2021年の3月11日、駐日米国大使館広報の立場から、日米関係を深めたトモダチ作戦そしてTOMODACHIイニシアチブについて投稿させていただきました。
漂流船が繋いだ日米の絆「トモダチ作戦」は今も続いていた ~被災地を担う若者の育成を目指して~
あれから1年経ち、プライベートでの変化があり、現在はロサンゼルスにある在ロサンゼルス日本国総領事館の領事として勤務をしております。これまではアメリカ政府の立場から、これからは日本政府の立場から日米関係を見つめていきたいと思います。
LAで見つけた日系とアフリカ系の“意外な接点”
私は日本総領事館の中では「政務」領事。様々な仕事がありますが、多様なコミュニティへのアウトリーチも業務のひとつです。
ロサンゼルスは多様性の象徴ともいえるほど様々な人種コミュニティが集まっています。日本にいると、外国人は存在が目立ちますが、ロサンゼルスでは全く目立ちません。外国人である私もすんなり雰囲気になじめ、自身の文化・習慣も受け入れられていることを感じ、それは多様性の素晴らしさのひとつです。しかし近年、その多様性の脆さが露呈されてきています。
2020年5月にジョージ・フロイド氏が警察官によって殺害された事件の後、全国的に「ブラック・ライブス・マター」運動が広がりましたが、在ロサンゼルス日本総領事館の武藤総領事は、日本として、また日本コミュニティとして、米国の素晴らしい一面である多様性の強靱さを取り戻す手助けをする取り組みをしようと呼びかけ、ロサンゼルスにあるユナイテッドメソジスト教会のアフリカ系聖職者とのパートナーシップで2020年10月にJapan & Black L.A. Initiative(ジャパン・ブラック・LA・イニシアチブ)を立ち上げました。同イニチアチブでは、戦前から戦後にかけ共に生きてきたアフリカ系米国人と日系米国人のつながりについて、世代を超えて関係を紡いでいくために様々な活動を続けてきました。
アフリカ系と日系のつながりについて少し触れたいと思います。ロサンゼルスにあるリトル・トーキョー地区は、戦前から日系米国人が住んでいる地区ですが、戦時中、日系米国人が収容所に送られたため、がらんとしてしまった同地区に、仕事を求めて西部にやってきたアフリカ系米国人たちが住み始めました。その頃の同地区の名前はブロンズヴィルだったそうです。戦争が終わり、日系米国人が同地区に帰ってきてからは、混乱はあったようですが、アフリカ系の方々は帰ってきた日系米国人を受け入れたそうです。ブロンズヴィルの人たちは強制所に送られ不在にしていた日系人たちの家屋を守っていてくれたのです。現在はリトル・トーキョーと呼ばれ、日系米国人が古くから続けているビジネスやレストランが建ち並んでいます。

戦後、リトル・トーキョーから日系米国人が移動した地区のひとつにクレンショーという地区があります。リトル・トーキョーから車で20分ほどの距離の地区です。現在はアフリカ系米国人が多く住んでいる地区ですが、日系米国人が住んでいた面影が強く残っています。以前同地区を訪れた際、「あれ?」と思うほど日本的なお庭が立ち並ぶ地区がありました。映画でよく見るような西洋的なロサンゼルスの雰囲気に東洋的な日本の雰囲気が融合しておりとても印象に残りました。


withコロナのLAで…日本人とアフリカ系アメリカ人が奏でたジャズ演奏
さて、Japan & Black L.A. Initiativeですが、立ち上げた時期がコロナ禍だったため、オンラインのイベントが続いてきましたが、昨年末から米国では徐々にイベントに対する制限が解除されてきたのを受け、今年3月には日本人とアフリカ系米国人で構成されるジャズグループを招待し、米国で生まれ日本でも戦前から愛されているジャズをテーマにしたレセプションを開催しました。


人類共通の言語である音楽を参加者一同で楽しんだ同イベントは、アフリカ系と日系両コミュニティが共に住んだ先述のリトル・トーキョー地区で行われました。また、5月には、日本に造詣の深いスティーブン・ブラッドフォード加州上院議員を招待し、今後両コミュニティがどのように絆を強くしていくことが出来るかにつきお話ししてもらいました。


日本人が多く住むトーランス市やガーデナ市を代表していて、自身もガーデナ出身のブラッドフォード上院議員は、20年以上公選職を務められているベテラン議員で、地元はもとより、カリフォルニア州全体でも影響力を持たれています。子供時代、祖父母が東京の米軍基地に勤務しており、夏休みには長い期間日本で過ごしたそうです。滞在時、ご祖母が周りの人にお辞儀しているのを見て、人種差別があった米国南部で生活したこともある議員ははじめ「黒人だから頭を下げているのか?差別か?」と憤りを感じたそうなのですが後から相手を敬う仕草なんだと知り、習慣の違いを知り感動したそうです。
ブラッドフォード議員を始め、同イベントを主催した武藤総領事や他の参加者は、先入観を取り払い、お互いを知ることがコミュニティ間の絆を深めることにつながるので、自身の常識やコンフォートゾーンを抜け出して学び、開拓し、つながっていくことが大切だと強調しました。
未来を担うアフリカ系若手リーダーたちが訪日
そして7月16日、同イニチアチブ始まって以来の大きな事業のひとつであった、アフリカ系若手リーダー・カケハシプロジェクトの一行が訪日しました。この事業はパンデミック以前から企画していたもので、コロナ禍の入国制限でやむなく延期。今年6月に外国人の入国が再開したことを受け、2年越しの7月にようやく実現しました。
外務省が実施しているカケハシ・プロジェクトとは、将来を担う人材に日本の社会や文化などを理解していただく訪日プログラム。コロナ禍で延期していたカケハシ・プロジェクトですが、3年ぶりに再開し訪日した最初のグループでした。人口400万人を有する大都市・ロサンゼルス市で市議会議員を務めるマルキース・ハリス・ドーソン氏が当地の5名のアフリカ系若手リーダーたちを引き連れる形で訪日することが決まりました。若手リーダー5名はそれぞれの分野で影響力をもって当地で活躍しており、将来のロサンゼルスを担うであろうメンバー。ハリス・ドーソン市議は市長及び15名の市議で構成される市議会のなかで、若く、将来ロサンゼルス市政を担っていく存在で、同市のアフリカ系コミュニティに根ざした活動をしていらっしゃる素敵な政治家です。

多様性の代名詞とも呼べるほど様々な人種やコミュニティが集まるロサンゼルスですが、参加者は、多様性に関する日本の取り組みやまちづくり、コミュニティでは人がどのようにつながっているのかなどに興味を持つ人が多く、東京や大阪で様々な場所を訪問しました。
中でも、日本で最も外国人が多い東京都にあって外国人が参加しやすいコミュニティ作りや多世代が交流できるまちづくりに取り組んでいる渋谷区や、大阪で「ホームレス状態を生み出さない日本の社会構造をつくる」をビジョンとして抱き、ホームレスの人々の社会復帰に向けた取り組みをしている認定NPO法人ホームドアなどを訪問し、ロサンゼルス市におけるホームレス問題や住宅問題などに適用出来る部分があるかなどについて話し合いました。



また、松川るい参議院議員を訪問し、日米で女性の政治家を増やす重要性や、米国で増えている銃事件を受けた規制についてなど、社会問題について話し合いました。
数々のミーティングや訪問をこなし、多忙な日々でしたが、訪日の8日間で日本という国を理解していただいたとは思いません。ただ、何気ない日本の考え方や習慣、日本人の振る舞いに触れ、不思議に思ったり、違和感などの感情を抱いたりしたこともあったでしょうし、心地よく感じ実践したいと感じたものもあったと思います。そのようなロサンゼルスの日常とは違う日本の特徴を掴んでもらえたなら訪日が成功したと言える気がします。
このイニシアチブに関わるまで、アフリカ系の方々とのつながりを深く考えたことはありませんでした。しかし、戦時中や戦後の大変な時代を共に生きた日系とアフリカ系のつながりは、多くの人に知ってもらうことでアメリカにおける日本のプレゼンスを高めるきっかけとなり、かつ日本での差別や偏見撤廃につながる機会になると思います。また、将来の日米関係を担う日本の若者にも、アメリカとのつながりや縁を感じながら、互いのコミュニティの価値観を共有し、反映し合うことができれば、日本にももっと多様性が広がり、日本とは違う価値観を体験してみたいと思える若者が出てくるのではないかと期待します。
(在ロサンゼルス日本国総領事館 見目 宏美)