日本では4月末から5月頭の時期にゴールデンウィークの連休となるが、韓国でもこの時期に祝日が集中していて「黄金連休」と呼ばれている。今年は日取りが良く最大6連休が取れるのだが、こういう年を韓国では「お釈迦様がやさしい年」と呼ぶのだという。連休の初日が4月30日の「お釈迦様の誕生日」だからこう呼ぶのだと、韓国の知人が教えてくれた。

日本では新型コロナウイルスの感染拡大防止のためにゴールデンウィークも外出自粛が強く求められている。では日本同様に連休を迎えた韓国はどうなのか?取材のため空港に向かった私が見たのは、お釈迦様もびっくりするような光景だった。

客でごった返す韓国の空港…観光業界に復活の兆し

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4月29日午後、ソウル金浦空港の国内線出発ロビーに行ってみると、大きな荷物を持った人でごった返していた。閑散とした日本の空港とは別世界のようだ。韓国政府は5月5日まで不要な外出を自粛するよう呼びかけているのだが、どうやら守られていない。4月中旬頃から韓国の1日あたりの感染者増加は10人前後に減少していて、30日には遂に感染者がゼロとなった。多くの市民が警戒を緩めているのだ。家族連れに話を聞くと「大型連休くらいしか実家に帰れない」とのことで、南部の釜山に帰省するのだという。連休中に帰省する人が多いのも日韓で共通しているが、「帰省しないで」との呼びかけが続く日本とは温度差を感じる。韓国で最も多い感染者が出た南部の大邱市出身の知り合いも、連休中に帰省すると嬉しそうに話していた。

空港にいたのは帰省客だけではない。年配の夫婦に話を聞くと、国内屈指のリゾート地・済州島へ旅行に出かけるという。「感染拡大前に計画した旅行で、キャンセルするか悩んだ。ただマスクをしていれば大丈夫だと思う」と笑顔を見せた。長期間にわたる自粛生活からの「解放感」を味わっているかのようだ。

こうした動きは一部だけのものではない。韓国交通研究院が4月中旬に2000世帯を対象に行ったアンケート調査では、4割近い世帯が連休中に旅行などの外出を計画している。こうした人々の意識の変化を、国際線の欠航による損失に苦しむ航空各社は見逃さなかった。大韓航空は、今月中旬から済州島行きの便を1日10便から18便に増便。他の航空会社も追随し、連休中の国内線運航は新型コロナウイルス感染拡大前の約80%に相当する1日約1000便まで回復した。

ホテル業界にも回復の兆しが出ている。済州島の大手ホテル関係者によると、連休中の予約率は前年比70%程度まで回復していて、需要は戻ってきているという。
新型コロナにより大打撃を受けてきた観光業界にとっては朗報だ。しかし、急激な人の移動の増加は、本当に新たな感染拡大を引き起こさないのだろうか?

観光地は戦々恐々…

島の守り神とされる「トルハルバン(石のお爺さん)」もマスクをして警戒を呼び掛ける
島の守り神とされる「トルハルバン(石のお爺さん)」もマスクをして警戒を呼び掛ける

客を受け入れる観光地の自治体は戦々恐々だ。済州島の行政トップであるウォン・ヒリョン知事は島への渡航自粛を強く呼びかけているが、連休中には1日に2万~3万人の客が島に押し寄せる見通しだ。地元自治体は入島者への検温を実施するほか、レンタカー利用者に移動経路を記録するよう求めるなど、できる限りの対策を取るという。ただ無症状感染者の渡航を止める事は出来ず、海外渡航歴についても自己申告頼みで実態把握は難しい。観光客の大量流入による感染第2波発生の懸念は消えていない。

春先の済州島 島の各地で菜の花が咲き誇る
春先の済州島 島の各地で菜の花が咲き誇る

緊急事態宣言解除のタイミングは?韓国の結果を参考に

私が住むソウルでは、最近新規感染者が0になる日もある。市民が気を緩める気持ちは分からなくはない。また感染拡大が中国に次いで早かった韓国では、外出自粛期間が他国に比べて長い。自粛疲れはたまっている。そういう状況で「お釈迦様のおかげ」の大型連休が回ってきたために、韓国人の解放感が弾けたのだろう。韓国政府は外出自粛を呼びかけているが、多くの市民には届かなくなっている。

4月中旬に撮影したソウル弘大(ホンデ) すでに多くの若者が街に繰り出していた
4月中旬に撮影したソウル弘大(ホンデ) すでに多くの若者が街に繰り出していた

国全体の新規感染者が1日10人程度の低水準となり、それが10日ほど経過したタイミングで大規模な人の移動が起きている韓国の事例は、日本にとって参考になりうる。連休から2週間後に感染者は減るのか、それとも増えるのかは、日本政府がいつ緊急事態宣言を解除するのか判断する際の検討材料の一つになるだろう。万が一、ここまで感染を抑えた韓国ですら、連休の人の移動で感染の第2波が起きてしまったとしたら、日本の緊急事態宣言解除をめぐる議論は、より慎重さが求められる事になる。韓国がこの連休をどう乗り切るのかは、私たちが普段の生活を取り戻すための重要なヒントになるかもしれない。

【執筆:FNNソウル支局 熱海吉和】

熱海吉和
熱海吉和

FNNソウル支局特派員。1983年宮城県生まれ。2007年に仙台放送に入社後、行政担当などを経て2020年3月~現職。辛いものが大の苦手で韓国での生活に苦戦中。