シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。

今回は耳鼻咽喉科の専門医、聖マリアンナ医科大学 耳鼻咽喉科の肥塚泉特任教授が、楽しいはずの旅行について回る「乗り物酔い」について解説。子供のころ「乗り物酔い」しやすくても、大人になると治ってしまうのは一体なぜなのか?乗り物酔いの原因、予防法や対処法などを解説する。

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乗り物酔いの原因

一番理由として大きいのは、近年の乗り物が速くなったことです。

我々はもともとは車や電車、飛行機に乗っていなかったので、加速度に体がさらされていなかった。それがこういった速いものに乗ると脳がびっくりしてしまって、いわゆる危険回避、これはちょっと危ないぞということで一連の反応が出ます。

ただ、これだけでは説明ができなくて、用語としては感覚混乱といいます。

例えば、車や飛行機に乗って移動しているときに、目からの情報、耳の奥の方には三半規管耳石器という感覚器があります。それから椅子に座っているときは、お尻の方からの入力。立っているときは足の裏からの入力があります。これらは体性感覚といいますが、この3つの感覚を常に比較しています。

ところが電車なんかで、進行方向と反対の席に座ったときは、景色が後ろから前に流れていくわけです。それから後ろから前方向に移動するということは、普通はないので、そういうことがあると「あれ?」と思ってしまい、気分が悪くなることがあります。

地震酔いという言葉がありますが、日本では何回か大きな地震が起きていますが、地震の際は自分の体と景色が一緒に揺れます。しかし普段の生活では体が右に行ったら景色は左、体が左に行けば景色は右に行きます。ところが地震では景色と自分の体が一緒の方向に動くわけです。

これが続くと、景色と自分の体が反対になる現実に戻った時、気分が悪くなってしまう。感覚が混乱するということです。

それから映画で気分が悪くなる人がいます。

飛行機に乗っているシーンは、実際は景色が動いたり、垂直上下に動いた時は自分の耳の奥にある平衡感覚を司る部分、それから座っている席のお尻の部分、あるいは体全体にいろいろな情報が加わるのですが、映画館で観ると目だけの情報なんです。これで脳が混乱して酔ってしまう。これらが感覚混乱という考え方です。

これが一連の乗り物酔いの大きな原因の1つとして考えられます。ある意味、そのような危険があった時に回避するための1つの生態の表れです。

まことしやかに言われていますが、毒物排出説というのがあって、動物が昔毒物を口にしたときには体が震えるんです。ですから吐き出した方が良いという回避の反応が残っているという説もあるくらいです。

また、これとは違って、車などでガソリンスタンドに行ってガソリンの匂いをかぐと気分が悪くなる。前日寝不足だったら酔いやすくなるなど、非常に体調も関連しますので、気持ちの問題も含め、いろいろ複雑なバックグラウンドがあります。

乗り物酔いしやすい年齢と症状

乗り物酔いの症状は多くの方が経験していますが、吐き気(嘔気)、それがひどくなったら吐いてしまう、それから冷や汗(冷汗)という冷たい汗が出る、場合によっては眠くなってしまうといったものです。

酔いという症状は、小学校入学前の小児期で多いです。学童期ぐらいになってだんだん良くなり、だいたい7割くらいの人が思春期あるいは成人になるまでに治ると言われています。

反対にいうと大人になっても30%が引きずりますが、感覚混乱でいうといろいろな情報のズレが生じていることにいかに早く慣れるかということです。その慣れは脳で起こっていますから、その人の個性の延長ですが、いろいろとズレた情報に対して早く慣れることができるか、できないか、という能力というよりは個性になります。

例えば、ご両親が非常に酔いやすい方だと、お子さんも酔いやすいという傾向がありますが、それは遺伝というよりも、親自身が酔う乗り物に子供を乗せないので、訓練の機会が少なくて酔うのではと思います。

もちろん先ほども言った、慣れやすい、慣れにくいという面で遺伝的な要素もあると思いますが、科学的には証明されていません。

最近は公園の遊具が危険回避の観点から無くなってきていますので、現代の子供達は酔いやすくなる可能性が十分にあると思います。

乗り物酔いの慣れと予防法

慣れれば良いということで、具体的には釣りに行くとき船を借りたりすると思います。最初は船酔いが相当きついですけど、だんだんと慣れてきます。船の訓練生も最初から船に乗るわけですが、やはり最初はみんな酔います。そして乗っているうちにちゃんと慣れてくるんです。

人間の脳は可塑性といいますが、いろいろな状況に対応できる能力が非常に良くできているので活用しなくてはいけません。

それはあくまでも学習なので、例えばある薬を飲んで成績が上がるならみんな飲みますが、そんなものは無いので、これは練習するしかない。楽しい気持ちで何回か乗っていくのが一番の予防法になると思います。

良いの原因は、加速度が1つのファクターですから、車や電車はあまり揺れる場所はやめた方がいいと思います。

そして、自分が今進んでいる方向に合目的な景色を見る。前に進んでいるなら前を見る。あるいは右を見れば左から右に景色が流れている。左を見れば右から左に流れている。これは非常に正しいわけです。

酔うときは脳の中で情報が混乱しているわけですから、対応できるように体調を良くしておく。
前日良く寝ておくとか、吐き気などで胃がムカムカするわけですから、胃が空っぽだとムカムカしやすいので朝ご飯をちゃんと食べて体調を整えておくことが非常に重要だと思います。

乗り物酔いの対処法

酔った時は、よく考えればその原因はわかるわけですから、本を読んでいるのならやめる、そして今自分が動いている状況に理に適った景色の見方をする。場合によっては目からの情報を遮断するということで、目を瞑って寝てしまってもいいです。

乗り物酔いの薬もいろいろあります。

予め飲んでおくと非常に予防効果があるので、心配であれば市販品で結構ですから乗り物酔いの薬を飲んでおいた方が良いと思います。少し眠くなりますが、移動の途中経過よりも行ってから楽しむという意味ではその方が良いと思います。

肥塚泉
肥塚泉

肥塚 泉(こいづか いずみ) 昭和31年7月15日生 大阪府
略歴
昭和56年 聖マリアンナ医科大学卒業 大阪大学医学部耳鼻咽喉科入局
昭和63年 大阪大学医学部耳鼻咽喉科 助手
平成 2年 米国ピッツバーグ大学医学部耳鼻咽喉科留学
平成 4年 大阪大学医学部耳鼻咽喉科 学内講師
平成 6年 東大阪市立中央病院耳鼻咽喉科 部長
平成 7年 聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科 講師
平成 9年 聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科 助教授
平成12年 聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科 主任教授
令和 4年 聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科 特任教授