アフターコロナに日本が「電子政府」になるために、求められる変革だ。自民党の青年局長であり、行革推進本部で規制改革チーム座長を務める小林史明議員にオンラインで話を聞いた。

対面を作るルールは優先的に見直す

自民党の若手で規制改革を主導する小林史明議員
自民党の若手で規制改革を主導する小林史明議員
この記事の画像(6枚)

――小林議員はこれまで、テクノロジーの進展によって社会に合わなくなった、古い規制の改革に注力してきました。

小林氏:
2012年の初当選以来、自治体の情報システムの標準化や、政府のシステム調達の予算一元化、デジタル規制改革など、いわゆる電子政府の実現に取り組んできました。2019年にデジタル手続法が成立し、全ての行政手続きを棚卸しした上で、見直しを進めているところです。

――外出自粛で人々はリモートワークに舵を切っていますが、一方で「紙とハンコ」という手続きや商習慣が、その妨げになっています。党の規制改革をとりまとめる立場として、この現状をどう見ていますか?

小林氏:
今回、コロナで事実上の外出制限になったことで、デジタル規制改革の中でも特に人と人が対面せざるを得ない環境を作ってしまうルールについて、優先順位をあげて見直しています。その中で特に重要視しているのは、ただハンコを電子署名に変えようという手法論ではなく、そもそもの目的に立ち戻って、その手続きは本当に必要なのかと。その手続きが本当に必要なのであれば、必要最小限の手続きにする。その上で、厳格な本人確認が必要であれば、電子署名など法的に根拠のある手法を選択するという考え方です。

その手続きは本当に必要なのか
その手続きは本当に必要なのか

オンライン診療の緩和は期間限定手法で

――日本は行政のデジタル化の法整備は進んでいますが、一方でなかなかそれが普及しないと。

小林氏:
行政のシステム調達が、軽視されてきたためです。各省庁が単独で情報システムの調達をしていましたが、予算を一元的に管理するように変えました。こうすることで調達のノウハウが省庁を超えて広がっていきますし、余計なものを省庁ごとに作る必要が無くなっていく。これで行政と民間の間での手続きを改善できるという考えです。

――このコロナ禍で、オンライン診療が一気に進みました。こうした状況をどう見ていますか?

小林氏:
政策を実現するには、3つの要素があると考えています。1つは、社会の共通課題であること、2つ目が強烈な政治のリーダーシップによるもの、3つ目が課題に対して具体的かつ事実に基づいた実現可能な提案。オンライン診療については、一つめが大きく作用しました。コロナによって対面がリスクであるという認識が一気に広がり、これによってオンライン診療を求める世論が社会の共通認識となりました。さらに、具体的な解決策として、発達したオンライン診療システムの活用と診療報酬制度の見直しにより、実現可能な提案となり、実現することができたのです。

なお、オンライン診療の規制緩和は、期間を限定する新しい手法をとっています。これまでの規制改革は0か100で、多くのケースは結論が出るまでは全く動きませんでした。今回はまず期間限定で実践する、その上で、問題点や改善点があれば随時修正する。この手法は今後、他の規制見直しにも応用できるやり方になるでしょう。

期間限定という新しい手法をとったオンライン診療の規制緩和
期間限定という新しい手法をとったオンライン診療の規制緩和

オンライン教育はシステム標準化が重要

――休校が続くことによって、学校のオンライン教育が進んでいます。

小林氏:
オンライン教育については、昨年から全国の青年局で連携して、各自治体での端末配布とネットワーク整備に取り組んでいますが、3年間かかる計画だった端末の配布を、今回、前倒しで一気に行うことになりました。オンラインやデジタルを使った教育のそもそもの目標は、一人一人に合った教育を提供し、それぞれの能力を最大限伸ばすことです。端末を配って終わりではなく、配られた端末を利用することで得られるデータを集め、分析し、個々人に最適な教育に活用していかなくてはなりません。端末を配布するのと同時に、教育に使うシステムやデータフォーマットを標準化して、全国的に共通した処理ができるようにすることも重要です。

―一方で国会のデジタル化は、まだこれからという感じですか。

小林氏:
これについては本当に早く進めないといけないという問題意識を、多くの国会議員が党派を超えて持っており、国会改革の提案は、既に1年半くらい前から行っています。ただこの国会の運営は、与野党の利害関係も絡み、慣習も残るのでなかなか進まないというのが現状です。ここは青年局で連携し、地方議会からデジタル化を進めています。すでに総務省から、地方議会の委員会についてはオンラインで実施可能という見解が出ていますので、全国の地方議会からオンライン化の流れを作っていきます。コロナの影響で国会議員もオンライン会議が増え、デジタルツールを使うことに慣れ始めているので、国会もデジタル化出来る雰囲気が徐々に広がれば、大きな契機になると思います。

政府の予算全てに番号を振る

――今後電子政府に移行していくにあたってマイナンバーをいかに活用するかがカギとなると思います。今回10万円の給付金についても、「銀行口座に紐付けされていれば」と思った人も多いのでは無いでしょうか。

小林氏:
本来の目的に沿ったマイナンバー制度に変えていく必要があるというのは、国会議員だけでなく国民の皆さんにも認識が広がったと思います。電子政府の理想の状態というのは、ただ、手続きが電子化されて効率が良いということだけでなく、国民一人ひとりに合った情報を、行政側からプッシュで届ける状態にならないと私は意味がないと思っています。

そのためには、私個人の構想ですが、政府の予算全てに番号を振り、どの予算がどの人達に使われたのか、もしくは使われていないのか可視化する。そうすると国民一人一人に寄り添った電子政府ができると考えています。

――こういったWithコロナ時代の政策決定のあり方や社会活動の変化をどうご覧になっていますか?

小林氏:
私はここ数年、国民に政策が届いてないことを危惧しています。実は自民党青年局でこの補正予算を作る前に、全国の青年局員にウェブでアンケートをしました。その回答を見ると、「こんな施策が必要」と提案があったもののうち8割はもうすでにある施策でした。つまり政治にアクセスしている人にすら、今ある政策が届いていない。だとすれば国民に届くはずがありません。

一方で、社会課題は複雑化し、対応する政策も増えています。デジタル化が進みオンラインでのコミュニケーションがしやすくなるので、これらの政策を必要な人に適切に届けるということが、政治に対する信頼を得て、安心して暮らせる社会となる。そういうインフラ作りを政治と行政が取り組むことが、最も必要になると考えています。

テクノロジーでフェアな社会を創造する

――デジタルトランスフォーメーションの時代には、デジタルによる格差が拡大する懸念があります。

小林氏:
デジタルを活用する人としない人の情報格差は、すでに生まれています。あらためて学ぶ機会を作るなどの対策が必要です。一方、都市と地方の格差は解消されていくと考えています。私は東京と地元の広島県福山市を行き来していますが、人材に差があるのではなく、情報量の差だけの問題であると感じています。皆がデジタルツールを使い、情報の共有が容易になれば、住みたいところに住みながらも、それぞれに幸せに暮らして行くことができます。

私は政治信条を、「テクノロジーで個人を自由にし、フェアな社会を創造する」と決めています。今日のようにオンラインで取材ができれば、地理的な制約が無くなり、どの地域のメディアの取材にも対応できます。誰でも、どこにいても情報にアクセス出来て、人と会えて、フェアに機会を得ることができる。アフターコロナでは、日本はテクノロジーを徹底的に活用し、フェアな社会を作るのがカギだと思います。

――ありがとうございました。

【聞き手:フジテレビ 解説委員 鈴木款】
【取材日:4月30日】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。