今も新型コロナウイルスによる危機的状況が続いている中、ガンの免疫研究でノーベル賞を受賞した本庶佑教授を迎え、本庶教授が自身のホームページで発表してきた緊急提言の内容も含め、今必要とされる対策についてうかがった。
医療現場での感染拡大が「一番心配していること」
この記事の画像(7枚)竹内友佳キャスター:
がんの免疫治療薬オプジーボにつながる発見で2018年のノーベル医学・生理学賞を受賞した、京都大学大学院特別教授の本庶佑さん。ご自身のホームページでも緊急提言を出されましたが、いまコロナとの戦いの状況は。
本庶佑 京都大学大学院 特別教授:
提言を出した後、非常に厳しい戦いをなんとか持ちこたえている。戦いに例えるなら、一か所突破されれば全面退却に近い状況。
竹内友佳キャスター:
院内感染が次々に発生している。医療現場での感染拡大状況をどう見ますか。
本庶佑 京都大学大学院 特別教授:
私が一番心配していること。戦争でいうと一つの小隊がころっとやられる状況。こういうことが起こらないためにPCR検査を増やし、医者に来る前に陽性かどうかがわかるようにすれば、医師もきちんとした対応ができる。病院の庭で検査するとか、もっと数を増やしていかなければいけない。
現状のPCR検査は「断然足りない」
竹内友佳キャスター:
PCR検査の数は、現状ではまだまだ足りませんか?
本庶佑 京都大学大学院 特別教授:
断然足りない。一桁増やしていい。これは技術的問題ではないと私は思う。保健所でなく、現場医師が受けるべきだと判断すれば検査を受ける仕組みがいい。
反町理キャスター:
PCR検査の技術者数の不足は?
本庶佑 京都大学大学院 特別教授:
実際、この検査は大学研究室でもできる。試算したが、技術者3人の組で1日に100検体はこなせる。1万の検査のためには技術者300人。9時から17時勤務で、と考えると全く問題はないし、僕は制度の問題だろうと思っています。
反町理キャスター:
都内某病院でPCR検査を行ったところ、コロナ以外の患者さんから5〜6%陽性が出た。
本庶佑 京都大学大学院 特別教授:
私は想定内と思う。だが、戦端がどこで開かれているのかわからずに鉄砲を撃てないとなれば医療崩壊は近い。実際5〜6%いるならその病院は危機的状態。もっとがんばって頂かなければ。東京だけでなく、医師会を通じて検査を全国に広げていただけると役に立つと思います。
全体像を把握するためにPCR検査を増やすべき
反町理キャスター:
コロナと向き合う中、敵がどこにどれだけいるかわからないまま戦っているのが現状?
本庶佑 京都大学大学院 特別教授:
そうです。PCR検査を増やすことに反対している方々がある。「検査で陰性だった人に感染していないというお墨付きを与え、いわゆる偽陰性を増やすのは有害である」というご意見。「ないことは証明できない」というのは科学の基本的な考え方で、PCR検査でも「ない」ということには何の意味もない。そこを誤解されている。PCR検査は陽性の場合だけを追いかけるもの。
反町理キャスター:
検査することによって陽性の人や過去の感染履歴がある人を正確に把握すれば致死率が下がる、という理解でよいですか。
本庶佑 京都大学大学院 特別教授:
そのとおり。ただこれから重症者が増える可能性はあります。10%が感染しているようなら致死率は低くなる。すると感染しようがしまいが気にせず、重症者の治療へフォーカスをあてるという戦略に切り替える必要がある。
反町理キャスター:
PCR検査の目的は重症者の経過観察のためだから広くは行わない、との説明をこれまでは受けている。そうではなく、ウイルス=敵の全体像や分布状況を把握するためにPCR検査すべきだと?
本庶佑 京都大学大学院 特別教授:
厚労省の目的は私の考えと初めから違うと思う。私は当初から、戦況を見極めるためという目的で使うべきだという主張です。
まずは治療、その次にワクチン
本庶佑 京都大学大学院 特別教授:
これまで感染予防・隔離が話題となっているが、非常事態宣言を出した以上、次に目指すのはいつ脱出するか。つまり出口戦略を明確にしなければ「いつまでやるのか」という話になる。感染はゼロにはならない。1桁になるまでというなら今年中に終わらないかもしれない。みんなが安心できる状態は、死人がそれほど出ないこと。多くの人が不安を抱いているのは、たくさん死人が出ているヨーロッパ・アメリカのようになる恐れから解放されること、つまり治療の問題。
ワクチンはその次の段階。重症者にいまワクチンを打っても間に合わない。うまくいっても1年以上かかります。インフルエンザやこうしたタイプのウイルスのワクチンはこれまであまり有効なものはできてない。エイズやインフルエンザのワクチンはあるが、効いていると思います?
反町理キャスター:
僕は毎年打っていますが……。
本庶佑 京都大学大学院 特別教授:
この手のウイルスのワクチン開発は、経験から言って非常に難しい。ですから私は治療が先だと思います。新薬開発は間に合わない。既存のアビガンやHIVの薬など全部使うべき。簡単に言うなら、そういった治療の機会がもっとあると啓発し、「死なない状況」を作れば、自粛なんてすぐにでもやめていいんですよ。
本庶佑 京都大学大学院 特別教授:
法律的には、認可された薬は医師の裁量で使っていい。適用外使用で保険適用ではありませんが、亡くなるかどうかの瀬戸際でなぜ使わないのか不思議。厚労省もガイドラインで示すべき。
反町理キャスター:
しかし非常に高価な治療になる。財力のある人から救われることになってしまうのでは?
本庶佑 京都大学大学院 特別教授:
製薬企業主導の治験は基本的に無料。そこに手を挙げて参加できるシステムにすれば広がっていく。
反町理キャスター:
今は手を挙げて参加できるシステムにはなっていない?
本庶佑 京都大学大学院 特別教授:
正式な治験の場合は非常に厳しい制度設計をしますから、普通は手を挙げて参加することはできない。
専門家会議の中に治療の専門家が少ないのが問題
本庶佑 京都大学大学院 特別教授:
ひとたび感染が始まり火の手が上がっているので、感染をゼロにはできない。いかに治療し死者を減らすか。しかし専門家会議の中に治療の専門家が少ないのは非常に問題。これまで出口戦略という見方で語られておらず、いつどこでやめるかという議論は不可能。やはり治療にきちんと注力し、多くの人が治るんだとなれば自然に出口が見えてくる。
反町理キャスター:
本庶さんが考える出口戦略とは?
本庶佑 京都大学大学院 特別教授:
感染はあるが死人は一定の数に抑えられる、感染防御は続けるが外に出て経済活動をやろう、という形。これを目指さなければいけない。いまの専門家会議に任せていたら議論ができず、出口戦略は到底描けない。
竹内友佳キャスター:
この出口戦略を選ぶには、政治家にも国民にも覚悟が必要ですよね。
本庶佑 京都大学大学院 特別教授:
死ななければ感染症は怖くない。死ぬか死なないか。人間は一定の数必ず死ぬので、その率が著しく逸脱していなければ拘束しなくてもいい。
(BSフジLIVE「プライムニュース」4月22日放送)